七竈

菱沼あゆ

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呪いの家

あと一年あるよ

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 槻田が学校に行くと、久美が遠慮がちに挨拶してきた。

 昨日の体験については一切触れず、
「七月ちゃんが、ドラマ録画してたんで、助かりました」
とだけ、笑顔を見せて言ってきた。

 それもまた彼女にとっては重大事らしいので、
「それはよかったですね」
と言っておいた。

 ドラマは見ない。

 バラエティは―― 結構見るか。

 くだらないオヤジギャグまがいのでも、無意識のうちに笑っているらしく、七月がときどき冷たい目で見ている。

 自分だって、しょうもない番組で馬鹿笑いしている癖にな、と思いながら、席に着く。

 休み時間、鞄から取り出した箱を見ていると、斜め後ろから小さな声がした。

「なにそれ」

 振り返らなくてもわかったが、他の先生のプリントを手にした七月が立っていた。

「今朝、頼まれたんだ。
 いつの間にか同居してた爺さんに」
と箱を見たまま言うと、

「なにそれ」
と七月は繰り返す。

 さっきとは少しトーンが変わっていた。

 霊との同居をちょっと心配してくれているようだった。

 お互い、守りが強いのか。

 そんなに悪い霊に出くわすこともないのだが、初対面の霊には、少し用心した方がいいのは確かだ。

「これを槻田の家に持ってってくれと言われたんだ」

 紅い和紙で作られた小さな箱を七月に見せる。

「何が入ってるの?」

「さあな。
 開かないから」

「こんなの、鍵とか付いてないわよね」

 どう見ても、ただの紙の箱だ。

 七月が手に取ってみようとしたので、避ける。

 スカを喰らってよろけた彼女はデスクに手をつき、

「……なによ」
と睨んできた。

「いや」
と言ったぎり、続きは言わなかったが、七月もわかってはいるようだった。

 得体の知れないものを彼女に触らせるわけにはいかない。

「それ、なんで開かないの?」
「何かの力で抑えつけられてるのかもな」

「お爺さんにいきなり渡されたの?」
「いや、箪笥の引き出しに入ってると言われた」

 言われた場所を探してみたらあった、と言うと、

「……普段、自分ちの箪笥開けないの?」
と不審げに言われる。

 そうではないが、あの家に元からあった古い箪笥はひとつではないし、そんなに服も持っている方ではないから。

 開けてみる必要もなく、引っ越してずっと、そのままになっていたのだ。

「槻田の家に、貴方が持ってくわけ?」

「いや、誰がかはわからないが。
 俺の周りの誰かが行くことになる、と言われたよ」

 すると、七月は妙な顔をした。

 どうした、と見ると、休み時間の終わりを壁の時計で確認しながら、
「実は、やっぱり、英嗣さんが帰ってみようって言ってるの。
 七竃のメモを探しに」
と言う。

「でも、英嗣さんだけ行っても、メモも持ち出せないし、それも持っていけないわよね」

 溜息をついて、やっぱり、自分が行ってこようかと言おうとしたとき、七月が言った。

「私が行ってくる」

 は? とその顔を見る。

「英嗣さんに付いて、私が行ってくるわ」

「お前……槻田の家とは面識がないだろうが」

「百花さんの話聞いてて思ったんだけど。
 英嗣さんって、学生時代とか、結構ファンの子、居たんじゃないの?

 英嗣さんをいたんで、やってきましたとか」

「……英嗣の学生時代に、お前は幾つだ」

 今の外見だけ見たら、そう年齢差はないように見えるが、あいつ死んだの今じゃないぞ、と告げる。

「そもそも今、命日の頃でもないし」

「えーと、たまたま里帰りして来たのでって言う。
 それか、母親が英嗣さんのファンだったのでとか」

「上過ぎるだろ……」

 今度は年上過ぎると思ったのだが、よく考えれば、七月の母親は、あのカヅキかもしれないのだ。

「じゃ、素直に言う」

「なんて?」

「七竃について調べているので、七竃の呪いで死んだと言われている英嗣さんの荷物を見せてください」

「玄関にも入れないと思うぞ」

「うちの親も七竃の呪いで死んだので、どうしても、呪いを解きたいんです」

「呪ってる張本人だろ!?」

 少し声が大きくなりすぎたと思ったとき、チャイムが鳴った。

 切り替えの速い七月は、
「失礼しましたー」
と言いながら、職員室から出て行ってしまう。

 あの莫迦、見張っとかないと一人で行くな、と思いながら、その背を見送っていると、隣の席に戻って来た老教師がゆったりとした口調で言った。

「槻田くん、卒業まで、あと一年あるよ。
 長いねえ~」

「な、なんの話ですかっ」
と振り向くと、数学の教師のはずなのに、何故か白衣を着ている彼は、ひひ、と笑いながら、椅子に座った。

 もうとっくの昔に定年されているのだが、非常勤として教えている、結構みんなに慕われている爺さんだ。

 温厚でいつも笑顔だが、さすが年の功、目敏めざとい、と思いながら、槻田は教科書を手に立ち上がった。





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