50 / 81
ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね
まさか、恋か
しおりを挟む「萌子ー、あんた最近いないから、御朱印、何枚か書いといてー」
そう祖母に言われ、萌子は社務所で、ウリ坊の絵付きの御朱印を何枚か書いた。
総司が見ているのに気づき、
「課長もおひとついかがですか?
私が書いたんじゃご利益とかないかもしれませんけど」
と萌子は言ってみた。
いつもお世話になっているので、総司と藤崎に一枚ずつプレゼントする。
「へえー、意外に上手いじゃないか」
と藤崎は萌子が書いた御朱印を眺めて言い、総司は、
「……ありがとう。
御朱印帳を買って、貼っておくよ」
と言ってくれた。
「いえ、そんなわざわざ御朱印帳を買われるとか、申し訳ないです」
「いや、せっかく書いてくれたんだからな」
と言う総司に萌子は、
「……課長」
と感激しながら、お守りと一緒に並んでいる御朱印帳を手で示し、言った。
「此処でも御朱印帳売ってますよ」
「……この商売上手め」
総司は、
「いやいやいやっ、嘘ですよ。
お世話になってるから、あげますよ~」
と言う萌子に、藤崎と一冊ずつ御朱印帳をもらった。
家に帰り、その御朱印帳を眺め、
花宮に、なにか礼をせねばな、と考える。
なにか美味いものでもおごってやるか、と思ったあとで、総司は、ふと、思う。
花宮を食事に誘うことは、ほんとうに花宮への礼となるのだろうかと。
実はそれを口実に、俺が花宮と食事に行きたいだけなんじゃないのか?
……何故だか俺は花宮と出かけることを喜んでいるようだし。
それは、花宮じゃなくて、俺へのご褒美になってしまうんじゃないだろうか?
いや……、俺が花宮を好きとか、そういうわけではないのだが、と思いながら、総司は萌子が書いてくれた御朱印を丁寧に御朱印帳に貼る。
ウリ坊の絵を、なかなか可愛いじゃないか、と思いながら眺めていると、だんだん、それが萌子の顔に見えてきた。
何故、ウリ坊が花宮に見えてくるのか。
……まさか、恋か。
俺は、ほんとうに花宮が好きなのか?
と、
「いや……イノシシが私に見えて、それ、恋でしょうか?」
と萌子に突っ込まれそうなことを思う。
そういえば、ついつい、初心者で体力のなさそうな花宮でも行けそうなキャンプ場をいつも探している。
もしかして、これは恋なのかっ?
と総司は生まれて初めてのことに悩んでいた。
翌朝、職場に行くと、萌子が、
「おはようございます~」
と自分に微笑みかけてきた。
まったくイノシシには似てないな。
だが、昨日は似て見えた。
恋だろうか……。
「花宮」
はい、と萌子が自分を見上げる。
「今日、暇か?」
「は、はい……」
「いい店を探しておいたんだ。
今日、行くか。
おごってやる」
「え?
そんな、結構ですっ」
と萌子は両手を振って断ってくる。
慌てふためく姿がやはり、ウリ坊っぽくて可愛らしい。
総司はそんな萌子を見つめて言った。
「店まで乗せていってやるから、お前ひとりで食ってこい」
「……は?」
「俺もいっしょに食べたら、俺へのご褒美になってしまう気がしてきたんだ。
俺は向かいのファストフードの店で待ってるから、お前ひとりで食べてこい」
「い、意味がわかりませんが……」
と言う萌子の近くを通りかかった藤崎が、
「そのやりとりを職場の廊下でやってるのが一番意味がわかりませんが……」
と呟き、同じく通りかかった多英が、
「あ~っ、イライラするーっ」
と自慢の手入れのいい髪をかきむしり、叫んでいた。
1
あなたにおすすめの小説
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる