七竈

菱沼あゆ

文字の大きさ
210 / 258
神隠し

古い事件の証拠

しおりを挟む
 

「はい、どうぞ、蛭子さん」

 現れた三橋は多少投げやりな調子でそう言い、門を開けてくれる。

「悪いね」
と言うと、

「いえ。
 蛭子さんが来てくれて助かりました。

 なんか、ナナツキが『事件の証拠』とやらを鑑定して欲しいらしくて。

 槻田はもう――」
と言いかけ、後ろを気にして、言葉を止める。

 さっきから気になっていたのだが。

 三橋は一人では来なかった。

 ちょっとふっくらとした、瞳の大きな可愛らしい女性を連れていた。

 年齢的に先生かな、と思う。

 そういえば、東先生事件のときに見かけたような、と思いながら、何故かちょっと離れて立っている彼女を窺う。

 三橋からも距離をとっている彼女は、身構えるように胸許で手を握り締め、何度か背後を振り返っていた。

 三橋は少し呆れたようにそれを見ている。

「先生」
 案の定、彼は彼女をそう呼んだ。

「怖いのなら出て来なくてよかったんですよ」

「ううん。
 三橋くんを一人で行かせるのも心配だし。

 私、反省したの。
 少しは先生らしいこともしてみようかと思って」

 だが、三橋の顔には、あんたが此処にいることの方が心配だ、と書いてあった。

「どうしたの? この先生」
と小声で訊くと、三橋は、

「いや――
 ちょっとした『問題児』です」
と小声で返して来た。

 槻田が居たら、そりゃ、お前らの方だろう、と言っているところだろう。

 再び、三橋が鍵をかけ、歩き出す。

 女教師の居る場所まで行くと、彼女は付いて歩き出した。

 ……ほんとになにしに来たんだ、この先生。

 歩く道々、三橋がざっくりと状況を説明してくれる。

「ええーっ。
 そんな古い事件の証拠なの?

 うちの鑑識で大丈夫かなあ」

「なに不安になるようなこと言ってんですか。

 百年前とかじゃないんですよ。

 先生、付いて来てますか?」
と三橋はちゃんと振り向き、彼女に呼びかけている。

 意外と面倒見がいいようだ。

「先生、無理せず、帰られてもいいんですよ。
 もう家に帰れますから。

 なんでしたら、蛭子さんが帰るときに送ってもらったらどうですか?」

「いやいや、君らももう帰りなよ」
と言ってみたが、三橋は七月が帰るまでは付き合うつもりのようだった。

 律儀だね。
 というか、健気だね、と思った。

 いろいろあるが、槻田と七月の関係は揺らがないような気がするのだが。

 だがまあ、三橋は、そういうのではなく、友人として、七月のために付き合おうというのだろう。

「それにしても、その最初のトイレの霊の話?
 まず警察にしてよ」

「どうやってですか。
 蛭子さんもだいぶんナナツキに毒されてますね。

 見つけたの、死体じゃなくて、霊ですよ」

「ああ、そうか」

「ま、死体も見つけはしたんですけどね。
 本人が掘り出すなと言うんで」

「本人がね」
 はは、と笑う。

 確かにもうだいぶんそういう会話にも慣れた。

「しかも、おかしなことを言うんですよ。
 殺そうとしたのは自分の方だとか」

「じゃあ、あれ?

 もしかして。
 その人を殺した人は、正当防衛ってこと?」

 ああ、そうか、と三橋は呟く。

「だったら、犯人も悪い人間じゃないってことか。

 『夜道に気をつけろ』
 も通じますよね、それなら。

 でも、あの男、ナナツキの首を絞めようとしてたけど」
と呟く。

「よくよく首を絞められる人だね、七月ちゃん」

「命が惜しくないのかってくらい無謀ですからね」
と三橋は、親か兄のような心配をする。

「でも――」
と後ろから女教師の声がした。

「ああいう無謀っていうか。
 男らしいところが、きっと、槻田先生もお好きなのよね」

 その口調に、なんだこの先生、槻田先生が好きなのか、と思った。

 だが、七月に対する嫉妬心のようなものは、不思議と感じない。

「男らしいって」
と三橋が苦笑いする。

「ナナツキが聞いたら怒りますよ」

 だが、
「褒めるてるのよ」
と彼女は言った。

「今日、つくづく思ったの。
 私は、生徒置いて逃げちゃうし。

 ナナツキちゃんは、そんな私を責めもしないし。
 私、こういうところが問題なのよね、きっと」

「でも、人の好みそれぞれですからね。
 先生みたいな人が好きって人も居ますよ」

 生徒を置いて逃げる人間をか?
と思ったが、口は悪いが性根の悪くない三橋は、自虐的な教師が哀れになったらしく、最初に比べると、随分と軟化した態度で、慰めていた。

 それを聞いた彼女は、
「そりゃまあ、居るんだけどね」
 しれっとそんなことを言い出す。

「でも、想う人には想われないのよ」

 その言葉を聞いた三橋は複雑そうだった。

 我が身に当てはめてみているのかもしれない。

「ナナツキ……

 あ、もう、七月ちゃんでいいや。

 ナナツキちゃんって呼びたかったのは、きっと。

 槻田先生が七月って言ってるの聞いちゃってさ。

 あの呼び方が妙に頭に残ってて。
 『七月』ちゃんって呼びたくなかったのね」

 でも、もういいの、と彼女は言う。

 鈍い槻田のことだ。
 想いを寄せられていることにすら気づいていなかったろう。

 でも今、気づく前に勝手に自己解決されてしまったようだ。

 何かの決意の表れなのか、先頭を切って歩き出す女教師の背を見ながら、こっそりと三橋に言った。

「結構可愛い先生じゃない。
 誰も相手、居ないみたいだよ」

「……なに人に押し付けようとしてるんですか。
 蛭子さんこそ、どうですか」

「知ってるでしょ。
 僕、恐ろしい彼女が居るから」

「そうでしたね……」

 そう言いながらも、三橋の顔には、恐ろしいならやめときゃいいのに、と書いてあった。

 まあ、まだ君にはわかるまい、と思う。
 



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...