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ぬらりひょんの宝
此処が一番怖い部屋
しおりを挟むなんだろう。
此処が一番怖い……。
そして、酒臭い。
台所近くの和室の戸を開けると、
「あらー、貴方が七月ちゃん」
と声がして、はははは、と派手な美人が笑う。
どうやら、これが高岡の婚約者、治子の叔母、貴美らしい。
貞生と似た感じの美人だが、彼女の方がぱっと目につく派手さがある。
そう似てるんだよな。
だから、仲悪いんだろうな、と思いながら、七月はその場に手をつき、
「矢部七月です」
と挨拶をした。
なにか挨拶の頭につけるべきだろうか? と思ったのだが、なにも思いつかなかった。
槻田の許嫁と名乗れと言われたが、あまり噓を口にしたくはないし。
槻田先生の元生徒です、というのも、それがどうしたって感じだし。
そんなことを思っていると、貴美はカラカラと笑い、
「やだーっ。
可愛い。
女子高生って可愛いわね。
私も昔、こんなだったかしらー」
と言って、貞生に、
「全然違うわよ」
と言われていた。
「可愛いけど、私、この顔、何処かで見たことあるわよー」
「そう?」
テンションの高い貴美に、貞生は、あくまでも淡々と答える。
貞生の方がさすが、高岡の叔母、なに考えてるのか読めないな、と思っていた。
どうでもいいが、偉そうな軍人さんの霊が一緒に座っているのだが、貴美が笑いながら、少し座っている位置をずらすと、その軍人さんの方が、びくり、と逃げる。
なんだろう。
或る意味、最強な感じの人だ。
この人が叔母さんになるとか大変そうだな、とちょっと高岡に同情してしまった。
「ねえ、七月さん、この市長公舎にお宝があるって噂、ご存知?」
と酒で赤らんだ顔で貴美が訊いてくる。
貞生が、またしょうもない話を始めたという顔をしていた。
「兄さんが此処で死にかけたとき、真澄さんになにか言い残しかけたのよ。
治子の莫迦が遮ってしまってわからなかったんだけど」
自らの姪を莫迦と罵り、貴美は言う。
「あれからすっかり兄さん元気になっちゃって、療養はまだしてるけど、もうなにも言う気はないみたいなの」
「肝臓がお悪いんでしたっけ?」
そんなニュースを以前見たような、と思いながら言うと、
「酒の呑み過ぎよ」
と自らも一升瓶を傍らに置いた状態で、貴美は切り捨てる。
「以前から、此処には海軍が隠した金か金塊があるって噂があったのよ」
「あんた、金持ちの男に身売りして、充分金はあるじゃない。
まだ要るの?」
とこちらもまた自らのグラスに酒を注ぎながら、貞生が言う。
「身売りってなによ。
結婚って言いなさいよ」
二人のやり取りを家政婦たちは、ただ苦笑いして聞いているだけだ。
口を挟まない方がいいと長年の経験で知っているのだろう。
「お金は幾らあっても困らないわよ。
お金も男も。
ねえ、七月ちゃん?」
いや、あの……そこで、ねえ? とか言われても。
お金には興味はないし。
男の人も、槻田先生一人で手を焼いているのに。
そんな複数居ても、ただ、苦労のネタを背負い込むだけのような気がするのだが、貴美は楽しそうだ。
すっと障子が開いた。
なんとなく、槻田を期待したのだが、高岡だった。
「お姉様方、すみませんが、その辺で勘弁してやってくれませんかね」
「あらー、真澄ちゃん。
せっかくだから、一杯注いでよー」
と高岡は早速、貴美に絡まれていた。
高岡は苦笑いしながらも、しょうがないですね、と側に行き、注いでやっていた。
……市長も大変だな、と思いながら、この隙に、と
「じゃあ、失礼します」
と手をつき、頭を下げて出て行く。
貞生が酒を呑みながら、こちらを追うように視線を動かすのが見えた。
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