七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

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ぬらりひょんの宝

怖いから追求したくない

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 ようやく高岡から解放された七月は、そうっと通り抜けようとした和室で、貞生に出会った。

「わっ」
と思わず、声を上げてしまう。

 だが、貞生はさっきからのやりとりを聞いていたらしく、

「知ってるわよ、貴美とのことは。
 まだ切れてなかったとは思わなかったけどね。

 もともと、私と貴美が一緒に居たから、貴美は真澄とも居るようになったんだもの。

 可愛かったのよ、真澄は」
と言ってくる。

 幾つのときの話なんだろうな。

 怖いから追求したくない、と思っていた。

「ちょっと」
「は、はいっ」

 もういいかな、と部屋に荷物を取りに戻ろうと思ったのだが、呼び止められ、慌てて振り返る。

 鉈を持った貞生に、一族の恥を知られるくらいなら、やあっ、とやられる幻を見ていたのだが、貞生が口にしたのは、もっと生臭い話だった。

「貴女、貴美が言ってた宝ね。
 見つけたら、私にまず言いなさい。

 ……真澄よりも、貴美よりも先にね」

 わかったわね、と蛇のような切れ長の目で見つめられ、念押しされる。

 ひいいいいっ。
 此処の人たち、怨霊より怖いっ、と思いながら、はいっと頷き、脱兎の如く逃げ出した。
 


 ボストンバッグを手に、市長公舎を出た七月は、ひとりバスに揺られていた。

 荷物はあとで、運んでくれると橋本が言っていたのだが、これ以上関わり合いになりたくないので、丁重にお断りした。

 いつもは乗らないバスで、違う制服に囲まれながら、吊り革を手に七月は窓の外を見る。

 やがて、生徒たちが降り、バスは空いたが、七月はまだそのまま立っていた。

 今更、座るのも面倒くさかったからだ。

 英嗣の家が見えてきた。

 その長い塀を見ながら、

「さっきさ。
 貞生さんに、一族の恥を知られるくらいなら、やあっ、てられるかなと思ったんだけど。

 よく考えたら、殺すのなら、私じゃなくて貴美さんよね。

 あの人、人が居るかもしれないのにあんなことするし、ベラベラ喋りそうだし。

 ……私なら、貴美さんの方を殺るわ」
と呟いて、

 ひいっ、七月ちゃんっ、と英嗣に怯えられる。

 いやあの、貞生さんならそうするかなと思っただけなんだけど。

 さっき、貞生たちを霊より怖いと思ったのに、自分もまた、霊に怯えられてしまった……。




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