七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

文字の大きさ
29 / 42
ぬらりひょんの宝

ポルターガイストくらい起こせますよ

しおりを挟む


 しばらく話したあとで、七月は帰る二人を廊下まで出て見送った。

「下までお送りしましょうか」
と仙谷に言ったが、仙谷は、

「いや、いいよ。
 夜は危ないからね」
と微笑む。

「またうちにも遊びに来なさい」

 はい、と頷くと、高岡が、
「じゃあ、失礼します」
と嘘臭い笑顔で他人行儀に頭を下げていった。

 彼からが帰って十分後、ピンポーンとチャイムが鳴る。

 魚眼レンズから覗いた七月は、
「来ると思ってましたよ」
と言いながら、ドアを開けた。

 高岡が立っている。

「お前、仙石さんに余計なこと言うなよ」
とさっきまでの礼儀正しさは何処へやら、いきなり罵ってきた。

「わかってますよ。
 いいから入ってください。

 貴方目立つので」

 高岡を中に通しながら、七月はまだ迷っていた。

 ひよりと会ったことを彼に話すかどうか。

 だが、閉めようとしたドアが閉まらない。

 見ると、高岡は玄関を入りかけて止まっていた。

「七月、簡単に男を部屋にあげるなよ」

 自分で来といて、なに言ってんだ、と思いながら、
「大丈夫ですよ、英嗣さんが居ますから」

 貴方もそう言ってたじゃないですか、と言うと、
「霊なんだろ?
 居たところで、なにが出来るって言うんだ」
と英嗣が聞いたら怒りそうなことを言ってくる。

「ポルターガイストくらい起こせますよ。
 ね? 英嗣さん。

 ……あれっ?

 英嗣さーん」

「居ないじゃないか……」
と呆れたように高岡は言った。




「しかし、市長。
 なんだって私につきまとうんですか。

 ああ、おかしな意味じゃなくて」
と部屋に入った七月は高岡に訊いた。

「いや。
 お前は、本当は、ぬらりひょんの意味がわかってるんじゃないかと思ってな」

「なんですか、その買い被り」
と言うと、

「お前は、槻田が見込んだ女だからな」
と言う。

 ってことは、槻田先生をそれだけ買ってるってことですね、と思った。

「……実は、私じゃなくて、英嗣さんがなにか気づいてるようなんですが」
と再び、辺りを見回し、

「居ませんね」
と七月は言う。

「肝心なときに役に立たない男だな」

 いや、死者を役立たせようって発想がもう間違ってる気がしますけどね……。

「それとその。
 もうひとつ、貴方に話すか迷っていることが」

 なんだ? と言う高岡に、彼が戻ってきたのも、また運命なのだろうと思い、話すことにした。

「実はさっき、ひよりさんに出会ったんです」

 いつも冷静な高岡が目を見開く。

「本当か?」

「はい。
 英嗣さんの家の近くのコンビニで」

「コンビニ?

 そうか。
 それで、手抜きなお前と出会ったんだな」
と槻田と似た失礼さだ。

 さすが友達だな、と七月は思った。

「あのー……」
と反論しようとしたが、

「なんだ。
 なにか間違っているか。

 さっき、この部屋、温めたコンビニ弁当の匂いがしたぞ」
と言われる。

 ま、まあ、独特ですよね、あの匂い。

 家で作るものと大差ないおかずが入っているはずなのに、いろんなものが狭い中に混在しているせいか、不思議な匂いがする。

「市長、ひよりさんが出て来たことが意外みたいですね。
 さては、貴方がひよりさんを殺していたとか」
と此処のところいいようにされている恨みをぶつけるように言ってみたが、阿呆か、と高岡に切って捨てられた。

「あんな消え方したのに、普通にコンビニに現れてたら、びっくりするだろうが」

 まあ、そりゃそうなんですけどね、と思う。

「じゃあ、ひよりの失踪に、七竃は関係なかったってことか?」

「そうとも言えないと思いますが。
 だって、あの後に消えたわけですし。

 ラジオでは明らかに怪奇現象が起こってましたし」

「よし、七月。
 視察だ」

 は?

「七竃を見に行くぞ」

 切り倒す予定の七竃を見に行くんだ、視察だろ、と言われ、
「ああ、その視察でしたか」
と七月は笑う。

「『しさつ』って言ったら、殺す方かと思うじゃないですか」
と七月は言ったが、

「そんなのはお前らだけだ」
と冷ややかに見下された。

 槻田先生……、

 此処に居もしないのに莫迦にされてますよ~……。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

怪蒐師

糸世朔
ホラー
第8回ホラー•ミステリー大賞で優秀賞を受賞しました。ありがとうございました! ●あらすじ 『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」 ※他サイトでも公開しています。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/13:『てんじょうのかげ』の章を追加。2026/2/20の朝頃より公開開始予定。 2026/2/12:『れいぞうこ』の章を追加。2026/2/19の朝頃より公開開始予定。 2026/2/11:『わふく』の章を追加。2026/2/18の朝頃より公開開始予定。 2026/2/10:『ふりかえ』の章を追加。2026/2/17の朝頃より公開開始予定。 2026/2/9:『ゆぶね』の章を追加。2026/2/16の朝頃より公開開始予定。 2026/2/8:『ゆき』の章を追加。2026/2/15の朝頃より公開開始予定。 2026/2/7:『かいぎ』の章を追加。2026/2/14の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...