侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ

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ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね

まさか、恋か

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「萌子ー、あんた最近いないから、御朱印、何枚か書いといてー」

 そう祖母に言われ、萌子は社務所で、ウリ坊の絵付きの御朱印を何枚か書いた。

 総司が見ているのに気づき、
「課長もおひとついかがですか?
 私が書いたんじゃご利益とかないかもしれませんけど」
と萌子は言ってみた。

 いつもお世話になっているので、総司と藤崎に一枚ずつプレゼントする。

「へえー、意外に上手いじゃないか」
と藤崎は萌子が書いた御朱印を眺めて言い、総司は、

「……ありがとう。
 御朱印帳を買って、貼っておくよ」
と言ってくれた。

「いえ、そんなわざわざ御朱印帳を買われるとか、申し訳ないです」

「いや、せっかく書いてくれたんだからな」
と言う総司に萌子は、

「……課長」
と感激しながら、お守りと一緒に並んでいる御朱印帳を手で示し、言った。

「此処でも御朱印帳売ってますよ」

「……この商売上手め」




 総司は、
「いやいやいやっ、嘘ですよ。
 お世話になってるから、あげますよ~」
と言う萌子に、藤崎と一冊ずつ御朱印帳をもらった。

 家に帰り、その御朱印帳を眺め、

 花宮に、なにか礼をせねばな、と考える。

 なにか美味いものでもおごってやるか、と思ったあとで、総司は、ふと、思う。

 花宮を食事に誘うことは、ほんとうに花宮への礼となるのだろうかと。

 実はそれを口実に、俺が花宮と食事に行きたいだけなんじゃないのか?

 ……何故だか俺は花宮と出かけることを喜んでいるようだし。

 それは、花宮じゃなくて、俺へのご褒美になってしまうんじゃないだろうか?

 いや……、俺が花宮を好きとか、そういうわけではないのだが、と思いながら、総司は萌子が書いてくれた御朱印を丁寧に御朱印帳に貼る。

 ウリ坊の絵を、なかなか可愛いじゃないか、と思いながら眺めていると、だんだん、それが萌子の顔に見えてきた。

 何故、ウリ坊が花宮に見えてくるのか。

 ……まさか、恋か。

 俺は、ほんとうに花宮が好きなのか?
と、

「いや……イノシシが私に見えて、それ、恋でしょうか?」
と萌子に突っ込まれそうなことを思う。

 そういえば、ついつい、初心者で体力のなさそうな花宮でも行けそうなキャンプ場をいつも探している。

 もしかして、これは恋なのかっ?
と総司は生まれて初めてのことに悩んでいた。



 翌朝、職場に行くと、萌子が、
「おはようございます~」
と自分に微笑みかけてきた。

 まったくイノシシには似てないな。

 だが、昨日は似て見えた。
 恋だろうか……。

「花宮」

 はい、と萌子が自分を見上げる。

「今日、暇か?」
「は、はい……」

「いい店を探しておいたんだ。
 今日、行くか。

 おごってやる」

「え?
 そんな、結構ですっ」
と萌子は両手を振って断ってくる。

 慌てふためく姿がやはり、ウリ坊っぽくて可愛らしい。

 総司はそんな萌子を見つめて言った。

「店まで乗せていってやるから、お前ひとりで食ってこい」

「……は?」

「俺もいっしょに食べたら、俺へのご褒美になってしまう気がしてきたんだ。
 俺は向かいのファストフードの店で待ってるから、お前ひとりで食べてこい」

「い、意味がわかりませんが……」
と言う萌子の近くを通りかかった藤崎が、

「そのやりとりを職場の廊下でやってるのが一番意味がわかりませんが……」
と呟き、同じく通りかかった多英が、

「あ~っ、イライラするーっ」
と自慢の手入れのいい髪をかきむしり、叫んでいた。




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