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第二章 覗き女
桧山の未来
しおりを挟む二階にいた桧山は下が騒がしいことに気がついた。
町から呉服屋が来て、反物を並べているようだった。
商売熱心な彼らは自分を捜していることだろう。
そう思いながらも、今日は会いたくなかった。
何処かへ身を隠したい気持ちだと思い見ると、ちょうどあのからくり扉があった。
穴に指を引っかけ引っ張ってみる。
扉は簡単にくるりと回った。
あの娘が身を隠すようになってから作ったものだ。
だから、古そうに細工がしてあるが、実は此処だけ板が新しく、近づくと木の香りがする。
大工の客などは不審に思うかもな、と思っていた。
まあ、見つかっても、咲夜のことだ。
噂の幽霊花魁のふりなどして、なんとかするだろう。
姉などより、余程厄介な女に育ったな、と桧山は思う。
咲夜の部屋は奇麗に片付いていた。
が、片付けているのは長太郎に違いない。
楼主の命により、彼女を護身する者となっている長太郎だが、気がつけば、雑用までやらされているようだった。
というか、ずぼらな咲夜を見ていて、几帳面な長太郎が堪えきれずに片付けていると言ったところだろう。
そんな風に暗い部屋で、ぼんやりしていると、遠い昔を思い出す。
うららかな春の日、幼い桧山は誘われて、格子越しに掌を突き出した。
昼見世に出ていた姉さんに物を持って行ったら、手相を見ていた易者が、子供の桧山をただで見てやろうと言ってきたのだ。
老人だったからだろう。
孫を見るように目を細めて、桧山を見、
「どれどれ」
ともみじの手を掴んだ。
『おやおや、これはこれは』
易者は小さな手を掴んだまま、顔をほころばせる。
『あんた、吉原一の花魁になるよ』
周りの姉さんたちは笑っていた。
だから、もしかしたら、みんなにそう言っているのかもしれないと思った。
桧山はその老人に、姉さんにもらった飴を渡した。
老人は微笑んで、格子の前から居なくなった。
春の日差しに照らされたその背を見送りながら、桧山は、でも、貴方にはわかっていない、と思っていた。
貴方の予見は当たっているのかもしれない。
でも、貴方はわかっていない。
私は確かに、吉原一の花魁となるだろう。
だが、なんの犠牲もなく、その地位につくわけではないのだと言うことを。
その占い師には、自分に見えている残酷な未来までは見通せてはいないようだった。
占い師と会ってから数年後、新造となった桧山の許に、その娘は現れた。
「お前も、世話しておやり」
遣手の言葉に、じっと自分を見上げてくるその娘の歳の頃は、自分より少し下くらいか。
驚くくらい整った顔をしてた。
そのとき、自分は悟ったのだ。
私が殺すのは、この娘だ、と。
未来は誰にも変えられはしない。
幼い頃から霊が見え、わずかに未来も見える自分にも――。
これから多くの出来事が起こり、様々なことを考え、幾つもの選択肢があるのだろうが。
きっとこの未来は変えられはしない。
明野の顔を初めて見たあのとき、自分は、そう悟っていた。
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