七竈

菱沼あゆ

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呪いの家

長い塀の向こう側

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「長いわ。
 なんなの、この塀。

 こういう場合、大抵、これが訪ねていく先なのよね」

 放課後、七月と英嗣は、槻田の家を訪ねていた。

 七月はブツブツ言いながら、長い塀に沿うように歩いている。

 その手には白っぽく纏められたカゴ入りのフラワーアレンジメントがあった。

「コート着たら?」

 霊の自分はもう寒さを感じなくなっているが、少し肩をすぼめて歩く仕草についそう忠告してしまう。

「まだそこまでじゃないから」
と言いながら、七月は先を行く。

 槻田も付いて来たそうだったが、七月がいた。

 槻田の家に行きたくない彼を気遣ってのことだろうし。

 また、無用なトラブルを避けるためでもあるだろう。

「やっぱり、亡くなったお姉ちゃんが、英嗣さんのファンだったからってのがいいですよね。

 それで、久しぶりに、こっちに帰ってきたから―」

「じゃあ、制服着替えてきた方がよかったんじゃない?」

「……こっちに引っ越してきたから、英嗣さんのとこに来たってことで。
 電話もせずに来たけど、大丈夫かしら。

 追い返されますかね?」

「電話したら、母親が待ち構えてるかもしれないだろ。
 今更、訪ねてくるのに、微妙な設定だし。

 不審に思って待ってるかもしれない。
 お手伝いの牧田さんだけとかの方が都合がいい」

「牧田さんってのが、若くて可愛いお手伝いさんですか?」

「若いとは言ったけど、可愛いって言ったっけ?」

「いや、勝手なイメージですけどね」

「彼女が今も勤めているかは知らないよ。
 毎日居るわけでもなかったし。

 第一、彼女に来客を勝手に通せるだけの権限はないから」

「じゃあ、牧田さんってのは、年配の方なんですか?」

 ひとつ確認しときますけど、と七月は訊く。

「お母さんて、霊は見えるんですか?」

「見えないんじゃない?

 そんな話、聞いたこともないし。

 死んだ直後は此処、ウロウロしてたけど、一度も目が合わなかったしね」

「そうですか。
 よし、じゃあっ」
と七月は横を向きざま、チャイムを押す。

 ちょうど塀が途切れ、大きな門が現れたところだった。

 迷いなしかよっと思った瞬間、牧田の返事があった。

 ぷつっとインターフォンのスイッチが入ったあとで、
『……はい』
と懐かしい声が聞こえてくる。



 
 
 玄関先に通された七月が事情を話すと、牧田は涙ぐんでいた。

 ……騙されるなよ、と思いながらも、嬉しかったのは確かだ。

 まあ、七月の、この裏のなさそうな間抜け面で、カラッと言われると信じてしまうかな、とは思うが。

 今は亡き、大事な姉が憧れていた人だから、という話なのに、変に悲壮感を出して語らないところが、かえってリアルだった。

 長い廊下を歩きながら、七月は部屋や庭先を見回し、

「仙石の叔父さまの家みたい」
と呟く。

「仙石様?」
と聞いていないようで聞いている牧田が訊き返してきた。

「はい。
 親戚なんですけど」

 牧田の誘導に乗るように、七月はべらべらと警察のお偉いさんである仙石善章せんごく よしあきのことを語り出した。

 いいのか? と思ったが、その効果か、牧田はかなり、七月に対して、警戒を緩めたようだった。

 やはり、突然の訪問者に、少し身構えた感じがあったのだが、それが今はほとんど消えている。

 無駄に広い和室にある仏壇の前に連れてこられた七月は、遺影を見つめ、手を合わせていた。

 牧田が居る間は、しおらしくしていた七月だが、

「お茶でもお持ちしましょう」
と彼女が出て行き、障子に映る影を見送ると、いつもの口調でしゃべり出した。

「なんなんですか、この遺影……」

 膝を回してこちらを向くと、そんなことを言い出す。

「遺影に文句言われてもねえ。
 僕が選んだわけじゃないし」

「選んだのはお母様か誰かでも、撮られたのは、英嗣さんでしょ。
 なんなんですか。
 この無駄に爽やかなカメラ目線の写真は」

「爽やかなのは、生まれつきだよ」

 生まれつきの猫か……と七月は呟いていた。

「仙石さんの話を出したのはわざと?」

「まあ、わざとってわけでもないですけど」
と七月は言うが。

 うっかりもらした振りをしていたが、此処と変わらぬ家屋敷に住む叔父の話。

 しかも、警察のお偉いさん。
 そして、身許を隠す節がないこと。

 それらを総合的に判断して、牧田は警戒を解いたというか、解かされたのだろう。

「後で調べられたらどうする?」

「だって、別に嘘は言ってないし。
 とりあえず、此処を乗り越えられたら、まあ、いいかなって」

 行き当たりばったりで刹那的だな……と思ったとき、人がやってくる気配がした。

 七月はそれを感じてか口を閉ざす。

 障子に映った影に、思わず、身構えた。

 居たのか。
 いや、今、戻って来たのだろうか。

 牧田とは違う着物姿。
 すっと背筋の伸びた感じ。

 七月も姿勢がいいが、それとは違う。
 他人を威圧するような気配を発している。

 顔を出した母親に、七月は小声でもらしていた。

「そっくりですね……」

「何処が?」

「雰囲気がですよ」
と七月は言った。

 肝の据わった彼女でも、我が母親を前にすると、多少緊張するらしかった。





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