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ぬらりひょんの宝
お前のせいだ
しおりを挟む「なにやってんですか、市長」
それから数日後、七月は夜の校庭で、高岡と会った。
高岡は、ひとり七竃の前に立ち、見上げていた。
溜息をついて言う。
「高岡さん、とか、真澄さん、とか呼んでみろ」
夜風にさざめく葉を見ながら、暇なことを言ってくる高岡に、
「なんでですか」
と言うと、
「市長、市長と言われて、疲れるからだ」
そう言ってきた。
「好きでなったんでしょ?
野心満々な人でも疲れるんですね」
と言うと、
「批判か?」
と高岡は言う。
「槻田のような男は高潔かもしれないが、そういう人間ばかりじゃ世の中回らないぞ」
と言ってくる。
「仙石さんだって、若い頃は、野心家だったろうが。
今は或る程度の地位を得ているから、落ち着いてるだけだ」
どうした? 難しい顔をして、と言うので、
「いえ、先生が高潔、というところが、ちょっと引っかかっただけです」
と七月は答えた。
最近、少しそこのところは疑問だな、と思っていたからだ。
「車ではねたんだそうだよ」
そうぼそりと高岡は言った。
「はねたのは運転手だが、問題になるのを恐れて、弥太郎ごと逃げたんだそうだ。
何処かまずいとこへの行き帰りだったのかもな」
裏金とか愛人とか、と本人はそんなことには興味ないように、淡々と言う。
「人気のない道だったんで、逃げてしばらくして戻ってきても、死んでそのままだったそうだ。
それで死体を持って逃げて埋めたようだ。
まあ、俺に話していることが全部本当かはわからないが」
と高岡は鼻で笑う。
「余計なことまで聞いてしまったから、これで余計に巳波の一族から逃げられなくなったな。
お前のせいだ、七月」
とこちらを振り返り言う。
「……それで?」
と言うと、ん? と視線を何処かに向けかけた高岡がこちらを見た。
「どうされるんですか?」
「どうもしないさ。
これまで通り、あそこに住んで市長を続ける」
いずれ、治子と結婚するだろう、と言う。
「治子も俺も橋本も吉川さんたちも霊は見えない。
男の霊が居ても関係ないしな。
俺が市長を降りるときは、申し送るさ」
ああ、そうそう、と笑って付け足す。
「だから、市長公舎を売る案はやはり廃案にすることにした」
リフォームもなしだ、と言うので、
「ご自分でやったらどうですか?」
と古い壁を思い出しながら言うと、
「橋本にでもやらせるよ」
と言う。
……やっぱり、動かないんだな、自分では、と常に命令するために産まれてきたような男を見た。
いつもより、少し強い風に吹かれながら、夜の校舎を見上げ、高岡は言う。
「なにがあったか知らないが。
やはり暴かない方がいいことというのはあるようだ」
ぬらりひょんの事件をひよりのことと重ね合わせているのかもしれないと思った。
「巳波弥太郎や俺のような強さがあれば、ひよりも惑わなくてよかったのにな」
「それは強さじゃないですよ。
それに……
貴方も強くはないですよ」
と七月は言う。
高岡は、ひよりの失踪に大きく心を動かされ、戸惑っている。
彼女と義姉弟だった少年の頃の心のままに。
そんなことを思いながら見つめていると、高岡は、
「そこは、俺を抱き締めるところなんじゃないのか」
と言ってくる。
普段は、すっかり少年の頃の恥じらいとか忘れているようですけどね……と思いながら、
「突然、甘えないでくださいよ」
と七月は言った。
高岡に見えているのかどうかわからないが、校舎の中にさっきから、人影が見えている。
ひよりのような気がしていた。
「行こう、七月」
高岡が共に行こうと促すように手を握ってくる。
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