七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

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ぬらりひょんの宝

毒をもって毒を制す

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 外に出ると、英嗣が白く長い塀に背を預けるような感じに立ち、待っていた。

 なんで入らないの? と訊いていいものかどうか、七月は迷う。

 そうこうしているうちに、英嗣はすぐに七月に憑いた。

 一緒に歩き出す。

「七月ちゃん、毒をもって毒を制すって発想は悪くないけど。
 あの人に話を持って行くと、めんどくさいことになったりするよ」

「ちょっとなりかけたけど、大丈夫よ。
 なにかわかったら、教えてくださるらしいから」

「あの親を情報屋みたいに使うとは、さすが七月ちゃんだね」
と英嗣は笑う。

「親離れ中の僕でも考えつかないな」

 あ、親離れ中なんだ、と思っていると、
「君も華月かづきさんから離れてみたら?」
と言ってくる。

「生まれたときから離れてるわよ」
と言うと、

「精神的にだよ」
と英嗣は言う。

「七竃の呪いから君は離れられない。
 七竃イコール華月さんだからね」

 黙って聞いていた七月だが、ふと、コンビニに目をやり言った。

「ああ、今日はもう疲れちゃったから、コンビニ弁当にしようっと」

「それ、いつも言ってない?」
と英嗣が笑う。

 いつもと違うそのコンビニに入ると、なにを何処で買っていいのかわからなくなってしまった。

 同じ系列のコンビニでも、店舗によって置いてあるものが違うし、配置も違う。

 迷ってウロウロしてしまったが、普段は見ない冷凍食品などを見て、ご飯はあるから、これをチンすればいいか、とレジに向かいかけたとき、ちょうどレジを離れようとした女とぶつかった。

 女は、もう夕暮れどきだと言うのに、強い日差しを避けるようなツバの広い帽子をかぶって、サングラスをかけていた。

 お忍びの芸能人みたいだが、いっそ、見てください、と言っているような格好だ。

 色が真っ白で小柄なその女性は散らばった小銭を拾っている。

「すみません。
 大丈夫ですか」
とお金を拾って渡そうとすると、その女はこちらを見て、はっとした。

 慌てて立ち上がり、行こうとするので、
「あの、お金っ」
と言うと、

「募金箱にでも入れといてっ」
と叫んで女は居なくなる。

 英嗣と二人、ぼんやりと見送ってしまった。

「いらっしゃいませー」
と新しく来た客に陽気な挨拶をする店員さんの声で正気に返った七月は、

「英嗣さん、追ってよ」
と言った。

「どうやってだよ。
 行っちゃったよ、もう」

「だって、霊って瞬間移動できるんじゃないの?」

 槻田のところに、高岡のことを教えに行ったみたいに、と思っていると、
「いや、何処にでも気軽にってわけじゃないよ。
 あの人とはそう面識もないし」

 そこへ飛べとか言われてもよくわからない、と言う。

「でも、霊って面識のない人のところにも出てるじゃない」

「そりゃ、あらかじめ出てるところに向こうから来るだけだって」

 廃墟に居る霊とかになったことないから、よく知らないけど、と英嗣は言う。

「とりあえず、高岡に電話したら?」

「なんか言いつけるようで気が進まないんだけど」
と言うと、

「あの人が無事だってわかったら、七月ちゃんにつきまとう理由がひとつ消えるじゃない。
 それとも、つきまとわれたいの? あの男前の市長に」
とロクでもないことを言ってきた。

「でもさ。
 ひよりさんにも失踪する事情があったんだと思うから。

 先に一度話したいんだけど」

 ひよりが消えてしまった道を見ながら七月はそう呟く。

「そうだよね。
 意外と高岡に迫られて逃げたとかかもしれないもんね。

 七竃関係なしに」

「……英嗣さん、高岡さん、嫌いなのね?」

「あんなの好きな奴居ないだろ」
と英嗣は辛辣しんらつだ。

 ところで、と七月は振り返る。

「コンビニの自動ドアに英嗣さん、反応しないの?」

 前から疑問に思っていたことを訊いてみた。

 英嗣一人だと、すうっと通り抜けてしまうからだ。

「よく怪奇現象で、勝手にセンサー式のライトがついたり、自動ドアが開いたりしてるじゃない」

 考えてみなよ、と英嗣は眉をひそめて見せる。

「七月ちゃんには見えてるでしょ。
 この世にどれだけの霊があふれてると思ってるの?

 いちいち反応してたら、ドアがずっと開いたり閉まったりしちゃうじゃない」

 まあ、それもそうか、と思っていると、
「たぶん、つけたい、という霊の意思があって初めて、ライトもついたりするんだよ。

 此処ニ 居ルヨ……

 ってね」
と小声で呟いてみせる英嗣に、

「やめてよ、英嗣さん。
 それ、ほんとに怖いから。

 霊みたいじゃない」
と言うと、

「霊なんだよ……」
と言う。

「ところで、七月ちゃんには、僕はリアルに姿を見せてるから、生きてる人みたいに見えてるかもしれないんだけど。
 霊だらかね」

 英嗣はこちらに確認させるようにそう言った。

「君、今、コンビニの入り口で大きな声で独り言言ってる人になってるよ」

 ああっ、と慌てて振り向く。

 ちょうど出てくるところだった、コンビニの袋を手にしたサラリーマンが、確かに怯えたように自分を見ていた。

「もう~。
 英嗣さんったらっ」
と言うと、

「ええっ!?
 僕のせいっ?」
と言っていた。



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