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神隠し
古い事件の証拠
しおりを挟む「はい、どうぞ、蛭子さん」
現れた三橋は多少投げやりな調子でそう言い、門を開けてくれる。
「悪いね」
と言うと、
「いえ。
蛭子さんが来てくれて助かりました。
なんか、ナナツキが『事件の証拠』とやらを鑑定して欲しいらしくて。
槻田はもう――」
と言いかけ、後ろを気にして、言葉を止める。
さっきから気になっていたのだが。
三橋は一人では来なかった。
ちょっとふっくらとした、瞳の大きな可愛らしい女性を連れていた。
年齢的に先生かな、と思う。
そういえば、東先生事件のときに見かけたような、と思いながら、何故かちょっと離れて立っている彼女を窺う。
三橋からも距離をとっている彼女は、身構えるように胸許で手を握り締め、何度か背後を振り返っていた。
三橋は少し呆れたようにそれを見ている。
「先生」
案の定、彼は彼女をそう呼んだ。
「怖いのなら出て来なくてよかったんですよ」
「ううん。
三橋くんを一人で行かせるのも心配だし。
私、反省したの。
少しは先生らしいこともしてみようかと思って」
だが、三橋の顔には、あんたが此処にいることの方が心配だ、と書いてあった。
「どうしたの? この先生」
と小声で訊くと、三橋は、
「いや――
ちょっとした『問題児』です」
と小声で返して来た。
槻田が居たら、そりゃ、お前らの方だろう、と言っているところだろう。
再び、三橋が鍵をかけ、歩き出す。
女教師の居る場所まで行くと、彼女は付いて歩き出した。
……ほんとになにしに来たんだ、この先生。
歩く道々、三橋がざっくりと状況を説明してくれる。
「ええーっ。
そんな古い事件の証拠なの?
うちの鑑識で大丈夫かなあ」
「なに不安になるようなこと言ってんですか。
百年前とかじゃないんですよ。
先生、付いて来てますか?」
と三橋はちゃんと振り向き、彼女に呼びかけている。
意外と面倒見がいいようだ。
「先生、無理せず、帰られてもいいんですよ。
もう家に帰れますから。
なんでしたら、蛭子さんが帰るときに送ってもらったらどうですか?」
「いやいや、君らももう帰りなよ」
と言ってみたが、三橋は七月が帰るまでは付き合うつもりのようだった。
律儀だね。
というか、健気だね、と思った。
いろいろあるが、槻田と七月の関係は揺らがないような気がするのだが。
だがまあ、三橋は、そういうのではなく、友人として、七月のために付き合おうというのだろう。
「それにしても、その最初のトイレの霊の話?
まず警察にしてよ」
「どうやってですか。
蛭子さんもだいぶんナナツキに毒されてますね。
見つけたの、死体じゃなくて、霊ですよ」
「ああ、そうか」
「ま、死体も見つけはしたんですけどね。
本人が掘り出すなと言うんで」
「本人がね」
はは、と笑う。
確かにもうだいぶんそういう会話にも慣れた。
「しかも、おかしなことを言うんですよ。
殺そうとしたのは自分の方だとか」
「じゃあ、あれ?
もしかして。
その人を殺した人は、正当防衛ってこと?」
ああ、そうか、と三橋は呟く。
「だったら、犯人も悪い人間じゃないってことか。
『夜道に気をつけろ』
も通じますよね、それなら。
でも、あの男、ナナツキの首を絞めようとしてたけど」
と呟く。
「よくよく首を絞められる人だね、七月ちゃん」
「命が惜しくないのかってくらい無謀ですからね」
と三橋は、親か兄のような心配をする。
「でも――」
と後ろから女教師の声がした。
「ああいう無謀っていうか。
男らしいところが、きっと、槻田先生もお好きなのよね」
その口調に、なんだこの先生、槻田先生が好きなのか、と思った。
だが、七月に対する嫉妬心のようなものは、不思議と感じない。
「男らしいって」
と三橋が苦笑いする。
「ナナツキが聞いたら怒りますよ」
だが、
「褒めるてるのよ」
と彼女は言った。
「今日、つくづく思ったの。
私は、生徒置いて逃げちゃうし。
ナナツキちゃんは、そんな私を責めもしないし。
私、こういうところが問題なのよね、きっと」
「でも、人の好みそれぞれですからね。
先生みたいな人が好きって人も居ますよ」
生徒を置いて逃げる人間をか?
と思ったが、口は悪いが性根の悪くない三橋は、自虐的な教師が哀れになったらしく、最初に比べると、随分と軟化した態度で、慰めていた。
それを聞いた彼女は、
「そりゃまあ、居るんだけどね」
しれっとそんなことを言い出す。
「でも、想う人には想われないのよ」
その言葉を聞いた三橋は複雑そうだった。
我が身に当てはめてみているのかもしれない。
「ナナツキ……
あ、もう、七月ちゃんでいいや。
ナナツキちゃんって呼びたかったのは、きっと。
槻田先生が七月って言ってるの聞いちゃってさ。
あの呼び方が妙に頭に残ってて。
『七月』ちゃんって呼びたくなかったのね」
でも、もういいの、と彼女は言う。
鈍い槻田のことだ。
想いを寄せられていることにすら気づいていなかったろう。
でも今、気づく前に勝手に自己解決されてしまったようだ。
何かの決意の表れなのか、先頭を切って歩き出す女教師の背を見ながら、こっそりと三橋に言った。
「結構可愛い先生じゃない。
誰も相手、居ないみたいだよ」
「……なに人に押し付けようとしてるんですか。
蛭子さんこそ、どうですか」
「知ってるでしょ。
僕、恐ろしい彼女が居るから」
「そうでしたね……」
そう言いながらも、三橋の顔には、恐ろしいならやめときゃいいのに、と書いてあった。
まあ、まだ君にはわかるまい、と思う。
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