七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

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ぬらりひょんの宝

宝の正体

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「七月」
「はい?」

「此処は何処だ?」
と高岡に問われ、さわさわと梢を揺らす七竃に、七月は眉をひそめる。

「まずいですね。
 戻ってきてしまったかもしれません」
と七月は月明かりに照らされた校舎を振り返る。

「なにもかも置いたまま、あの4:44の世界から」

 その窓に、もう人影はない。

「どうして、急に。
 誰かが私たちをあそこに長居させたくないとか?」
と七月が言うと、

「いや、そうとは限らないぞ」
と高岡は言ってくる。

「単に我々があの世界に馴染んでいないのかもしれない」

 まあ、生者だからな、と思ったあとで。

 では、あそこに居た雷太やひよりの影は……と思う。

 高岡もなにか思うように俯いていた。

「……七月」
「はい?」

「なにか鳴ってないか?」

 え? あ……。

「携帯が」
と七月はポケットに手をやる。

 いつの間にか鳴っていたようだ、とスマホを見たが、切れる。

 しかし、

「げ」
と思わず言葉が漏れ出すほどの着信履歴がそこにあった。

 七月の異変を感じ取り、
「どうした。
 見せてみろ」
と高岡が一歩近づく。

「み、見ないでください」
と言いながら、後ずさった七月はそれを身体の後ろに隠した。

「いいから見せろ」
と高岡は七月の腕を掴んで、後ろに手を回し、それを取り上げた。

「あっ。
 やめてくださいっ」

 そこには、あのっ。

「うっ」
と高岡が画面を見て詰まる。

 ……どん引かれるほどの着信履歴が……。

 またスマホが鳴り出した。

「……はい」
と手にしていた高岡が出てしまう。

「うるさいぞ、お前。
 なんだ、着信140件って」

 お前は七月のストーカーか、槻田っ、とわめく高岡の横で、

 いやいや。
 貴方が出ると話がややこしくなるんですってばーっ、
と七月は思っていた。




「あいつがあんな男だとは思わなかった。
 どんどんストーカー度が上がってってないか?」」

 遅くまでやっているイタリアンの店でアラビアータを食べながら、高岡が上目遣いに、こちらを見て言う。

 ははは……、と苦笑いする七月に、
「可哀想だから奢ってやる」
と高岡は言ってきた。

「あ、ありがとうございます」

「で、なんで、俺まで呼ばれてるわけ?」

 今、勤務時間外なんだけど、と橋本が言う。

「俺が七月と二人でこんなところに居たらまずいだろ。
 七月はお前の彼女か、妹ってことで」

 それで、私は橋本さんと並んで座らされてるわけですか……、と七月は思った。

「妹にして。
 槻田に殺されるから」
と言いながら、橋本ももう晩ご飯は食べたというのに、ペスカトーレをパクついている。

「でもそうか。
 ひよりさんは、生きてたのかー」

「デカイ声で話すなよ」
と辺りを気にしながら、高岡が言う。

 ひよりには、なにか考えがあって、隠れていると思っているようだった。

「そういえば、英嗣さんが居ないままなんですよね」
「槻田英嗣か」

 高岡はちょっと考えるような顔をする。

「俺は昔は霊ってのは、なんでも見えてて、なんでもわかってるんだと思ってたが」

「いやー、ちょっと移動に自由がきくくらいで、他はあんまり生きてるときと差はないみたいですよ。
 ああ、あと、見えずに動けるか」
と呟くと、

「七月」
と高岡がこちらを見る。

「ひよりと出会ったら、槻田英嗣にひよりを尾行させろ。
 今度は見失うなよ、と言っておけ」

「そういう言い方すると、絶対やらないですよ、あのひ……」

 あの人、と言い終わる前に、わっ、と七月は声を上げた。

 高岡の横にいきなり、英嗣が座っていたからだ。

 なんだ? という顔で、高岡は七月の視線を追い、橋本は全く気にせず、食べている。

「英嗣さん」
とこのメンバーなので構わず呼びかけると、

「なに一人でウロウロしてんの、七月ちゃん」
と英嗣は言ってくる。

 いや……貴方が私を置いてウロウロしてたんですよね、と思いはしたが、面倒臭くなりそうなので言わなかった。

「七月ちゃん。
 もう、ぬらりひょんの宝の正体をこいつに教えて、手を切りなよ」

 英嗣は高岡を見ながら、そう言ってくる。

「え?
 宝の正体ってなに?」
と訊いた七月に、腕組みした英嗣は、その現場を思い出すように目を細めて言ってきた。

「よく考えたら、君も見てるじゃない」

 え。
 私も見てる?

 ん? と考えていると、外を見た英嗣は、いきなり、
「じゃあね」
と言って消えてしまった。

「あっ。
 英嗣さんっ」
と七月は思わず立ち上がる。

「座れ、七月。
 おかしな人かと思われるだろ」
と高岡が言うのと同時に、橋本が七月の肩を掴んで座らせる。

 息合ってるなー、この二人、と思いながら、七月は飲みかけだったアイスティーを一口飲んだ。

 英嗣は今、窓の外になにを見たのだろうと思ったが。

 目を凝らして見ても、明るい夜道に見覚えのある人影はひとつもなかった。



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