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45 帰宅(ハミルトン視点)
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王宮で陛下とフェリシアが魔道具に触れるとすべての魔石が光りだした。
これでフェリシアが陛下の娘だと証明されたわけだ。
もっとも証明される前から陛下はフェリシアの声を聞いて、恋人だったフェリシアの母親の声にそっくりだと言って暴走していたのだが…。
お祖父様の体調を懸念してとりあえず公爵家に戻る事になったが、そうでなければ陛下はフェリシアを王宮から出そうとはしなかっただろう。
フェリシアと二人で公爵家に戻れると思っていたのに、またしてもユージーンがしゃしゃり出てきやがった。
馬車までフェリシアをエスコートしようとしたら、ユージーンまでもがフェリシアに手を差し伸べる。
「ハミルトン、もう君の妹ではないと確定したのに、どうしてまだエスコートしようとするんだい?」
…こいつ、答えをわかっていて聞いてるな。
「妹じゃないとわかってホッとしたよ。僕はフェリシアの事が好きになったんだ。だから今度正式にフェリシアに結婚を申し込むつもりだ」
出来ればこの話はまだフェリシアに聞かせたくはなかったのに、ユージーンのせいで台無しだ。
ユージーンと二人で馬車までエスコートすると、フェリシアはサッと先に馬車に乗り込むと席の真ん中に陣取ってしまった。
これでは僕とユージーンは向かいに並んで座るしかない。
フェリシアがユージーンと並んで座るのを見せられるよりはマシだが、それでも不満は隠せない。
「ほんの少しの辛抱ですよ。我慢してくださいね」
そんなふうにニッコリと微笑まれたら嫌とは言えないな。
「おい、あまりひっつくなよ」
「お前こそもう少し離れろよ」
二人で不毛な争いをしているうちに馬車は公爵家の門をくぐって行った。
応接室ではフェリシアはお祖父様の隣に座ってしまい、またもやユージーンと並んで腰を下ろす事に不満を漏らしているとお祖父様に一喝された。
フェリシアが明日には王宮に向かうと告げるとお祖父様はコクリと頷いた。
お祖父様への報告が終わってもユージーンが何かと理由をつけて留まろうとしたが、お祖父様にひと睨みされてスゴスゴと王宮に帰って行った。
フェリシアと過ごす最後の夜をユージーンに邪魔されたくはなかったのでホッとした。
部屋に戻ろうとするフェリシアに何か言いたかったけれど、彼女は気付かないふりをしてさっさと自室に戻って行った。
僕は急いでお祖父様の部屋を訪れる。
「どうした、ハミルトン。何か用事か?」
お祖父様に問われて僕は大きく息を吸い込むと、それを吐き出す勢いで告げた。
「お祖父様、僕はフェリシアと結婚したいと思います。陛下に打診をお願いしてもいいですか?」
お祖父様は一瞬目を丸くしたが、やがて納得したように頷いた。
「フェリシアがお前の妹じゃないと知って妙に嬉しそうな顔をしていたのはそういう理由か。お前はともかく、フェリシアの気持ちはどうなんだ? ダグラスやエリックのように意に沿わない結婚などさせたくないからな。先ずはフェリシアの気持ちが一番だ。フェリシアがお前と結婚したいと言うのならば、いくらでもエリックに進言してやろう」
「ありがとうございます、お祖父様」
お祖父様が請け負ってくれた事で僕はホッと安堵する。
フェリシアも何となく僕に好意を抱いているのは自惚れでもなんでもないと思っている。
ただ、すぐには結婚に結びつかないだけかもしれない。
僕は意気揚々と自分の部屋へと戻って行った。
夕食が終わった後で、フェリシアは小さな箱をお祖父様へと手渡した。
中には一束の遺髪と遺骨が収められていた。
「これはダグラスとまったく同じ色の髪だな。フェリシアも似たような色だが、少し濃すぎると思っていたんだ」
僕はその髪の毛の束に釘付けになった。
僕には父上の記憶がない。
だからあの髪の色は父上にそっくりだと聞かされてもピンと来ない。
むしろ僕にそっくりだと思う。
僕は会うことの叶わなかった妹ジェシカに思いを馳せた。
これでフェリシアが陛下の娘だと証明されたわけだ。
もっとも証明される前から陛下はフェリシアの声を聞いて、恋人だったフェリシアの母親の声にそっくりだと言って暴走していたのだが…。
お祖父様の体調を懸念してとりあえず公爵家に戻る事になったが、そうでなければ陛下はフェリシアを王宮から出そうとはしなかっただろう。
フェリシアと二人で公爵家に戻れると思っていたのに、またしてもユージーンがしゃしゃり出てきやがった。
馬車までフェリシアをエスコートしようとしたら、ユージーンまでもがフェリシアに手を差し伸べる。
「ハミルトン、もう君の妹ではないと確定したのに、どうしてまだエスコートしようとするんだい?」
…こいつ、答えをわかっていて聞いてるな。
「妹じゃないとわかってホッとしたよ。僕はフェリシアの事が好きになったんだ。だから今度正式にフェリシアに結婚を申し込むつもりだ」
出来ればこの話はまだフェリシアに聞かせたくはなかったのに、ユージーンのせいで台無しだ。
ユージーンと二人で馬車までエスコートすると、フェリシアはサッと先に馬車に乗り込むと席の真ん中に陣取ってしまった。
これでは僕とユージーンは向かいに並んで座るしかない。
フェリシアがユージーンと並んで座るのを見せられるよりはマシだが、それでも不満は隠せない。
「ほんの少しの辛抱ですよ。我慢してくださいね」
そんなふうにニッコリと微笑まれたら嫌とは言えないな。
「おい、あまりひっつくなよ」
「お前こそもう少し離れろよ」
二人で不毛な争いをしているうちに馬車は公爵家の門をくぐって行った。
応接室ではフェリシアはお祖父様の隣に座ってしまい、またもやユージーンと並んで腰を下ろす事に不満を漏らしているとお祖父様に一喝された。
フェリシアが明日には王宮に向かうと告げるとお祖父様はコクリと頷いた。
お祖父様への報告が終わってもユージーンが何かと理由をつけて留まろうとしたが、お祖父様にひと睨みされてスゴスゴと王宮に帰って行った。
フェリシアと過ごす最後の夜をユージーンに邪魔されたくはなかったのでホッとした。
部屋に戻ろうとするフェリシアに何か言いたかったけれど、彼女は気付かないふりをしてさっさと自室に戻って行った。
僕は急いでお祖父様の部屋を訪れる。
「どうした、ハミルトン。何か用事か?」
お祖父様に問われて僕は大きく息を吸い込むと、それを吐き出す勢いで告げた。
「お祖父様、僕はフェリシアと結婚したいと思います。陛下に打診をお願いしてもいいですか?」
お祖父様は一瞬目を丸くしたが、やがて納得したように頷いた。
「フェリシアがお前の妹じゃないと知って妙に嬉しそうな顔をしていたのはそういう理由か。お前はともかく、フェリシアの気持ちはどうなんだ? ダグラスやエリックのように意に沿わない結婚などさせたくないからな。先ずはフェリシアの気持ちが一番だ。フェリシアがお前と結婚したいと言うのならば、いくらでもエリックに進言してやろう」
「ありがとうございます、お祖父様」
お祖父様が請け負ってくれた事で僕はホッと安堵する。
フェリシアも何となく僕に好意を抱いているのは自惚れでもなんでもないと思っている。
ただ、すぐには結婚に結びつかないだけかもしれない。
僕は意気揚々と自分の部屋へと戻って行った。
夕食が終わった後で、フェリシアは小さな箱をお祖父様へと手渡した。
中には一束の遺髪と遺骨が収められていた。
「これはダグラスとまったく同じ色の髪だな。フェリシアも似たような色だが、少し濃すぎると思っていたんだ」
僕はその髪の毛の束に釘付けになった。
僕には父上の記憶がない。
だからあの髪の色は父上にそっくりだと聞かされてもピンと来ない。
むしろ僕にそっくりだと思う。
僕は会うことの叶わなかった妹ジェシカに思いを馳せた。
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