七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

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ぬらりひょんの宝

呪ッテ――

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 誰かが歩いてるな。

 既にパンダの姿でない極悪パンダは、学校の廊下を移動している影を見つけた。

 人の姿は見えないが、影だけが、窓からの月明かりに照らされ、すうっと移動している。

 自分の目には見えないなにかがそこに居るようで。

 女……?

 子供かな?

「おい」
とパンダは声をかけた。

 影は素直に止まる。

 ……いや、止まられても困るな、と呼び止めておいて思っていた。

 やがて、すうっと影の足の辺りから、人の形が立ち昇る。

 それは、さっき、七月たちが追いかけていた女のようだった。

「生き霊か?
 こんなところでなにをしている?」

 こちらを向いた女の顔は、沢木ひよりのものだった。

 七月には、さっきの自分のように影しか見えていなかったようなのだが。

「なにをしている?」

 もう一度、そう問うてみた。

 答えないかと思ったが、ひよりは小さく口を開いた。

 可愛らしい外見からは想像もつかないほどの低い声。

「……呪って」

 確かに、ひよりはそう言った。

「呪って?
 誰かを呪えと言うのか?」

 今はそういう仕事はしてないんだが、と言おうとしたが、ひよりはその言葉を繰り返す。

「呪って……」

 ワタシ ヲ

   呪ッテ――。

 闇にぽかりと開いた空洞のような、なにも映していない瞳でこちらを見る。

 呪ッテ――。

 パンダは扇を閉じ、少し笑って言った。

「女、そう簡単に呪ってもらえると思うなよ。

 この私がこんな姿になってまで、この世にとどまっているように」

『私はお前を許さないっ。
 末代まで祟ってやるっ!』

 血を吐く女の叫びが耳にこびりついている。

 いっそ、呪われたいと願っていたのに――。

 末代まで祟られるはずがのうのうと。
 こんなところで七月たちと楽しく生きている。

 そんな自分が許せなくて、七月たちの許を離れ、姿を見せないようにした。

「お前も諦めて現世に帰れ」

 パンダはその繊細な白い指で、そっとひよりの頬に触れた。

 なにも映してはいなかった、ひよりの目に色が戻り、涙が落ちる。




 お願い。

 私を呪って。

 私は決して許されないことをしたから――。
 


 夜の市長公舎は相変わらず、鬱蒼として怖い。

 七月が呼び鈴を押すと、家政婦の吉川が開けてくれ、食事中だったらしい高岡が出てきた。

「どうした、七月。
 自分から訪ねてくるなんて」
と少し驚いている風にもある高岡の後ろから、橋本が、

「あれー? 七月ちゃん。
 ご飯食べた?」

 一緒にどう? と言いながら現れる。

「いえ、今、そこで、雷太さんに会ったので」
と言うと、少し黙って七月の顔を見ていた高岡は、

「……まあ、上がれ」
と言い、背を向けた。



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