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今のところ、お前が一番気に入っている
恋愛運がアップする観葉植物はありますか?
しおりを挟むなにかもう、ご飯作る気しないなー。
その言葉はいつもは、外食やお惣菜を買うときの言い訳なのだが、今日は本当に、どっと疲れていた。
なんか買ってこよっと、と外に出た葉名は、コンビニも飽きたな、と思いながら、マンション近くの大きな通りを歩く。
すると、ガードレールの側に立つ、ぱっと目を引く背の高い男が、車道の向こうを見つめていた。
あまりの厳しい顔つきに、別人かと思ったが、あのお花屋さんだった。
なんか声かけない方がいいかも、と思い、そうっと後ろを通ろうとしたのだが、その瞬間、彼がこちらを振り向いていた。
うっかり目を合わせてしまう。
「う、あ……こんばんは」
とよくわからない挨拶をすると、誠二はさっきまでの固い表情は何処へやら、
「ああ、こんばんは。
ガジュマル、いい居場所見つかりましたか?」
と愛想よく訊いてくる。
ちょっとホッとしながら、葉名は言った。
「窓辺に置きましたけど。
大丈夫でしょうか?」
強い日差しを好まない木もあるからだ。
「はい、窓際の方がいいと思いますよ。
ガジュマルは日陰でも育ちますけど、やっぱり日が当たった方が喜ぶと思います。
女性の方は、大抵、レースのカーテン閉めてらっしゃいますしね。
直射日光よりも、レースのカーテン越しの光が当たるくらいがちょうどいいかと思いますね」
准とは正反対の穏やかな物言いだった。
「この近くにお住まいなんですか?」
と笑顔で誠二は訊いてくる。
「はい。
すぐそこのマンションです」
と言って後ろを指差すと、振り返り、葉名のマンションを確認したあとで、誠二は笑い、
「訊いておいてなんですけど。
あまり簡単に男に家を教えない方がいいですよ」
と言ってきた。
「……この辺り、物騒な奴もうろついてるみたいなんで」
と呟いたときの顔が、昨日、絞め殺しの木の話をしたときと同じで、ゾクッとしたが、すぐにいつもの顔に戻っていた。
「あのー」
訊いては悪いかと思ったのだが、なにかいろいろと気になるので、ちょっと訊いてみた。
「さっき、なにを見てらしたんですか?」
さっきも、店に居るときとは、別人のような顔で通りの向こうを見ていたからだ。
すると、誠二は、ああ、と爽やかに微笑み、
「いけすかない奴が歩いてるの見かけたもんで」
と言ってくる。
えーと……。
笑顔と話の内容が全然合ってないんですけど、と葉名は固まる。
だが、そのあとは、もう店に居るときの誠二と変わりなかった。
葉名の向かっていた方向に誠二が歩き出したので、なんとなく、二人並んで植物の話をしながら歩く。
「運気の上がる植物ですか。
そうですねー。
だいたい、どんな緑も心安らかにしてくれるので、運気は上がる気がしますけど。
あ、恋愛運ですか?」
と誠二は笑って訊いてきた。
女性にはやはり、それを訊かれることが多いからだろう。
本当は、准のために、仕事運がアップする木を訊いてみようと思っていたのだが。
今、猛烈な勢いで恋愛運が下がっていってる気がしたので、思わず、頷いてしまう。
「そうですね。
やっぱり、モンステラとか、アンスリウムとか、ウンベラータとか。
ハート型の葉や花を持つものとか、特にいい気がしますよね」
と誠二は恋愛運アップの植物を紹介してくれる。
「あと、実がなるようなものとか。
ワイルドストロベリーとか有名ですよね」
「あ、ウンベラータ、私、好きです」
と葉名は笑って言った。
あの細い幹が不思議な感じに曲がっているのが、なんとも言えず、いい感じだ。
リビングに置いてあったりすると、その場に自然に馴染んでいるのに、ふと見ると強いインパクトがあるというか、ちょっと不思議な感じで好きだ。
「欲しいんですけど、大きくて形がいいのは高いし。
ウンベラータ、いつかなにかで成功したら、欲しいです」
と葉名は語る。
准が居たら、
「いつかって、いつだ?
なにかって、なにでだ?」
といらぬツッコミを入れて来そうだな、と思いながら。
だが、その場に居たのは、悪王子ではなく、愛想のいいお花屋さんだったので、
「じゃあ、今度、安くていいのがないか見ておきますよ」
と言ってくれた。
「ありがとうございます。
あ、私、晩ご飯買いに来たので」
と右側に見えてきたファストフードの店を指差しながら、葉名が言うと、
「じゃあ、僕も買って帰ろうかな」
と誠二が言い、そのまま、なんとなく一緒に店に入った。
「そうだ。
掃除する気になる観葉植物とかないですかね?」
と呟いて、
「……えっ?」
とやさしい誠二を苦笑いさせながら。
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