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ぬらりひょんの宝
私怨に決まってるだろ
しおりを挟むお手洗いから戻った槻田が、雰囲気のある廊下の途中で足を止め、庭を眺めていると、正面から高岡がやって来た。
「おい」
と咎める。
「橋本を見張ってるんじゃなかったのか」
「大丈夫だよ。
あいつ、どっちかって言うと、熟女好きだし」
今も、貞生たちに呼ばれて行ってしまったと言う。
「じゃあ、七月は今、一人じゃないか」
「過保護だな」
「ぬらりひょんに喰われたらどうする」
「……何処まで本気だ、槻田」
変わったな、と言われた。
高岡はこちらを横目に見、
「しかし、お前、どんな女に言い寄られても動じないなと思っていたら、まさか、女子高生が好きだったとはな」
と言ってくる。
「俺は別に、七月が女子高生だから好きなわけじゃない」
そう言いながら、口の中で違和感があった。
七月が好きだと、本人にも口に出して言ってはいない気がするのに。
何故、こんなところで、こいつに向かって告白してんだ、と思ったからだ。
「第一、俺は、誰にも言い寄られたことなどない」
「お前が気づいてないだけだろ。
ほら……誰だっけ?
ああ、えっと、百花とか」
呼び捨てか、と思いながら、
「それは本当にない」
と答える。
三村の姉、百花が好きだったのは、どうやら、英嗣の方だったようだし。
「お前こそ、浮いた噂のひとつもなかったが」
「当たり前だろ。
いつか政治家になるのに、後からボロボロ週刊誌におかしな告白をする女が現れてくれちゃ困からな。
まあ、女は居ても、バレないよう、上手くやってるし」
そこで、高岡は溜息をついた。
「女ってのは、ほんと簡単に裏切るからな」
お前も気をつけろよ、と言ってくる。
……お前の常識を押し付けるな、と思う。
「ところで、お前、七竃を切れと言っているようだが」
「ああ、あんな物騒な噂のあるものを学園に置いておかないよう校長に行ったんだ。
生徒の気が散るだろ」
「ほんとのところは?」
高岡は迷うことなく、
「私怨に決まってるだろ」
と言った。
やっぱりか……。
高岡は、古いガラス戸の向こうの暗い庭を見、
「ちょっと出るか」
と言ってくる。
槻田は、七月の居るはずの部屋の明かりを振り返りながら、まあ、いざとなったら、英嗣が居るか、と思った。
知らせに来るくらいのことは出来るだろう。
昨夜のように。
こちらの視線を置ったらしい高岡は、大きな石の上のサンダルを引っ掛けながら言った。
「こんな感じの屋敷だが、そうそう殺人事件は起きないぞ」
二時間ドラマじゃないんだ、と言う。
だが、呪いの七竃以外は、極めて平凡なこの街で、何故だか、七月は事件を引き当ててくるんだが。
そう思いながらも、高岡について、庭に降りた。
「吸うか?」
と高岡は煙草を向けてくる。
「いや。
お前、吸うのか?」
「人が居なかったらな」
俺は人じゃないのか、と思いながら、暗闇に灯った高岡の煙草の火を見た。
なにも言わずに、彼の言葉を待つ。
職場は、何処も全面禁煙になっているところが多いので、煙草の匂いは学生時代を思い出して、少し懐かしい感じがした。
一頻り、吸ったあとで、高岡は言った。
「七竃を切れというのは、俺の私怨だ」
「沢木ひよりのことか」
と言うと、
「覚えてたのか」
と言う。
高岡とひよりは姉弟だったことがあるらしい。
そんなに長い間のことではなかったし。
年も同じなのに、姉だ弟だというのも変だったが。
それでも、子供の高岡は、しっかりしたひよりを姉と慕っていたようだ。
「七竃のせいで、ひよりは消えた」
七竃のせいかな?
そうだろうか、と思う。
沢木ひよりが、あの呪いに操られている一人なことには違いないが。
「七竃の呪いのせいで、沢木ひよりが消えたのなら、木を切り倒せば、かえって戻って来られなくなるかもしれないぞ」
そう言うと、高岡は少し考えているようだった。
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