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犯人
七竈の白い花
しおりを挟む電柱の下、ぼうっと立っている影――。
七月はマンションの入り口から、それを窺っていた。
この人、誰なんだろう。
そして、何故、此処に……。
影は動かない。
何をしているのか、自分には、その顔を見ることもできない。
七月は動かないそれに向かい、踏み出す決意をした。
道まで出たが、影はこちらを振り返る様子もなかった。
なにしてるんだろう、この人。
私のとこに来たわけじゃないのかな。
そう思った瞬間、影が向きを変えた。
思わず、後ずさりそうになったが、何故か影も後退する。
だが、後退した影は、思い直したように、こちらに向かって来た。
首に何かが触れた。
手だ。
ぐいぐいと、それは自分の首を締め付けてくる。
見えていないので、不思議な感じだった。
突然、首許が苦しくなったような、そんな感じ。
意識が遠ざかりそうになる。
暗闇に一面の白い花が見えた。
七竈の白い花――。
自分を苦しめるそれが頭に浮かんだことで、意識がはっきりとした。
見えない手を掴み、振り解こうとする。
指先が相手の手の甲を引っ掻いた感触があった。
薄く目を開ける。
影しか見えないはずなのに、空間に浮かんだ紅い血の筋が見えた。
「矢部さん!」
三村の声がして、手が緩む。
影を突き飛ばすと、ふわっと柔らかな感じがあった。
三村の言っていたダウンのコートのせいだろう。
その瞬間、きらりと光るものが見えた。
血が流れた周りだけが見えるようだった。
肌の色と、それに続く、銀色のもの。
自分に向かって、振り上げられている。
三村が肩から影に向かい、体当たりをしようとしたが、それより早くに、影は吹き飛んだようだった。
肩透かしをくらった三村はそのまま、塀に激突する。
「三村くん!」
と言っている間に、影は居なくなっていた。
「大丈夫?」
膝をついて、抱き起こそうとすると、三村は打った肩と頭をさすりながら叫ぶ。
「見た!」
「顔を!?」
と訊くと、
「それもだけど、今、君を襲っていた男がビンタされる瞬間をだよ」
「男だったのね」
「……引っかかるの、そこだけ?」
とやっている間に、槻田が来た。
思わず、
「遅い~っ!」
と文句を言うと、
「お前が俺を置いて行ったんだろうが!」
と言い返しながら、槻田はこちらの耳を引っ張ってくる。
「いたた……。
でも、犯人、わかったかもよ」
「犯人?」
「麻里さん殺しの犯人。
それと、凶器もね」
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