七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

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ぬらりひょんの宝

通りすがりの霊が……

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 槻田は急がないと新幹線に間に合わないようだったので、橋本に送られて、早くに出ることになった。

「後で連絡する」
と玄関先で言う槻田に、

「……はい」
と七月は玄関先で頷いた。

 もっと、なにか言いたいことがある気がするんだが。

 忙しいのに、わざわざ、こうして来てくれたんだから。

 だが、上手い言葉が見つからなかった。

「……いってらっしゃい。
 気をつけて」
としか言えなかったが、何故だか、槻田が珍しく少し微笑んだ。

 うわっ。
 ちょっと、今の顔、くらっと来た……っ、と思いながらも平静を装い、振り向くと、高岡が立っていた。

 腕を組み、眺めていたらしい高岡が、
「新婚家庭か」
と吐き捨てて、中に入っていく。

 な……なんなんだろうな、この人。

 自分ところの市民が幸せそうなのがいけませんかー? 市長、と言いたかったのだが、怖いので、黙っていた。




 顔を洗って、荷物をまとめたあとで、此処から学校までは距離あるから、もう一回トイレに行っとくかな、と思った七月は、庭に面した廊下を通ろうとした。

 話し声が聞こえてくる。

「ふーん。
 あの子、あの部屋で男の霊を見たって言ったの」

 貴美の声のようだ。

「やっぱりなにかあるのかしらね」

 高岡は溜息をついたようだった。

「僕はこれ以上調べない方がいい気がしますけどね、貴美さ……」

 言い終わらないうちに、貴美が高岡の腕を掴み、キスしていた。

 おいおいおい。
 婚約者の叔母さんでは? と七月は太い柱の陰に隠れる。

 やはり、古い屋敷では、陰惨な怨念で、財宝で、男女関係のもつれがっ、と思いながら、そうっと見ていると、貴美にキスされている高岡と目が合った。

 高岡は、冷静な顔で、しっし、と手で七月を払う。

 仕方なく顔を引っ込めた。

「じゃあ、またなにかわかったら教えてね。
 治子はるこより貞生より、先に私に言うのよ」

 そう言って、貴美は行ってしまった。

 そうっと七月が出て行くと、高岡は重い溜息をつく。

「……なにやってんですか、市長」
と言うと、

「言うな」
と言われる。

「外から撮られますよ」
と塀と高い木々の方を指差すと、

「……問題なの、そこか?」
と言われた。

「やはり場数を踏んでいる女は違うな」
と市長は言い出す。

「……踏んでません」

「教師と付き合ってるなんて、スキャンダルだろ。
 警察官僚と女子高生もな」

 あと一年か、バレずに頑張れよ、と言ってくる。

 人を攻撃して、話は終わらせられたと思うのか、と七月が見つめていると、さすがに自分の立場はわかっていたらしく、

「いや、ちょっと、俺は貴美さんには弱くて」
と弁明を始める。

「なんでですか」

「……女子高生には言えないな。
 あまり語りたくない過去だ」

 横で英嗣が、
「この人、きっと学生時代にあの人に弄ばれたんだよ。
 美人のお姉さんだったろうからね」
と笑う。

「きっと、貴美さんが初めての人なんじゃない?」

「もう~、英嗣さん、黙って」
と、つい言ってしまい、高岡が顔を上げた。

「誰が居るのか?」

「いえ、通りすがりの霊が……」
と誤魔化したが、あんまり誤魔化せている気はしなかった。

「七月」

 呼び捨てか。

 まさか、さっきまで矢部七月と言っていたのは、あれでも、槻田に気を使っていたのだろうか。

 気を使って、フルネームで呼び捨てとかおかしくないか? と思っていると、高岡は、

「治子も貴美さんに紹介されたんだ」
と言い出す。

 どんな人間関係だ、と思った。

 振り返った高岡が七月の首に、軽く絞める感じで片手を当ててくる。

「七月、ベラベラ喋るなよ。
 貴美さんに殺されるぞ」

 貴方にじゃなくてですか……と障子に追い詰められながら七月は思っていた。




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