七竈

菱沼あゆ

文字の大きさ
198 / 258
神隠し

犯人は俺だ――

しおりを挟む
 
 
「まず、トイレの霊の人の事件があったわけよね?」

 本当はそこが始まりではないのだろうが。

 今回の事件をまとめるのには、やはり彼の話からするべきだろう。

「トイレの人は今現在、霊として存在している。
 と、いうことは、死んでるのよね。

 ま、死んでないこともあるけど」

 生霊がうろつくこともあるので、必ずしも断定はできないが。

「私たちは彼を成仏させるためにいろいろ調べてた。
 そして、彼は殺されたんじゃないかと思ったんだけど――」

『……殺されそうになったんじゃない。

 殺そうとしたのは俺だ。
 襲いかかったのは、俺だ』

 犯人は俺だ――
と呟き、彼は消えた。

「犯人は俺だ、か」

 そう彼の言葉を口の中で繰り返すと、三橋が言う。

「もしかして、殺されて、木の下に埋められてるのは、さっきの男の方とか?」

「違うんじゃない?
 あの人、生きてたし」

「そうだな。
 あの男が埋めてたな」
とパンダが言う。

「そうよ。
 あんたは見てたんじゃないの?」

「見ていた。
 だが、埋めるのを見ていただけだ。

 その前に何事があったのかは知らん」

 ま、そりゃそうだろうが……。

「でも、トイレの人は自分が犯人って言ってたわ。

 それに、あのアクションと――

 あの男が言った台詞も気になるわ」

 アクション? と三村が訊く。

「……私の後ろに白い人影があったでしょう?
 って、みんなには見えてなかったのか。

 なんらかの理由で、実体化したくなかったのか、出来なかったのかわからないけど。

 あれ、」

「英嗣だろう?」
と槻田が言う。

「そうなのよ。
 何かを手に持って、振り上げたり、突いたりするような仕草を何度もやってた。

 彼にだけ見えている何かがあったんじゃないかと思うの。

 恐らく、あの――

 トイレの人に」

 槻田にもあの白い影は見えていなかったのだろうが。

 自分に憑いていて、何事か教えてくれるといったら、英嗣に違いないと踏んだのだろう。

「トイレの人の背後で何かを振り上げたり、突いたりしてたから、あの人がやられた、と見ることもできるけど。

 でも、たぶん――

 そっと教えてくれたところを見ると、それは、トイレの人がやったか、やろうとしたことなんじゃないかと思って」

「トイレの霊が誰かに襲いかかったって言うのか?

 まあ……年がら年中、ぶっ殺すぞ、とは言ってそうだが、実行しそうには見えなかったけどな」

 三橋はしばらくあの霊と居たからこそ言える感想を述べ、小首を傾げていた。

「そうね。
 口ではわめき立ててるけど、それをすぐさま実行に移すほど血気盛んではない感じ。

 ただ、あの男が言ったのよ。

 トイレの霊に向かって、
『お前のナイフは此処だ』って。

 あのナイフは―― 本物だった」

 月に輝くそれが振り上げられた瞬間を思い出しながら、七月は言った。

「じゃあ、もしかして」
と三村が言う。

「あのトイレの人が、あの男を襲おうとして、返り討ちにあったとか?」

「そういう可能性もないこともないわね。
 それより気になるのが……」
と続きを言おうとしたとき、女の声が割り込んで来た。

「殺人事件なんでしょ?
 これ以上、首突っ込まない方がいいよ」

 久美だった。

「私たちじゃ、どうにもならないよ。
 警察を呼びましょう?」

 みんななんとなく、校長も、槻田を見る。

 既に居るけど、そういう意味では、あまり役に立たないような……。

「先生」
と久美に向き直る。

 言い方に気をつけなければ、この人にパニックになられるのが一番怖い、と思いながら、七月はその両手を取った。

「此処は通常の空間とは違います。
 警察の応援は呼べません」

 ゆっくりと子どもをさとすように言ってみたが、久美は、

「この世界に警察はないの!?」
と叫び出す。

 三橋たちは、おいおい、という顔をしたが、ん? と思った。

「……そういえば、そうですね」

 なに言ってんだ、お前、という顔で三橋が見た。

「この世界は建物や何かは結構、現実の世界のままですよね。
 配置がちょっと違ったりしますけど。

 派出所とかに、お巡りさんの霊も居るかもれしないですね」

「おい、こらっ。
 それがなんの役に立つんだっ」

「だって、腐ってもお巡りさ……」

 そこで、七月は言葉を止めて、考える。

「警察、刑務所、拘置所。

 そうだ。
 林葉先生、消えちゃったけど。

 もしかして、拘置所に居たりして。
 拘置所で変死されたのよね?」

「林葉が気になるのか?」
と三橋が訊いてくる。

「林葉先生、焼却炉のところを気にしてた。

 そして、あの男も焼却炉の前に居た。
 それから、私に言ったのよ。

 『七月、俺を忘れたか』って」

 もうひとつ、気になってたことがある、と七竃を振り返る。

「何故、あの男はよりにもよって、あの七竃の下に死体を埋めたのか」

 あの湿っぽい木から吹いているかのような生温い風が頬を撫でて行く。

「あの男が誰なのか、私には思い出せないけど、でも――

 きっと、おねえちゃんの事件に関係してる男だわ。

 だから、私に、自分を忘れたか、と言い、七竃の下に死体を埋め、林葉先生が探し物をしていた焼却炉の辺りを気にしていた」

 うん? という顔で三橋が見た。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...