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エピローグ
エピローグ1
しおりを挟む『はい。
では、次のゲストは沢木ひよりさんですー』
七月がコタツで買ってきた弁当を食べていると、そんな陽気な声がラジオから聞こえてきた。
あの時折、霊の声も混ざるラジオだ。
「やっぱ、白身のフライにすりゃよかった」
と斜め前で三橋が言っている。
「僕は豚汁つけて間違いなかったね」
とその斜め前の三村が笑う。
その更に斜め前で、
「この家はいつまでコタツがあるんだ」
と高岡が言い、
「嫌なら、出ろ」
と何故か並んで座っている槻田が言った。
どうして、デカイ男二人が同じところに入ってるんだ……と思っていると、
「っていうか、このコタツ、小さ過ぎだよ。
僕ら入れないし」
と棚の前で英嗣が言い、その横では、パンダが沈黙していた。
「入らなくていいじゃない。
寒いの? 英嗣さん」
と七月が見上げて言うと、
「この光景が薄ら寒いだけだよ。
なんで仲良く弁当なんて食ってんの。
あのラジオも……」
と後ろの棚に置かれたそれを振り返り、英嗣は言う。
久しぶりにラジオに出るから聴いて、とひよりから高岡のところに連絡があったらしい。
自分たちに見つかったことで覚悟が決まったのか。
それとも――
七竃がなくなったからか。
あのあと、パンダとともに、校庭に降りると、高岡が七竃の木に斧を打ちつけていて。
七竃の下の七月は何故か邪魔しに現れたりはしなかった。
そんなことをしても、所詮、無駄だと思っていたからか――。
だが、もちろん、学校の倉庫にあるような小さな斧で素人が木が切り倒せるわけもなく、七竃にはただ、打ち付けられたような痕が残った。
その後、現実に戻った高岡は予定通り木を切らせた。
……切らないって言ったのにな、と思ったが、あの夜、彼にもなにか見えるか聞こえるかして、それで覚悟を決めたのかもしれないと思い、七月も黙っていた。
意志の強い高岡のその覚悟のせいなのか。
七竃はあっさり切り倒され、なんの呪いもなく工事は終わり。
業者は普通に木を運んでいった。
呪いの七竃のあっけない最期だ。
やはり、七竃の呪いなんてなかったんだと街では噂された。
そのタイミングで沢木ひよりも戻ってきたからだ。
『いやー、インドに行ってたんですよー。
ほら、人って行き詰まると、何故かインドに行きたくなるじゃないですか』
とラジオからひよりの笑い声が聞こえてくる。
いや……その辺のコンビニに居ましたよね、と思いながら、七月はチキン南蛮をつついていた。
あの目立つまいとして、余計に目立つ格好で、人目についたりしなかったのだろうか、と他人事ながら不安になったとき、ひよりは言った。
『インドに行くと、不思議な修験者とか仙人とか居て、悟りを開かせてくれそうだからですかね?』
いやいや、それ、なんかいろいろ間違ってますよー、とパーソナリティの人に突っ込まれている。
『だいたい、私、ちゃんと書き置き残してたはずなんですけど。
誰ー?
捨てちゃったのー?』
などと、ひよりは言っていた。
彼女が、こうして辻褄を形だけでも合わせ、現実の生活に戻ろうとしていることはいいことなのか、どうなのか。
『でも、番組中に消えたんじゃなかったでしたっけ?』
『違いますよ。
どんな超常現象ですか。
私は、私の意志で消えたんですよ』
私は、私の意志で消えた――。
そこは間違いないだろうと思っている。
ひよりはひよりの意志で、なにかを悔い、この世界から姿を消そうとしたのだ。
『七竃の祟りだとか言われてましたけど』
『あー、でも、あの七竃。
あっさり切られちゃったらしいですね。
なんかこの街の名所がなくなったみたいで寂しいですよねー。
そのうち、全国ネットの番組が取材とか来たかもしれないのに』
とひよりは心にもないことを本当っぽく言っている。
さすが、アナウンサーだな、と思っていた。
いや、アナウンサーがいつも嘘を言っているわけではないが。
番組が上手く運ぶように、調子よく話を流している。
そう思う七月の側で、三村たちが揉めていた。
「あっ、三橋、ソース取らないでっ」
「俺のなくなったんだよ」
「考えてかけなよ、もう~っ」
……それにしても、騒がしい連中だ。
いや、暗くならなくていいんだが。
っていうか、なんでみんな、うちに集まって、弁当食べてるんだろう。
さすがに雷太は居ないが、彼も何処かでこれを聴いているのかもしれないと思っていた。
リクエスト曲がかかったり、他のトークに流れていったりで、みんなの興味も薄れて、いつの間にか、全然違う話をしながら、弁当を食べていた。
「暑い、暑いぞ、ナナツキッ。
コタツ切れっ」
と三橋が言いながら、既に切り、
「ほう。
やはり、本当の名前は、ナナツキなのか」
と高岡がしょうもないことを言っている。
「あれ?
ラジオ、終わってるよ」
ともう全然違う全国ネットの番組に変わっているラジオに気づいて、そちらを見ながら三村が言うと、高岡が、
「切っとけ。
わーわー、うるさいから」
と身も蓋もないことを言っていた。
だがまあ、確かに。
ひとりで弁当を食べるときなどは騒がしい方がいいので、テレビやラジオが騒いでくれていた方がいいのだが。
こう目の前がうるさいとダブルで騒がしいから、どっちか黙って……と思い、とりあえず、切れる方を切るようになる。
「まあ、ひよりのさよならを聴かなくてよかった」
お茶を飲みながら高岡が、ふいにそんなことを言い出した。
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