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ぬらりひょんの宝
七竃に手を出すな
しおりを挟むいつか泊まったあの部屋で待っていると、食事を終えた高岡たちが現れた。
七月は雷太が語った話を彼らにも話す。
「七竃の祟りは放っておけと雷太さんは言っていました。
祟りや呪いは、人の世には必要なものなんだと」
「だから、俺に七竃に手を出すなと言うのか」
「……わかりません。
でも、雷太さんは、ひよりさんも自分と同じように、過去の罪の意識に囚われて身動きできなくなってると言っていました」
高岡はなにか考えているようだった。
「まあ、どっちがいいとも言えないよね」
とふいに真横で声がした。
「英嗣さんっ」
いつの間にか、英嗣が横に立っていた。
「なに僕が居なくなってる間に、高岡のとこなんて来てんの」
と睨まれる。
「呪われた方が楽なのか。
呪った方が楽なのか。
すべてを暴けば楽になるのか。
どうだろうね。
例えば、市長も知らない、この市長公舎の秘密とか」
と英嗣は笑う。
えっ? と七月が振り返ると、英嗣はあの壁を見ていた。
目のようになっているシミがある。
「まさか」
と七月は立ち上がった。
少し引いて、その壁を見たあとで、近づき、壁に手を当てた。
「……市長、前市長は、ぬらりひょんっておっしゃったんですよね?」
どんな風に言われました? と七月は確認するように訊く。
正確に思い出してください、と。
高岡の話によると、
『高岡……市長公舎に、は、……ぬ……らり、ひょんが……』
と巳波弥太郎は言ったようだった。
「それ、たぶん。
本当は、ぬらりひょんじゃなくて、ぬりかべって言おうとしたんですよ、きっと」
なに? と高岡が言う。
七月はなんだか温かく感じる壁に両手で触れ、そこを見上げる。
「貴方には伝えておきたかった。
この市長公舎を継ぐものだから。
でも、周りには、自分の娘たちも居た。
親御さんですから、ご自分のお子さんの性格などは貴方より熟知されていると思います。
言いかけたものの、今、言うべきではないと思い直した。
でも、ぬ、の字は出てしまっていたので、ぬらりひょんにしたんです。
そこから、もしかしたら、貴方なら、真実にたどり着いてくれるかもしれないと思ったんでしょう」
「じゃあ、その期待を裏切ったわけだね」
あはは、と相変わらず、なにも考えてなさそうに橋本は笑って、高岡に睨まれていた。
「まあ、仕方ないです。
市長にはなにも見えてないんですから」
此処には、男の人が居ます、と七月は片手で壁に触れ、高岡たちの方を見た。
「私には寝ていたときにだけ見えたけど、英嗣さんには、この壁の中が見えているようです。
ぬらりひょんの宝とは、お宝ではない。
英嗣さんのお母様がおっしゃっていたように、そんなものがあれば、前市長なら、こっそり取り出して使っていたはずです」
まあ、それはそうかもしれない、と高岡も認めた。
そういう悪事も自分の中でなにかの正義にすり替えてやりそうな男だからだろう。
立派に市政おさめる自分が市長で居るために必要だとかなんとか。
「此処にあるのは、死体です。
恐らく、巳波弥太郎氏が埋めた」
その前の市長がやったのなら、彼には、かばう必要がないからです、と七月は二人に告げた。
すると、座っている英嗣が言ってくる。
「あーあ、僕が謎解きしたかったのに。
僕の声じゃ聞こえないんだもんなー」
わかりましたよっ、と七月は苦笑いし、
「あのー、推理したのは、英嗣さんだと主張しています」
と言ってみたが、もちろん、困った顔をしている高岡には、そこのところはどうでもいいようだった。
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