七竈

菱沼あゆ

文字の大きさ
72 / 258
犯人

どうして、急に

しおりを挟む
  

「七月ちゃん!

 あれっ? 七月ちゃんっ!?」

 隆彦は会議中だと言うのに、スマホに向かい、何度も叫んでしまう。

 七月の声が遠くなり、何か……

 部屋に誰か……。

 この声は――

 三村くんだろうか?

『下りるね!』
と叫ぶ七月の声。

『あっ、ちょっと待ってよ!
 矢部さんってば! もうっ!』

 三村の声が遠ざかる。

 七月はスマホを握ったまま、走り出したようだった。

 その緊迫した様子に隆彦は立ち上がり、叫ぶ。

「七月ちゃん!
 七月ちゃん! なにしてるの!

 ひとりで行かないで!」

 槻田先生は居ないのだろうか。

 まずいな、と隆彦は思う。

 七月ちゃん、結構無謀なところあるから。
 おっとりした三村くんでどうにかなることならいいが。

 電話の向こうから走っている感じがなくなった。

 エレベーターに乗ったのかもしれないが。

 あまり叫ばない方がいいかもしれない。

 静かに犯人に近づいているのだとしたら、まずい。

 七月は電話を切るのを忘れているようだった。

 いや、或いは、何かあったときのために切らないでいるのかも……。

 周囲の視線も気にならず、立ち上がったまま、己れのスマホを見つめていると、背後から声がした。

「随分、必死に呼んでいるが。
 君の彼女はいつから七月という名前になったのかな」

「ゼンショウさん……」

 仙石善章せんごく よしあきが立っていた。
  



「矢部さん! ちょっと待って!」

 七月はさっさとエレベーターで下りてしまったらしく、三村は開かないエレベーターのボタンを連打していた。

 あまり大きなマンションではないので、これ一基しかない。

 駆け下りた方が早いか。
 そう思い、向きを変えたとき、見た。

 こちらに向かい、這ってくるモノ。

 死にかけた人……?

 最初はそう思った。

 苦しげに這いよってくる髪の長い女。
 白っぽい服を着ているように見える。

 だ、大丈夫ですか、と言おうとしたとき、近くの部屋のドアが開き、若い男が出てきた。

 男はエレベーターのボタンに手をかけたまま固まっている自分を見、
「こんばんは」
と笑いかけてきた。

 そのまま女を踏んでこちらに来る。

 踏まれた女も気にしていないらしく、一定のペースを保ったまま、こちらに這い寄ってきていた。

 これ――

 もしかして…… 霊?

 これが霊!?

 めちゃめちゃリアルなんだけど!

 なんで急に見えるように――
と考えかけ、そんな場合ではないと三村は気づいた。

 考えている間にエレベーターが戻ってくる。

 慌てて男とともに乗り込み、七月を追った。

 伸ばした女の手がエレベーターの中に入ったが、パン、とそのまま扉は閉まり、エレベーターが動き出す。

 女は中にまで入ってくることはなかった。

「いやあ、暑いですね~」

 愛想のいい人なのか、単に密室で他人と向き合って黙り込んでいるのが耐えられない人なのか、男は笑顔でずっと話しかけてくる。

 三村は、今の光景を思い返しながら、ただ、
「はあ……」
と生返事だけを返していた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...