七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

文字の大きさ
16 / 42
ぬらりひょんの宝

ぬらりひょんって居ると思う?

しおりを挟む
 
 七月が目を覚ましたとき、部屋には誰も居なかった。

 いや、生きた人間は居なかった。

 英嗣が側に座り、振り返って、何処かを見つめていた。

 その視線の先には壁がある。

 元は白かったらしい、くすんだクロスの貼られた壁。

 上の方が少し捲れ、ところどころにシミもある。

 そのシミをじっと見ていると、大きなふたつのシミが離れた目のように見えてくる。

 人間って、三つ点があると、人の顔に見えてくるって言うけど、二つでも見えるな。

 そう思いながら、そこより下を凝視している英嗣に、

「英嗣さん、なに見てるんですか?」
と問う。

 いや、と言い、振り向いた英嗣が、

「ねえ、七月ちゃん。
 ぬらりひょんって居ると思う?」
と訊いてきた。

 ちょっと考え、
「英嗣さんは、妖怪って見たことあります?」
と訊き返す。

 うーん、と英嗣は唸り、言った。

「人の魂でない得体の知れないものとは、たまにすれ違うね。

 向こうも特にこっちに干渉してこないけど。

 あれを人が見たら、妖怪って言うのかな、とは思うね」

 なるほどな、と思い、聞いていた。

「ぬらりひょんって、具体的には、どんな妖怪だっけ?」
と今度は英嗣に訊かれる。

「いつの間にか家に普通に居るんじゃなかったでしたっけ?

 この人誰? ってみんなが思ってるけど。
 あまりにも当然のように居るから訊けないとか」

 そうかー、と英嗣は渋い顔をして、また、あの壁を見る。

「なにかあるんですか?」
と七月が立ち上がり、英嗣の視線の先である壁に近づこうとしたとき、戸が開いて、橋本が現れた。

「七月ちゃん、お姉様方が挨拶に来いって」
と言ってくる。

 お姉様方って、あの方々ですか……。

 遠い部屋から笑い声が聞こえてきている。

 貴美、貞生コンビ、プラス、家政婦の方々のようだ。

「味方につけたら、こんなに心強い人たちは他に居ないよ。
 睨まれたら、救いようがないけどね」
と橋本は言う。

 ひい……と思った。

「頑張ってー、七月ちゃん」
と助ける気もなく、英嗣が言う。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

怪蒐師

糸世朔
ホラー
第8回ホラー•ミステリー大賞で優秀賞を受賞しました。ありがとうございました! ●あらすじ 『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」 ※他サイトでも公開しています。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/13:『てんじょうのかげ』の章を追加。2026/2/20の朝頃より公開開始予定。 2026/2/12:『れいぞうこ』の章を追加。2026/2/19の朝頃より公開開始予定。 2026/2/11:『わふく』の章を追加。2026/2/18の朝頃より公開開始予定。 2026/2/10:『ふりかえ』の章を追加。2026/2/17の朝頃より公開開始予定。 2026/2/9:『ゆぶね』の章を追加。2026/2/16の朝頃より公開開始予定。 2026/2/8:『ゆき』の章を追加。2026/2/15の朝頃より公開開始予定。 2026/2/7:『かいぎ』の章を追加。2026/2/14の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...