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第二の殺人
白昼夢
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その頃、聞き込み、困ったな。通夜や葬儀があるせいで、いつも以上に、雨屋敷に人が居たようだ、と思いながら、谷本は緋沙実の死亡推定時刻である二日前の深夜二時から四時までのアリバイを訊いて歩いていた。
峻先生の方の事件もあるのに、人手が足りなさすぎるっと思いながら。
とりあえず、生き霊の峻に緋沙実の事件のアリバイを訊いてみたのだが、
「そんな時間のアリバイ、あるはずないじゃないですか」
と峻は言う。
「そんなことより、谷本さん。
貴方も泊まってたでしょう、その日」
……そうなんですよね。
泊まってたんですよね、僕も、と谷本は思う。
山村達夫の事件が解決したあの日、谷本は清水たちに言われ、この屋敷に泊まっていた。
寝付かれず、深夜、トイレに行きたくなったときは恐怖だったな、と思い出していたとき、
「そんな時間、誰に訊いても寝てたって言うでしょうよ」
と峻が言ってきた。
いや、それが一人だけ、はっきりとしたアリバイのある人物が居るのだ。
でも……言えないよなー、峻先生にはあれ、と谷本が思っていると、
「なにかあるんですか?」
と峻が訊いてきた。
その鋭い眼光に、ひっ、とビビりながら、
「いっ、いえ、なんでもっ」
ととりあえず、谷本は言ってみた。
峻が落下したり、本人も居ないのに病院に行ったりと朝から忙しかったせいか、彩乃は部屋でうとうとしていた。
すると、誰かが頭の上に座り、こちらを覗き込んでいる気配がする。
……誰?
身構えながら眠い瞼を押し開けると、女が真上から覗き込んでいた。
目は落ち窪んでいるが、派手で綺麗な顔だ。
どっかで見たな、この顔。ああ……。
「緋沙実さん」
とうっかり呼び掛けた瞬間、彩乃はガッと緋沙実に髪を掴まれていた。
そのまま、階段へと引きずっていかれる。
あの霊が途中で止めようとしてくれたようだが、
「邪魔しないでっ!」
と緋沙実は叫んでいた。
ガタンガタンと頭や背中が階段に打ちつけられる。
がだ、悪鬼の表情をした緋沙実の顔に物悲しさを感じ、しょうがない、少し付き合ってやるか、と思い、彩乃は、そのまま緋沙実に引きずられていった。
どのみち、これは夢の世界の出来事のようだった。
その証拠に現実にはまだ日は暮れていないと思うのだが、引きずられていく屋敷の廊下は闇に包まれている。
これは夢だと自覚すれば特に髪も背中も痛くはない。
彩乃は引きずられるのに手が邪魔なので、腕組みをしていた。
端から他の霊が見ていたら、ずいぶんと偉そうなポーズで引きずられているなと思ったことだろう。
「なんにもいいことなんかなかった」
緋沙実は自分を引きずりながら、そんなことを呟いていた。
「なんにもいいことなんかなかった。
しちにんびしゃくなんかに願いをかけるんじゃなかった」
「……しちにんびしゃく?」
話しかけていいものかと思いながらも、訊いてしまう。
すると、ないかと思った緋沙実からの答えがあった。
「知らないの? あんた。
あの沼みたいな溜め池、願いをかけると叶えてくれるのよ。
まあ、何が叶えてくれるんだかわかったもんじゃないけどね」
髪を引きずられながら話すのも妙な感じだなと思いながらも、彩乃はその話が気になったので、更に突っ込んで訊いてみた。
「緋沙実さんは、しちにんびしゃくに、なんの願いをかけられたんですか?」
「好きな人と一緒になりたいと願ったのよ。
若気の至りね」
「融おじ様ですか?」
「なんで願ったのかしらね、あんな男」
「でも、お好きだったんでしょう?」
「だから……、若気の至りよ」
ずるずると自分を引きずりながら、緋沙実は無言になる。
峻先生の方の事件もあるのに、人手が足りなさすぎるっと思いながら。
とりあえず、生き霊の峻に緋沙実の事件のアリバイを訊いてみたのだが、
「そんな時間のアリバイ、あるはずないじゃないですか」
と峻は言う。
「そんなことより、谷本さん。
貴方も泊まってたでしょう、その日」
……そうなんですよね。
泊まってたんですよね、僕も、と谷本は思う。
山村達夫の事件が解決したあの日、谷本は清水たちに言われ、この屋敷に泊まっていた。
寝付かれず、深夜、トイレに行きたくなったときは恐怖だったな、と思い出していたとき、
「そんな時間、誰に訊いても寝てたって言うでしょうよ」
と峻が言ってきた。
いや、それが一人だけ、はっきりとしたアリバイのある人物が居るのだ。
でも……言えないよなー、峻先生にはあれ、と谷本が思っていると、
「なにかあるんですか?」
と峻が訊いてきた。
その鋭い眼光に、ひっ、とビビりながら、
「いっ、いえ、なんでもっ」
ととりあえず、谷本は言ってみた。
峻が落下したり、本人も居ないのに病院に行ったりと朝から忙しかったせいか、彩乃は部屋でうとうとしていた。
すると、誰かが頭の上に座り、こちらを覗き込んでいる気配がする。
……誰?
身構えながら眠い瞼を押し開けると、女が真上から覗き込んでいた。
目は落ち窪んでいるが、派手で綺麗な顔だ。
どっかで見たな、この顔。ああ……。
「緋沙実さん」
とうっかり呼び掛けた瞬間、彩乃はガッと緋沙実に髪を掴まれていた。
そのまま、階段へと引きずっていかれる。
あの霊が途中で止めようとしてくれたようだが、
「邪魔しないでっ!」
と緋沙実は叫んでいた。
ガタンガタンと頭や背中が階段に打ちつけられる。
がだ、悪鬼の表情をした緋沙実の顔に物悲しさを感じ、しょうがない、少し付き合ってやるか、と思い、彩乃は、そのまま緋沙実に引きずられていった。
どのみち、これは夢の世界の出来事のようだった。
その証拠に現実にはまだ日は暮れていないと思うのだが、引きずられていく屋敷の廊下は闇に包まれている。
これは夢だと自覚すれば特に髪も背中も痛くはない。
彩乃は引きずられるのに手が邪魔なので、腕組みをしていた。
端から他の霊が見ていたら、ずいぶんと偉そうなポーズで引きずられているなと思ったことだろう。
「なんにもいいことなんかなかった」
緋沙実は自分を引きずりながら、そんなことを呟いていた。
「なんにもいいことなんかなかった。
しちにんびしゃくなんかに願いをかけるんじゃなかった」
「……しちにんびしゃく?」
話しかけていいものかと思いながらも、訊いてしまう。
すると、ないかと思った緋沙実からの答えがあった。
「知らないの? あんた。
あの沼みたいな溜め池、願いをかけると叶えてくれるのよ。
まあ、何が叶えてくれるんだかわかったもんじゃないけどね」
髪を引きずられながら話すのも妙な感じだなと思いながらも、彩乃はその話が気になったので、更に突っ込んで訊いてみた。
「緋沙実さんは、しちにんびしゃくに、なんの願いをかけられたんですか?」
「好きな人と一緒になりたいと願ったのよ。
若気の至りね」
「融おじ様ですか?」
「なんで願ったのかしらね、あんな男」
「でも、お好きだったんでしょう?」
「だから……、若気の至りよ」
ずるずると自分を引きずりながら、緋沙実は無言になる。
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