36 / 42
ぬらりひょんの宝
もうなにもかも終わったことだ
しおりを挟む翌日の夕方、七月は学校が終わったあと、ちょっと買い出しに行こうと、新しくできたスーパーへの道を歩いていた。
あれから、英嗣は帰ってこなくて、珍しく一人だ。
解放感があるような、寂しいような、と思っていると、向こうから見覚えのある男が歩いてきた。
顔を上げた男はこちらに気づき、
「おう、七月」
と言う。
あ、どうも、と頭を下げて行こうとしたが、振り返る。
「何故、此処にっ?」
それは雷太だった。
「何故って、莫迦だな。
俺は生きてるんだ。
此処に居て当然だろう」
と言ってくる。
「そんな暇でもないぞ。
この現実世界で働かなきゃ食べてけないしな」
「お仕事、なにをされてるんですか?」
「工事現場で働いてる、今は」
と雷太は言った。
「前の職場、クビになったから」
と訊いてもいないことまで教えてくれる。
だが、七月はその言葉に、いつか見た幻影を思い出していた。
派出所に立って欠伸をしていた雷太の姿。
「前の職場って、警察ですか?」
と訊いたが、違う、と言う。
「まあ、似たようなもんなんだが。
どうもトラブルを呼ぶ体質らしくて。
また今のとこも何事か起こってクビになるかもな」
と言うが、その口調は呑気だ。
半分死者の世界に足を突っ込んでいるからか。
それとも、生来の性格なのか。
「じゃあ、校長先生にでも雇ってもらったらどうですか?
用心棒として」
と言うと、
「学校に用心棒が居るのか」
と訊いてくる。
「どっちかって言うと、夜の職員室のですかね?
でも、学校も今はいろいろ大変ですから。
ところで、前はお仕事なにされてたんですか?」
突っ込んで訊いてくるなあ、という顔を雷太はした。
「刑務官だよ」
えっ。
「警察をクビになって、試験を受けなおして、刑務官になって、またクビになったんだ」
えーと……と思っていると、
「別にフォローはいらない」
と言う。
「民間人に暴力をふるって警察をクビになって。
受刑者が死んだとき近くに居て。
なにやってたんだ、と詰め寄られて、腹立てて上司を殴って、刑務官もクビになった」
えーと……。
「この間、ひとり殺したから、工事現場もクビになるだろうか」
それって、トイレの人のことですよね? と思っていた。
そういえば、あのとき、他にも誰か殺していると言っていたが、と窺うように上目遣いに見たのだが、
「おかしなことに首突っ込むなよ、七月。
華月が泣くぞ」
と言ってくる。
「泣くっていうか。
鎌振り上げて、文句言ってきそうですよね」
と言うと、違いない、と笑っていた。
『華月は姿を消し、佐竹は焼死。
俺は好きな女も親友も失った』
そんな雷太の言葉を思い出す。
この人は、おねえちゃんのことが好きだったのだろうか。
「もうなにもかも終わったことだ。
今更掘り返すな」
と雷太が頭を叩いてくる。
「まあ、まだ罪の意識に囚われて、身動きできなくなっている奴も居るようだが。
俺とか……
沢木ひよりとかな」
俺、も入るんだ、と思いながら、雷太を見上げる。
「心配するな。
お前には関係ないことだ。
七竃も夜の職員室も俺が見張ってる」
こだわるなと言いながら、もっとも呪いに囚われているのであろう、この人はそう言ってくる。
「俺はあの世界に居る方が落ち着くんだ。
あそこには華月も佐竹も居る。
まあ……華月の方は俺にはよく見えないんだが」
と苦笑していた。
「七竃の祟りも放っておけ。
人の世には必要なものなんだよ。
祟りとか、呪いとかってものはな」
戒めのために、と雷太は言った。
0
あなたにおすすめの小説
怪蒐師
糸世朔
ホラー
第8回ホラー•ミステリー大賞で優秀賞を受賞しました。ありがとうございました!
●あらすじ
『階段をのぼるだけで一万円』
大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。
三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。
男は言った。
ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。
ーーもちろん、ただの階段じゃない。
イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。
《目次》
第一話「十三階段」
第二話「忌み地」
第三話「凶宅」
第四話「呪詛箱」
第五話「肉人さん」
第六話「悪夢」
最終話「触穢」
※他サイトでも公開しています。
怪奇蒐集帳(短編集)
naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。
怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——
どれもがただの作り話かもしれない。
だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。
本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。
最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/2/13:『てんじょうのかげ』の章を追加。2026/2/20の朝頃より公開開始予定。
2026/2/12:『れいぞうこ』の章を追加。2026/2/19の朝頃より公開開始予定。
2026/2/11:『わふく』の章を追加。2026/2/18の朝頃より公開開始予定。
2026/2/10:『ふりかえ』の章を追加。2026/2/17の朝頃より公開開始予定。
2026/2/9:『ゆぶね』の章を追加。2026/2/16の朝頃より公開開始予定。
2026/2/8:『ゆき』の章を追加。2026/2/15の朝頃より公開開始予定。
2026/2/7:『かいぎ』の章を追加。2026/2/14の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる