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ぬらりひょんの宝
もうなにもかも終わったことだ
しおりを挟む翌日の夕方、七月は学校が終わったあと、ちょっと買い出しに行こうと、新しくできたスーパーへの道を歩いていた。
あれから、英嗣は帰ってこなくて、珍しく一人だ。
解放感があるような、寂しいような、と思っていると、向こうから見覚えのある男が歩いてきた。
顔を上げた男はこちらに気づき、
「おう、七月」
と言う。
あ、どうも、と頭を下げて行こうとしたが、振り返る。
「何故、此処にっ?」
それは雷太だった。
「何故って、莫迦だな。
俺は生きてるんだ。
此処に居て当然だろう」
と言ってくる。
「そんな暇でもないぞ。
この現実世界で働かなきゃ食べてけないしな」
「お仕事、なにをされてるんですか?」
「工事現場で働いてる、今は」
と雷太は言った。
「前の職場、クビになったから」
と訊いてもいないことまで教えてくれる。
だが、七月はその言葉に、いつか見た幻影を思い出していた。
派出所に立って欠伸をしていた雷太の姿。
「前の職場って、警察ですか?」
と訊いたが、違う、と言う。
「まあ、似たようなもんなんだが。
どうもトラブルを呼ぶ体質らしくて。
また今のとこも何事か起こってクビになるかもな」
と言うが、その口調は呑気だ。
半分死者の世界に足を突っ込んでいるからか。
それとも、生来の性格なのか。
「じゃあ、校長先生にでも雇ってもらったらどうですか?
用心棒として」
と言うと、
「学校に用心棒が居るのか」
と訊いてくる。
「どっちかって言うと、夜の職員室のですかね?
でも、学校も今はいろいろ大変ですから。
ところで、前はお仕事なにされてたんですか?」
突っ込んで訊いてくるなあ、という顔を雷太はした。
「刑務官だよ」
えっ。
「警察をクビになって、試験を受けなおして、刑務官になって、またクビになったんだ」
えーと……と思っていると、
「別にフォローはいらない」
と言う。
「民間人に暴力をふるって警察をクビになって。
受刑者が死んだとき近くに居て。
なにやってたんだ、と詰め寄られて、腹立てて上司を殴って、刑務官もクビになった」
えーと……。
「この間、ひとり殺したから、工事現場もクビになるだろうか」
それって、トイレの人のことですよね? と思っていた。
そういえば、あのとき、他にも誰か殺していると言っていたが、と窺うように上目遣いに見たのだが、
「おかしなことに首突っ込むなよ、七月。
華月が泣くぞ」
と言ってくる。
「泣くっていうか。
鎌振り上げて、文句言ってきそうですよね」
と言うと、違いない、と笑っていた。
『華月は姿を消し、佐竹は焼死。
俺は好きな女も親友も失った』
そんな雷太の言葉を思い出す。
この人は、おねえちゃんのことが好きだったのだろうか。
「もうなにもかも終わったことだ。
今更掘り返すな」
と雷太が頭を叩いてくる。
「まあ、まだ罪の意識に囚われて、身動きできなくなっている奴も居るようだが。
俺とか……
沢木ひよりとかな」
俺、も入るんだ、と思いながら、雷太を見上げる。
「心配するな。
お前には関係ないことだ。
七竃も夜の職員室も俺が見張ってる」
こだわるなと言いながら、もっとも呪いに囚われているのであろう、この人はそう言ってくる。
「俺はあの世界に居る方が落ち着くんだ。
あそこには華月も佐竹も居る。
まあ……華月の方は俺にはよく見えないんだが」
と苦笑していた。
「七竃の祟りも放っておけ。
人の世には必要なものなんだよ。
祟りとか、呪いとかってものはな」
戒めのために、と雷太は言った。
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