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ぬらりひょんの宝
お前が一番呪いに近い人間だから
しおりを挟む「まあ、ひよりさんのことは、ちょっと責任あるかな」
と思ってます。
ベランダで七月は言った。
「……お前に責任があるなんて思ってはいない。
ただ、お前が一番、七竃の呪いに近い人間だからな」
「市長は、ひよりさんがお好きだったわけではないんですよね?
貴美さんと付き合っていたのなら」
「付き合ってたとか言うんじゃない。
もてあそばれてただけだ」
それに誰が好きだとかわからない、と高岡は言う。
月明かりと、後ろからの部屋の明かりに照らされた高岡の、一見、精悍そうな横顔を見ながら、七月は思った。
この人、結構ダメダメだな、と。
朴念仁の槻田先生よりも。
恋愛感情とか、そんなものはいらないと高岡は言う。
「槻田は莫迦だ。
お前といると足を引っ張られて、自滅するのに」
「偉い言われようですねー」
と七月は苦笑いして言った。
「俺は女と一緒に落ちていこうとは思わない」
「いや、槻田先生も落ちてくつもりはないと思いますが。
っていうか、灯油のポンプ持って言っても、サマにならないですよ」
そこで、ストープに灯油を入れていた高岡が叫ぶ。
「だいたい、なんだ、お前はっ。
なんで、この俺に灯油を入れさせるっ」
「いや、入れてくれなんて、言ってないじゃないですか。
今日はコタツだけじゃ、寒いですねって言っただけですよ」
「でも、ストーブに灯油がないんですって言ったじゃないかっ」
「……だからって、別に入れてくださらなくていいんですよ」
市民の意見に、さっと対応するのが癖になっているのだろうか。
「槻田もこうやってお前にこき使われてるんだろうな」
と横目に見ながら、嫌味を言ってくるので、
「いやいや。
槻田先生は、寒いって言う前に灯油入れてくれてますから」
と言った。
「……嫌味か」
「ちょっとだけ」
いや、貴方が入れなきゃならない義理はないんですけど、嫌味を言うから言い返してみました、と思う。
「しかも、ポンプ電動じゃないじゃないかっ。
この俺がこんなことやってるなんて、治子が見たら、驚くぞ」
治子なら、気を使って、疲れてる俺に、こんなことは絶対させないと言い出す。
「だから、やれって言ってないですし。
私、貴方の彼女じゃないんで」
困った人だな、本当に……。
「此処、霊が居るから寒いんじゃないのか?」
「ええっ?
僕のせいっ?」
と高岡の暴言に、英嗣が横で文句を言っていた。
英嗣の反論は、もちろん、高岡には聞こえていないはずなのだが。
この人、気配で察しそうだな、と七月は思う。
「だから、誰も灯油入れろなんて言ってないじゃないですか」
と言うと、
「寒いじゃないか。
エアコンは暖房に関しては、効きが悪いし」
と高岡は言い出した。
「はいはい」
我儘だなー、と思っているこちらを横目に見、
「偉そうだな、お前……」
と言ってくる。
「とりあえず、治子さんに同情しますよ」
こんな男と結婚とか。
我儘だわ、横柄だわ。
……婚約者の叔母さんと浮気してるわ。
「なんだ、その溜息」
「いえいえ、私には関係ないことですから」
と言うと、
「治子の心配などしていらない。
あいつはただのイケメン好きだ。
顔プラス地位があれば誰でもいいんだ。
槻田でもよかったかもな」
と笑う。
「まあ、槻田に近づいたら、お前に殺されるかもしれないが」
うーん、と七月はそこで、眉をひそめた。
「でも……なんかこう、わかんないんですよねー」
とこの扱いづらい王様相手に愚痴ってしまう。
「私、本当に槻田先生が好きなんでしょうか?
槻田先生は本当に私が好きなんでしょうか?」
「そりゃ、お前は知らんが、槻田はお前が好きなんだろうよ。
わざわざ、昨日も駆けつけたくらいだし、今日も電話して来たんじゃないのか」
「そうなんですけどね。
私、恋愛ってものに関して不信感があるんです。
それが何故なのか、よくわからないんですが」
「じゃあ、俺と付き合ってみるか?」
は? と振り向く。
「愛人はスキャンダルになりますよ」
「わかってる。
だが、お前はのちのち週刊誌に売ったりとかしなさそうだし。
俺と付き合ってみたら、槻田が好きかどうかわかるだろう」
いや、そういう確かめ方はどうなんですかね、と思いながら、
「はいはい。
ありがとうございます」
と言うと、
「流すな」
と言われた。
全然、本気で言ってないくせにな。
この人も私と一緒だ、と思う。
本当に知りたいことには、怖くて触れられない。
槻田先生にも、七竃にも。
「私、ずっと、七竃の周りをぐるぐる回ってる気がするんです。
確かめるのが恐ろしくて」
「俺もそうだと言いたいのか」
さすが勘がいいな、と思った。
「……ひよりさん、私が探しますよ。
だから、七竃、切らないでください」
高岡は黙ってその言葉を聞いていた。
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