あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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プレオープンですっ!

流れるように働かされている

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 今日こそは……と覚悟を決めて、青田はその家の前に立っていた。

 なんだかこの間来たときと全然雰囲気が違うなと思いながら。

 ともかく一度は出社してこい、寮に入れとあのやり手の社長に言われ、今日こそ今日こそと思いながら、日延ひのべしてしまっていたのだが。

 とりあえず、寮には入ろうっ、と思い立った日曜日。
 なんとか此処までは出てきたのだが。

 あのあばら屋敷はずいぶんと様変わりしてしまっていた。

 まず、今にも倒壊しそうだった大きな日本家屋が、城下町とかにありそうな小洒落た古民家カフェ風の外観になっている。

 庭の草ぼうぼうはそのままだが。
 可愛らしい低めのフェンスで囲まれ、まるで、あちこちに、わざと作った野草の花壇があるかのようになっている。

 そして、その花壇と花壇の間のスペースに、流行りのアウトドアブランドのテントが二張り、張られていた。

「のどかー。
 タンポポのサンドイッチと、スギナのピザはー?」

 テントの中から出てきたOL風の女子は、中に向かってそう叫んだあとで、こちらに気づき、
「のどかー、またイケメン来たー」
と言う。

「ええっ?
 呪いでっ?」

「いや、正面からー」
と中と外で話していたが、やがて、成瀬社長の妻、のどかがひょいと出てくる。

「ああっ、青田さんじゃないですかっ。
 お待ちしてましたっ。

 なんて、ナイスなところにっ」
と言いながら、のどかが手招きしてくる。

 ……ナイスなところに?
と思う自分を、

「はい、すみません。
 手を洗ってくださいー」
と言いながら、のどかは洗面所に連れていく。

 そして、後ろにしゃがみ、背後から腰に手を回してきた。

 社長の美人妻に腰に触れられ、思わず赤くなったが、気がつくと、ギャルソン風の長いエプロンをつけさせられていた。

「青田さん、来たばかりのところ、申し訳ないんですが。

 一生のお願いですっ。
 ちょっと手伝ってくださいませんか?」
とのどかは自分に向かい、手を合わせてくる。

 すると、片手にトレーを持った八神とかいう刑事が笑いながら言ってきた。

「手伝ってくださいませんかって、お前、もうエプロンつけさせてるじゃないか。
 っていうか、俺、此処で働いたら、クビにならないか?」

「いやいや。
 バイト代出しませんから、大丈夫です」

 善意のお手伝いってことで、と言うのどかに、八神は、
「……それは俺的に大丈夫じゃないな」
と呟いていたが、ちゃんと運んでいた。

「それがですねー、青田さん。
 実は今日は、お店のプレオープンの日なんですよ」

「あっ、お忙しいときに来てすみませんでした」

 いえいえ、お気になさらずに、とのどかは手を振り、笑う。

「それが知り合いの人とかご招待したんですけど。

 ちょっと人数多すぎてさばききれなくて……

 って、どうしたんですか、蒲田かまたさんっ」
とのどかが、じっと壁の方を見ていたかと思うと、いきなりしゃがんだガタイのいい男に向かい、言う。

「いや~。
 飯塚に言われて作ったこの下の窓がどうも気になって」

 光を取り入れるためなのか、お洒落でなのか。
 壁の下の方に細い窓が幾つか作られていた。

「ああっ、今、工事始めないでくださいっ」
とのどかが叫んだそこに飯塚という男がやってきて、

「蒲田さん、そこ、もう話ついてたはずでしょうっ?」
と揉め始める。

「いや、やっぱり、此処は大きく上に窓をとった方が。
 最近の設計士はライトも暗めのを使うし。
 だいたい……」

「ひーっ。
 今、揉めないでくださいっ。

 あっ、青田さん、これ、外の猫が居る方のテントに」

 キッチンから来たトレーが流れるように自分の手許に来た。

 反射で受け取りながら、青田は、
「ね、猫って移動しませんか?」
とのどかに訊く。

「あ、移動してたら、猫に訊いてください」
「猫にっ?」

「さっき、どっちのテントに居ましたかって」

 すぐ教えてくれますよっ、と言ったのどかは、
「中原さんっ」
とのどかは水を運んでいる色白の男を呼び止める。

「招待状出したのに、綾太、来ないじゃないですかっ。
 寮側の庭にもテーブル出してもらおうかと思ったのに~」

「……客として呼んだんじゃないのか」

 こき使う気満々じゃないか、とその男はのどかに言う。

「っていうか、俺も客として呼ばれたはずなんだが。
 ……まあ、一宿一飯の恩義があるから働いてやるが」

「ありがとうございますっ。
 このお礼は必ずやっ。

 あっ、その水、縁側の席のですから。
 青田さんは猫のテント!」

 さすが社長の妻というか、仕事を頼むテンポがよく、その中原という男も自分も思わず、従ってしまう。

 外に出ると、猫は案の定、じっとしてなくて、ウロウロしていた。

 騒がしい雰囲気に押されるように、
「すみません。
 さっきまで居たテントは何処ですか?

 この注文を持ってくテントです」
と猫にうっかり訊いてしまう。

 猫は左側のテントに行き、自分を見上げて、

「にゃ」
と言った。

 可愛いな……と思っていると、テントの中から出てきた女子たちが、
「やだーっ。
 泰親さん、また来たーっ」

「可愛いーっ」
とその猫をテントの中に引きずり込んでいる。

「……ハコベのサラダ、置いときますね」
と言って、青田はそっとテントの中のテーブルに皿を置いた。




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