禁断のプロポーズ

菱沼あゆ

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終章 もうひとつのプロポーズ

でも、美女だから

 
「夏目」
と一階ロビーに入った夏目は、克己に声をかけられた。

「未咲ちゃんは?
 専務のとこか?」

「いえ。
 もう事件は片付いたので、荷物を取りに此処に」

「へえ。
 もう片付いたの? 凄いね、警察」

 いや、凄かったのは、殺し屋だが。

 克己の手には、赤い小さな袋があった。

 なんとなく目をやると、
「ああ、これ。
 さっき出会った、前、うちに居た子がくれたんだ。

 もう結婚退職してるんだけど、たまに遊びに来る。

 いっつも高いもの持ってきて、みんなに配って、旦那の愚痴のような自慢話をして帰るんだよねー」
と言う。


「苦手そうですね」
と言うと、

「いやいや、美女だから」
とまとめる。

 美女だからで、すべてオッケーなのか? と思いながら、聞いていた。

「確か、お前より、一、二個下だよな。

 此処だけの話、横領してるとか噂が立って、そのとき、するっと結婚退職しちゃったんだよね」

「横領?」

「自分がついてた役員の爺さんをうまくちょろまかしてね。
 俺の仕えてた爺さんなんだけど。

 爺さん、チェック不足で飛ばされて辞めたよ」

「表沙汰にはならないんですか?」

「するわけないだろー。
 会社の不祥事なのに。

 結局、はっきりしないまま。
 犯人は、彼女か、未咲の姉かって言われてたんだけど。

 ほら、平山と三人が仲良かったじゃない」
と言われても、いちいち女子社員を覚えていない。

「二人、同じ頃、辞めたからね。
 でも、片方は、結婚退職だったから、ちょっと未咲の姉さんの方に疑いかかってたけど。

 自殺してるしね。

 まあ、自殺したこと、知ってる人、少ないけど」

「でも、あいつが横領とかしないと思うんですが」

「まあ、あの気性をよく知ってる奴なら、そう思うだろうね。

 僕も知ってる。

 だから犯人はーー

 早川伶奈だ」

 克己は溜息をつき、

「ま、正直、あんまり好きなタイプじゃないよ。

 取引先の社長の息子と結婚して、今や、セレブなようだけど。

 最近、よく会社来るんだよな。

 実はうまくいってなくて、愚痴りに来てるんじゃないの?

 結婚前は取り繕ってても、いつまでも猫被ってられないしね」
と笑う。

「いつからですか?」

「え?」

「いつから、彼女は此処に度々来るようになったんですか?」

「この三月くらいからかな」

 ……三月。

「そうだ。
 ちょうど、今年度の新入社員の入社前顔合わせのときに、たまたま来てたんだよ。

 忙しそうだから帰りますって、あの日は珍しくすぐ帰っちゃったけど」

「その女、もう帰りましたか?」

「さあ?
 知らないけど」

 受付に居た警備員に聞いたら、伶奈はもう帰ったと言う。

 だが、ちょうどやって来た別の警備員が言った。

「早川さんなら、まだその辺にいますよ、たぶん」

「え?」
「ほら」
とガラス越しに向かいのビルを指差す。

 立体駐車場だ。

「いつもこれ見よがしに、玄関前の駐車場にとめるのに、あっちに入れて歩いてきたから、珍しいなと思って。

 真っ赤な変わった形の外車だから、交差点止まってると、目立つんですよね」

 此処に入らず、右折したので、見ていたら、立体駐車場に入れたという。

 なるほど、三階にそれらしき車が見える。

 なんだろう。

 落ち着かない。

 夏目はスマホを取り出した。

 未咲にかけてみる。

 が、すぐには出ない。

 おかしい。

 スマホを取りに行ったはずなのに。

 留守電に切り替わる寸前、未咲が出た。

『夏目さん、今っ、エレベーター!』

 それだけ叫んだあとで、スマホがなにかに叩きつけられ、転がる音がする。

 未咲の悲鳴が聞こえた。

「夏目っ!?」

 エレベーターホールに駆け出すと、克己や警備員もついてきた。

 階数表示を見ると、左のエレベーターが下りてくるところだった。

「未咲っ!」
とエレベーターを叩く。


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