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ぬらりひょんの宝
枕許に座るモノ
しおりを挟むまだ笑い声が聞こえる気がする。
宴会の笑い声。
いや……今、何時だ?
七月は、ふっと目を覚ました。
視界には入らないが、寝たまま、周囲のことが何故かわかる。
頭の上の壁にかけてある制服。
その近くにある、目のようなシミ。
そして……
枕許に誰かが座ってる。
誰かが正座をして、自分を見下ろしているのだが、そう感じるだけで、姿は見えてこない。
おじさんのような感じがする。
……ぬ、ぬらりひょんか?
と思ったが、やはり、顔は見えなかった。
やっぱり、誰かが覗き込んでる、と思い、七月は目を覚ました。
「おはよう、七月ちゃん」
と英嗣が言う。
昨夜の霊のように、頭の上に座って自分を覗き込んでいる。
「やめてくださいよ、英嗣さん。
霊かと思った」
とうっかり言い、
「霊だけど」
と返される。
いきなり障子が開き、槻田が現れた。
英嗣を見て、眉をひそめる。
「また、こっち来てたのか」
「霊だからね。
好きなところに、瞬間移動できるから。
だから、今回のことも教えられたんだろ、お兄ちゃん。
っていうか、いきなり、女の子の寝てる部屋を開けるとかどうよ?
着替えてたらどうするんだよ」
いや、着替えてる最中も、見えなくなってるだけで、常に側に居る貴方に言われたくないんですが、と思いながら七月は聞いていた。
なんとなく、大正浪漫な雰囲気のダイニングで、七月は家政婦さんたちが用意してくれた朝食をいただいた。
ホテルで出る最もシンプルな朝ご飯といった雰囲気の朝食だ。
ちょうど前に座っていた高岡が七月と槻田に訊いてくる。
「夕べはなにか出たのか? ふたりとも」
「出ました」
とちょっと欠伸をしながら、七月は言う。
「私の頭の上に誰か座ってました。
おじさんっぽかったけど、あれが、ぬらりひょんなんですかね?
普通のおじさんのように感じましたが」
「……顔は見たのか?」
高岡は、窺うようにこちらを見、そう訊いてきた。
「いえ、それが何故か顔は見えなかったんですよ」
と言うと、そうか、と言う。
高岡は、
「槻田、お前は見なかったのか」
と訊いておいて、
「俺はなにも……」
と槻田が言いかけたところで、
「まあ、お前は呑み食らって寝てたから、意識もないか」
と言っていた。
槻田は呑ませたのお前だろ、という顔をしていたが、高岡はそちらを見もせずに、
「槻田を駅まで送ってやれ」
と橋本に命じている。
橋本は、へいへい、とパンにバターを塗りながら、運転手にあるまじき適当な返事をしていた。
「お前は乗っていかないのか」
槻田が高岡にそう訊いたが、高岡は淡々とした口調で、
「俺は毎日、子供たちとゴミを拾いながら、市役所まで歩いてるんだ」
と答えていた。
「大変ですね、市長さん」
と七月は言った。
人気取りという側面はあるとしても、一応、立派なこともしてるんだな、
と思ったからだ。
すると、高岡は七月を見、
「お前もゴミ拾いながらバス停まで行け、矢部七月」
と言い出した。
ええーっ、と声を上げると、
「若いんだろうが、それくらい奉仕しろ」
と高岡は言い出す。
「そういえば、貞生さんたちは」
と辺りを見回し、いつまでもその姿が現れないので七月が問うと、
「あの人たちが、こんな時間に起きてくるわけないだろ」
と投げやりに高岡が言う。
「学生時代、貞生さんちによく貴美さんが泊まりに来てたけど。
いっつもこうだったよ」
なんだかんだで仲いいんだな、あの二人、と思って、ちょっと笑ってしまった。
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