ネタバレすると、俺が男主人公なことは確定。

杏2唯

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俺は男でアイツは女で?

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「わ! 麻丘くんの名前みーっけ!」

 気付いたら体育館の外に移動していて、昇降口まで来ていた。
 きっと佐伯が引っ張ってくれたんだろう。今日一日で何回佐伯に手を引いてもらってんだ俺。

 目の前にはAからDまでのクラスに分けられたクラス表が貼られている。
 佐伯が指差しているところに“麻丘 伸也”と俺の名前が記されていて、俺は本当にこのマジヤバな学園の生徒なんだと改めて実感させられた。

 A組の一番上にある俺の名前。昔からそうだ。“あ”行から始まる苗字を持つ者の宿命といえる出席番号一番。
 相田さんや相川さん等が出てこない限り俺は二番になることはない。え? そんな話どうでもいいって? じゃあお前らにわかるのか!
 一人ずつ何か発表するときいつも一番最初にやらされて事前の心の準備もまともに出来ないままいつも中途半端な発表をしてしまう出席番号一番の気持ちが!

「あ、あった! ねえねえ、見て麻丘くん!」

 佐伯に制服の袖をぐいぐいと引っ張られる。待ってこれ女子にされたかったことランキングの結構上位にランクインしてた袖グイじゃねーか。 

「同じクラス! すごい!」

 俺の名前のいくつか下に“佐伯 那智”と佐伯の名前があった。どうやら佐伯も俺と同じA組のようだ。

「うわ、何か今めちゃくちゃ安心感……佐伯と同じクラスでよかった」
「私もだよ~! 今年一年間、是非是非よろしくお願いしますっ!」

 じゃあ教室に行こっか、と佐伯は歩き出した。俺もそれについて行く。
 佐伯は今にもスキップしそうなくらいな足取りで、周りに花が飛んでそうなくらいうきうきしている様子に見える。
 同じく教室へと向かっている他の生徒の奴らも楽しそうな感じで……え? 今すぐ退学したいと思ってるくらい気分どんよりしてんの俺だけ?

 ガラッと重く感じる教室のドアを開けて中へ入った。
 がやがやとしている教室。見渡す限り普通の男女が集まっているようにしか見えない。でも、違うんだよな……

 あの女子も! あの女子も! あの女子も!
 男かもしれないんだろ!? 女子かどうかわからないんだよな!?

「待て待て女装にしてもクオリティ高すぎるってどうなってんだよこんなのわかるワケねーだろ」

 ああ、やっぱり頭が痛くなってきた。

「麻丘くん、席この辺でいい?」
「え、いいけど……そんな勝手に決めていいのか?」
「うーん。 いいみたいだね」

 佐伯の視線の先を見ると、黒板にデカデカと【席は早いモン勝ち!】と書かれていた。忘れてた……この学園は自由がウリなんだった……

 窓際の一番後ろとか、ただ単に一番後ろとか、人気が高そうな席はもう空いてなくて、真ん中の列の三列目に横並びで佐伯と座る。

「いや席が自由ってさー、いいようで、何か違うんだよなぁ」
「え~、自由席の学校なんて初めてで私は嬉しいけどなぁ。 普通指定席だし……」
「何で佐伯がそんな新幹線の座席みたいな言い方するのかは置いといて、ほら、席替えってやっぱりドキドキするイベントだったりしなかった?」

 教卓の目の前の席になると「最悪だーっ!」ってなったり、逆に後ろだと「よっしゃー!」だし。可愛い女子の隣だとそりゃもうテンション上がったし。 

「私は、麻丘くんの隣の席になれたから席替えなくてもいいなって今思っちゃってるけど」
「え」
「あ! でも今日偶然会って、偶然同じ学校で、偶然同じクラスだったから、自由席じゃなくても麻丘くんと私隣の席になれた気がする! そこまでいったらもう偶然じゃなくて運命だよね」

 何だろう。佐伯の後ろに白い羽が見える気がする。天使か?
 佐伯の言葉を聞いてから俺の中で席替えはクソイベントと化した。ドキドキするイベント? そんなこと言ったっけ。

「えーっと、俺はさ」
「うん?」
「同じクラスだった時点で、偶然じゃなくて運命だなって思っちゃったり……した、んだけど……」

 言ってる途中でめちゃくちゃ恥ずかしくなった。俺初対面の同級生に何言っちゃってんだ。 
 それもこれも、佐伯が突然可愛いこと言うから悪いんだ。耐性のない俺はすぐ本気に取っちゃうからマジ気を付けてほしいです。

「……ふふ。嬉しい。通学路で会ったのが他の人じゃなくて麻丘くんでよかった」
「い、いやいや! こちらこそ! 俺に話しかけてくれてありがとっていうか」

 まぁあの時他に人いなかったけど! そんなの関係なし! 他に人がいなかったのも運命ってことにしてしまおう。

「はぁい、みんな席着いてる~? 着いてるね~おっけ~」

 俺と佐伯の青春ラブコメな空気を壊すように、随分と気の抜けた声といかにもやる気なさそうな女の人が教室に入った来た。
 多分この流れからいくと、担任の先生、だよな?

 担任と思われるその女の人は黒板に書いてあった文字を適当にササッと消すと、適当な字でササッと名前を書き始める。

「えー、今日から一年間、A組の担任をする東雲郁シノノメイクちゃんせんせぇです~。ちなみに担当科目は国語だからねぇ」

 よろしくぅ~と、ダラッとした袖から僅かに見える手を振る東雲先生。
 どう見てもサイズが合っていない大き目のスーツを着て……ってよりスーツに着られてるよなコレ。このサイズ間違いはわざとなのか?

「ちなみにせんせぇは女だから、これは本当だから。見たまんまでしょ? おっぱいもちゃんとあるし」

 そんなこと言われてもスーツが大きいせいでおっぱいらしきもの全然見当たらないんですけど……? でもまぁ教師まで性別わからないってことはないのか。

「うーんと、自己紹介とかする? めんどくさいよね? 各自で勝手にやって下さぁい」

――大丈夫かこの先生。眠いのか生徒達の前で大きなあくびをしている。
 ここは生徒だけじゃなくて教師のキャラクターも一人一人濃そうだな。つーかこんな学園の教師を引き受けるんだから変に決まってるか。

「可愛いね東雲先生。ゆるキャラみたい」 
「ゆるキャラっていうか、まじでゆるゆるなだけな気が……」

 佐伯には東雲先生が可愛いゆるキャラに見えるらしい。でもアレは多分本気でやる気ない人間のゆるさだ。俺にはわかる。春休み中の俺があんなんだったからだ。

「で、今からさっき校長先生が言っていた大事な大事な生徒手帳を配りまぁす。中に学生証が入ってるから、絶対に人に見せちゃだぁめ、だからね~」

 学生証……! 校長が言ってた、本当の性別を証明出来る唯一のもの……!

「生徒手帳にはこの学園でのルールが事細かく書かれてるから、ちゃぁんとじ~っくりコトコト読むこと。一緒に明日からのスケジュールが書かれたプリントも配るからこれも各自見といてねぇ」

 じっくりコトコトはスルーするとこ? 明日からのスケジュール今日配るってギリギリだな!? 誰も何のツッコミもいれないからむずむずするんですけど!?

「じゃあ出席番号順に配るからね~……あーめんどくさい……このまま一番の子に全部配ってもらいたい……あ、ダメか学生証入ってるんだった……ハァ~……麻丘伸也く~ん!」
「……はい」

 俺の名前言うまでにどんだけ愚痴がこぼれんだ。
 たかだか一クラス分の生徒手帳とプリント配るだけだろ。この先生テスト作るのとかテストの採点とかちゃんと出来るのか今から不安で仕方ないんだが。
 そんなことより、これからの自分の学園生活の方が不安なワケですけども……

「はぁい! さっきの入学式では目立ってたねぇ」
「へっ! い、いや……そんなことは」
「この三年間で素敵な恋愛するんだよぉ~応援してるからねぇ」

 東雲先生にそう言われながら肩をポンポンされた。そして少しざわつく教室内。

「あー……さっき何か校長に言ってた……」「離れてたから見えなかったけどこんな普通そうな奴だったのか」「目立ってたぞー! ナイスナイス!」

 いろんな声が聞こえてくる。くそ、余計なこと言いやがって……! 
 素敵な恋愛だ? だからこんな性別もわかんねーとこでどうやってするっていうんだよ出来ねーーーーよっ!

 席に着いて、渡された生徒手帳をめくる。
 そこには俺の写真入りの学生証が入っていた。入学手続きのときに謎に提出させられた写真ってここに使われるものだったのか……学生証なのに私服の写真なのが違和感過ぎる。

 学生証にはハッキリと名前の横の性別欄に【男】と記入されていた。
 男っていう文字を見て無駄に安心する。そうだよな、俺男で間違ってないよな。
 これで【女】って書かれてたら学園のことも親のことも信じられなくなるところだった。

 生徒手帳には、村咲学園の校則がズラーッと書かれているが、ぶっちゃけ今のこの状態だと何も頭に入って来ない。
 帰ってから心を落ち着かせて見た方が、まだ受け入れられる気がする……気がするだけだけど。

 顔を上げると、生徒手帳とプリントを手に取った佐伯が席に戻ってくる最中だった。
 佐伯は席に着くと、俺と同じように生徒手帳をめくって、学生証が入っている(と思われる)ところをじーっと見ている。
 そんな佐伯を横目で見ながら、今まで全く考えていなかったことが俺の頭をよぎった。

 ――佐伯って、女子だよな?

 当たり前かのようにそう思っていた。
 あのメチャクチャな校則を体育館で聞いたときも、何故か佐伯だけは絶対に女子だと信じ込んでいた。
 でも、もしかしたら。
 
「どうしたの? 麻丘くん」

 俺の視線に気付いたのか、佐伯が生徒手帳をパタンと閉じて俺に笑いかける。

「あのさ、変なこと聞いていい? ……佐伯は、女子、だよな?」

 今日一番の緊張感が走る。
 俺の言葉に佐伯の表情が笑顔からスッと真顔になった。あれ、こういう質問自体いけないんだっけ……

「麻丘くん言ってくれたよね。私のセーラー服姿見て可愛いって」
「え? あ、うん。言った。今も思ってる」
「……それをそのまま信じてほしいな」

 佐伯はそれだけ言うとまた前を向き直して生徒手帳を見直し始めた。

 俺が可愛いって思ったことを、そのまま信じてほしい――

 つまり、そのままだと、女子ってことだよな? でもハッキリ女子とは言わないのが少しだけ気になる――って。
 何馬鹿なこと考えてんだよ! どっからどう見ても佐伯は女の子だろ!
 この女子特有のか弱い感じ! 守ってあげたくなるような……! 
 何より、信じてほしい、って。
 まだ今日初めて会ったばかりで、佐伯のことなんて全然知らない。けど……
 佐伯が嘘をつく人間には、見えない。

――信じるよ、佐伯。 

「あ、ねぇ、麻丘くんは実際どっちなの?」
「いやどっからどう見ても男ですけど!?」

 だから佐伯も信じてくれ。俺は正真正銘の男です。

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