七竈

菱沼あゆ

文字の大きさ
197 / 258
神隠し

何故、消えるっ!

しおりを挟む

「また消えた!」
と槻田の後から追いついて来た三橋が叫ぶ。

 そのままの勢いで、
「こっちも消えた!」
と佐竹の居た場所を見る。

 トイレの霊も佐竹も居なくなってしまった。

「何故、消えるっ!」

 叫ぶ三橋に、早くに戻ってはいたが、膝に手をつき、息を切らしている三村が言った。

「そりゃ、霊だから、消えたり現れたりするよ~」

 此処は生きてる人間のテリトリーじゃないし、と言いながら、顔を上げ、額の汗を拭っていた。

 七月は校舎の向こうを見つめ、

「……でも、生きた人間は消えないわ。
 この場所でもね」

 そう言い、歩き出す。

 あの男が向かったのはこちら。

 七竃の方角だった。

 校舎の横を通るとき、久美と出会った。

 真っ直ぐに前を見つめ、歩く自分を振り返りながら、

「……ナナツキちゃん?」
と不安そうに呼びかける。




 七竃の下には誰も居なかった。

 グラウンドを見回す。

 さっきの男の姿はない。

 自分が追わなかったのだから仕方ないが――。

 生きた人間は消えない。

 きっと何処かに潜んでいるはずだ。

 横に、めんどくさくなったら、消えられるはずのものが消えずに立っているのに気がついた。

 ちらとそちらを見ると、狩衣姿のその男は言う。

「かかって欲しい呪いはかからなかったり。
 かからなくていい呪いはかかったり。

 思い出さなくていいことは思い出したり。
 思い出したいことは思い出せなかったり。

 ま、誰も彼もいろいろだな」

「なにそれ、慰めてんの?」

 月光を透かす七竃を見たまま、白い顔でそんなことを言う男を見上げる。

「出て来るタイミングを失った奴も居るし」

「ああ……」
と返し、少し笑った。

「今、居る?」

 パンダ佐藤は、こちらの背を見、
「……居ないかもしれないな」
と言った。

「そう――」

 まさか。
 あれを追って行ったのだろうか。

 あの月を背にした人影。

 少し不安に想う。

 もう死んでいる人間だから、追って行っても害はないはずだが。

 相手は、此処では生者以外のものに対しては無力なはずだし。

 七月は振り返り、背後に立つものに訊いた。

「安西先生」

 ひっ、と久美は何故か霊に出会ったとき以上にビクついた顔をする。

「今、誰かとすれ違いませんでしたか?」

「あっ、えっ、ごめんなさいっ!
 誰も見なかったですっ」

 先生……

 何故、敬語?

 ちょっと自分の態度が怖かっただろうかと反省し、軽く咳払いした。

 久美は年長者であっても、こういう場所や状況に対しては、初心者なのだ。

「すみません」
と言うと、久美は慌てて両手を振る。

「いっ、いいのいいのいいのっ」
と早口にまくし立て。

「こちらこそ、お役に立てなくてごめんなさいっ」
とまた謝られてしまった。

 ……私、本気で反省すべきだな。

 ひとつ息を吸って、気持ちを切り替えた。

 冷静になろう。

 ちょうど今、自分が思っていたことを追いついた三橋が言ってくる。

「何がどうなってんだ、おい。
 ナナツキ、一から説明してくれ」

「説明っていうか。
 一から整理して、考え直してみようか。

 私にもよくわからなくなってきたから」

 そう言いながら、わかっていた。

 わからないのではない。

 ただ、そこにある事実を認めたくないだけだと。



『七月、俺を忘れたか―』
 
 
 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...