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ちちんぷいぷい
どんな願い事も簡単に叶いはしない
しおりを挟むあかりは現れた青葉を見ながら言った。
「でも、思ったより簡単に見つかってビックリしました」
「いや、なにも簡単じゃなかったぞ」
と青葉に言われる。
「だから、わかるんだ。
『なんでも叶えてやる』と言ったのは、ただの、おじいさんの愛だ」
「えっ?」
「どんな願い事も簡単に叶いはしない。
お前のおじいさんにだって、無理なことはある。
金と権力で抑え込めない相手だっているしな」
俺だって、今日、ここにたどり着くまで大変だった、と青葉は言う。
「それでも、お前の許にたどり着けたのは、家のおかげでもなく、金の力でもなく。
地道にコツコツ、頭を下げて知り合いをたどって行ってからだ。
おじいさんだって、お前たちのために、誠心誠意頑張るから戻ってこいと言ってるだけなんじゃないのか?
なんでも叶う魔法の呪文の力の源は、きっと、金も権力も関係ない、ただのおじいさんの愛だ。
お前たちを呼び寄せたい俺にはよくわかる」
「……青葉さん」
「おじいさんだって、堀様に連絡つけたり、堀様のチケットをとったりするのは大変なはず」
「……何故、堀様」
「いや、ここに来るのに、堀様に連絡とるの大変だったんだ」
どうして、その経由で来ましたか、と思うあかりに、青葉は、チラ、と母親を見たあとで言う。
「あかり、なにも言わずに、あとで助手席に乗れ」
何故……?
と堀様がそこに座ったことを知らないあかりは思った。
「まあ、確かに愛なのかも知れませんね。
私たちがおじいさまのところに行くと、おじいさまは大層お喜びで。
……特に日向がお気に入りで。
おじいさまの奥様も、我々はともかく、日向がお気に入りで。
来斗はカンナさんのところに養子に行くそうなので、代わりに私が、というか、日向が吾妻を継ぐことになりました」
なんてことっ、という顔を寿々花がする。
可愛い日向をよそにとられるのは許せないが、相手が吾妻では、うかつに手が出せないからだろう。
「待て。
カンナのところには、大吾がいるじゃないか。
何故、来斗が跡を継ぐ」
「はあ、ご両親は大吾さんは当てにしていないそうです」
「……まあ、それは確かに」
当てにならないのもほんとうだろうが。
好きにさせて才能を伸ばしてやりたいという親心もあるのではないかと思う。
「それで、私に婿をとるそうなんですが。
嶺太郎さんをって話もあって。
でも、嶺太郎さん、大吾さんと同じで自分の道を突き進む人なんで、無理なんじゃないですかね?」
と言って、青葉に、
「無理じゃないのならいいのか……」
と言われる。
いえいえ、そういうわけでは……。
嶺太郎さんは兄のようなものなので、まったく実現しそうにないからですよ、とあかりは思っていた。
「まあ、ともかく、とりあえず、私に一族の中から婿をとって、継がせて。
そのあとは、日向が跡を継ぐことで決定だそうです」
渋い顔して、
「……とんでもないクソジジイだな」
と言う青葉に、
いや、あなた今、さんざん、おじいさまは、実は愛にあふれてるんじゃないかって言ってましたよ、とあかりは思う。
珍しく日向を膝に抱き、ブランコに座った寿々花が難しい顔をして言う。
「でも……、私たちは寂しくなるけど。
日向にとってはいいお話なのかも」
だって、吾妻の後継者になるのよ? と寿々花が言うと、青葉が、
「どうしたんですか、いつでも何処でも自信満々な人が。
金と権力を行使している人間は、より金と権力のある人間の前では無力なんですね」
と母に発破をかけるためか、嫌味を言う。
「なに言ってんのよ。
引く気はないわよ。
でも、冷静に考えたらそうかなって思うだけよ」
と日向を抱いて睨む母を見下ろし、青葉は言った。
「ともかく、吾妻陽平に会って話をしてみますよ」
えっ? と寿々花と二人で見上げる。
「俺は日向の父ですよ。
日向を養子にしたいというのなら、向こうだって、俺に話を通すべきじゃないですか」
「育ててないのに?」
「つい最近まで、姿さえ現さなかったのに?」
そう寿々花と二人で言ってしまい、青葉に睨まれたとき、日向が公園の外を指差し言った。
「あっ、シャリがいっぱい来るよっ」
シャリがいっぱいっ!?
全員の頭の中に、ネタもなく、シャリだけのった回転寿司の皿がUFOのように飛んできていたが。
公園前の道を通っていたのは、早朝の朝練に行く途中らしい自転車に乗った学生たちだった。
「チャリだろ。
そんな言葉、何処で覚えた」
と日向に言う青葉に、
「いやー、幼稚園に行き出してから、いろんな言葉覚えてくるんですよね~。
呪文の小学生たちも教えてくれますしね」
とあかりは言って、
「呪文の小学生って、呪文唱えてんの、お前の方だろ」
と言われてしまう。
しかし、子どもがいると、なんか真剣に悩めないな。
まあ、それがいいんだろうな、と思うあかりは思い出していた。
おっかなびっくり日向を膝に抱いて、戸惑いながらも笑っていた吾妻陽平とその妻の姿を――。
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