4 / 52
4 自己紹介
しおりを挟む
ベッドに横になっていると天幕の外にいる人の話し声が聞こえてきた。
「団長が女性を保護するなんて珍しいな。女嫌いって噂は嘘なのか?」
「あれだけいい男なのに浮いた話は聞かないからな。でも宮廷魔術師のグレンダさんと仲が良いって聞いたけどな」
「仲が良くても結婚は無理だろ。彼女は平民だから次期侯爵当主の団長とは結ばれないって」
「身分違いの恋かぁ、燃えるねぇ」
さっきのローブを着た人と、別の誰かのお喋りで団長さんが身分の高い人だとわかった。
グレンダさんという魔術師の女性が恋人なのかどうかはわからないけど、そういう人がいてもおかしくないよね。
いろんな事がありすぎて疲れてしまっていたらしく、私はいつの間にか眠っていたようだ。
ガヤガヤと外がうるさくなって来た事で目を覚ますと、ちょうど天幕の入り口から団長さんが入ってくる所だった。
「待たせてすまなかったね。ゆっくり休めたか?」
私は前がはだけないように布を掴み直すと慎重に起き上がった。
あの村が襲われていると連絡があったのか、元々追っていた人攫い達だったのかはわからないが、そのためにここにいるのは明白だ。
「いえ、お仕事ですから当然です。それよりも助けていただきありがとうございます」
あのまま放っておかれてもおかしくはないのにわざわざここまで連れてきてもらったのだ。もう一度ちゃんとお礼が言いたかった。
「流石にその格好では出歩けないだろう。私の服で申し訳ないがこちらに着替えてもらえるか? ちゃんと洗濯はしてある」
団長さんはそう言うと、ベッドの横に置いてあった木箱から服を出してきた。
「外に出てるから着替え終わったら声をかけてくれ」
私の横に服を置くと天幕から出て行った。
団長さんが置いていった服を広げてみると、白いシャツと黒いズボンだった。
私はブレザーとブラウスを脱ぐと団長さんのシャツに袖を通した。
…うわぁ、これって彼シャツ?
この世界でもそういう認識があるのかはわからないが、袖は長いし胴回りもブカブカだ。
だけど、スカートは無事なのにどうしてズボンまで出してきたのかな?
そう思ってさっき抱き上げられた時の事を思い返した。
団長さんは私を抱き上げる前に足先まで布でくるんだのだ。
もしかして女性は足を見せちゃいけないって事かな。
そう考えるとズボンまで出されたのも納得だ。
腰回りが入るかどうか不安だったが、無事に履けてホッとした。
裾は折り曲げなきゃいけなかったけどね。
脱いだ服を折り畳んでまとめると、ベッドを下りて天幕の入り口に向かった。
出入り口の幕を開けるとそこには団長さんの背中があった。
「…あの、着替え終わりました」
団長さんは振り向くと私を見てスッと目を細めた。
ちょっと笑ってる?
その笑顔の破壊力にダメージを食らいつつもなんとか笑顔を返す。
団長さんは天幕の中に入ると私をテーブルの方に誘導した。
向かい合って座ると私を安心させるように柔らかく微笑んだ。
「まだ自己処をしていなかったね。この騎士団の団長をしているエイブラム・ジェンクスだ。君の名前は?」
「アリスです」
日本名の名字なんて言っても通じるかどうかわからないから、アリスだけで通す事にした。
「アリスか。君はあの村の人じゃないね。何処からか攫われて来たのかな?」
転移してきたなんて言っても信じてもらえるかどうかわからないから、私はコクリと頷いた。
人攫い達に罪を着せるようで悪いけど、私一人攫ってきた事を追加した所で極刑なのは変わらないだろう。
「君の髪の色をみるとこの国の人でもないようだ。何処から来たんだ?」
何処からって聞かれても「日本」って答えてもわからないよね。
「…わかりません。気がついたらあの村にいました」
これは本当の事だから問題ないよね。
だけど団長さんは別の意味に捉えたようだ。
「攫われたショックで記憶を無くしたのか。可哀想に…」
団長さんは少し黙ったあと、私にニコリと微笑んできた。
「すぐには君を返す事は出来ないが、記憶が戻るまで家に来るといい。それでいいかな?」
そこら辺に放り出されても文句は言えないのに、わざわざ自分の家に連れて行ってくれるなんていいのかな?
「…そんなの、ご迷惑じゃ…」
「気にしなくていいよ。家の母も君がいれば喜ぶさ。それじゃさっそく行こうか」
団長さんは立ち上がると私に手を差し出してきた。
私はその手に吸い寄せられるように自分の手を重ねた。
「団長が女性を保護するなんて珍しいな。女嫌いって噂は嘘なのか?」
「あれだけいい男なのに浮いた話は聞かないからな。でも宮廷魔術師のグレンダさんと仲が良いって聞いたけどな」
「仲が良くても結婚は無理だろ。彼女は平民だから次期侯爵当主の団長とは結ばれないって」
「身分違いの恋かぁ、燃えるねぇ」
さっきのローブを着た人と、別の誰かのお喋りで団長さんが身分の高い人だとわかった。
グレンダさんという魔術師の女性が恋人なのかどうかはわからないけど、そういう人がいてもおかしくないよね。
いろんな事がありすぎて疲れてしまっていたらしく、私はいつの間にか眠っていたようだ。
ガヤガヤと外がうるさくなって来た事で目を覚ますと、ちょうど天幕の入り口から団長さんが入ってくる所だった。
「待たせてすまなかったね。ゆっくり休めたか?」
私は前がはだけないように布を掴み直すと慎重に起き上がった。
あの村が襲われていると連絡があったのか、元々追っていた人攫い達だったのかはわからないが、そのためにここにいるのは明白だ。
「いえ、お仕事ですから当然です。それよりも助けていただきありがとうございます」
あのまま放っておかれてもおかしくはないのにわざわざここまで連れてきてもらったのだ。もう一度ちゃんとお礼が言いたかった。
「流石にその格好では出歩けないだろう。私の服で申し訳ないがこちらに着替えてもらえるか? ちゃんと洗濯はしてある」
団長さんはそう言うと、ベッドの横に置いてあった木箱から服を出してきた。
「外に出てるから着替え終わったら声をかけてくれ」
私の横に服を置くと天幕から出て行った。
団長さんが置いていった服を広げてみると、白いシャツと黒いズボンだった。
私はブレザーとブラウスを脱ぐと団長さんのシャツに袖を通した。
…うわぁ、これって彼シャツ?
この世界でもそういう認識があるのかはわからないが、袖は長いし胴回りもブカブカだ。
だけど、スカートは無事なのにどうしてズボンまで出してきたのかな?
そう思ってさっき抱き上げられた時の事を思い返した。
団長さんは私を抱き上げる前に足先まで布でくるんだのだ。
もしかして女性は足を見せちゃいけないって事かな。
そう考えるとズボンまで出されたのも納得だ。
腰回りが入るかどうか不安だったが、無事に履けてホッとした。
裾は折り曲げなきゃいけなかったけどね。
脱いだ服を折り畳んでまとめると、ベッドを下りて天幕の入り口に向かった。
出入り口の幕を開けるとそこには団長さんの背中があった。
「…あの、着替え終わりました」
団長さんは振り向くと私を見てスッと目を細めた。
ちょっと笑ってる?
その笑顔の破壊力にダメージを食らいつつもなんとか笑顔を返す。
団長さんは天幕の中に入ると私をテーブルの方に誘導した。
向かい合って座ると私を安心させるように柔らかく微笑んだ。
「まだ自己処をしていなかったね。この騎士団の団長をしているエイブラム・ジェンクスだ。君の名前は?」
「アリスです」
日本名の名字なんて言っても通じるかどうかわからないから、アリスだけで通す事にした。
「アリスか。君はあの村の人じゃないね。何処からか攫われて来たのかな?」
転移してきたなんて言っても信じてもらえるかどうかわからないから、私はコクリと頷いた。
人攫い達に罪を着せるようで悪いけど、私一人攫ってきた事を追加した所で極刑なのは変わらないだろう。
「君の髪の色をみるとこの国の人でもないようだ。何処から来たんだ?」
何処からって聞かれても「日本」って答えてもわからないよね。
「…わかりません。気がついたらあの村にいました」
これは本当の事だから問題ないよね。
だけど団長さんは別の意味に捉えたようだ。
「攫われたショックで記憶を無くしたのか。可哀想に…」
団長さんは少し黙ったあと、私にニコリと微笑んできた。
「すぐには君を返す事は出来ないが、記憶が戻るまで家に来るといい。それでいいかな?」
そこら辺に放り出されても文句は言えないのに、わざわざ自分の家に連れて行ってくれるなんていいのかな?
「…そんなの、ご迷惑じゃ…」
「気にしなくていいよ。家の母も君がいれば喜ぶさ。それじゃさっそく行こうか」
団長さんは立ち上がると私に手を差し出してきた。
私はその手に吸い寄せられるように自分の手を重ねた。
9
あなたにおすすめの小説
山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する
紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!!
完結済み。
毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
モンスターを癒やす森暮らしの薬師姫、騎士と出会う
甘塩ます☆
恋愛
冷たい地下牢で育った少女リラは、自身の出自を知らぬまま、ある日訪れた混乱に乗じて森へと逃げ出す。そこで彼女は、凶暴な瘴気に覆われた狼と出会うが、触れるだけでその瘴気を浄化する不思議な力があることに気づく。リラは狼を癒し、共に森で暮らすうち、他のモンスターたちとも心を通わせ、彼らの怪我や病を癒していく。モンスターたちは感謝の印に、彼女の知らない貴重な品々や硬貨を贈るのだった。
そんなある日、森に薬草採取に訪れた騎士アルベールと遭遇する。彼は、最近異常なほど穏やかな森のモンスターたちに違和感を覚えていた。世間知らずのリラは、自分を捕らえに来たのかと怯えるが、アルベールの差し出す「食料」と「服」に警戒を解き、彼を「飯をくれる仲間」と認識する。リラが彼に見せた、モンスターから贈られた膨大な量の希少な品々に、アルベールは度肝を抜かれる。リラの無垢さと、秘められた能力に気づき始めたアルベールは……
陰謀渦巻く世界で二人の運命はどうなるのか
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
氷の騎士と陽だまりの薬師令嬢 ~呪われた最強騎士様を、没落貴族の私がこっそり全力で癒します!~
放浪人
恋愛
薬師として細々と暮らす没落貴族の令嬢リリア。ある夜、彼女は森で深手を負い倒れていた騎士団副団長アレクシスを偶然助ける。彼は「氷の騎士」と噂されるほど冷徹で近寄りがたい男だったが、リリアの作る薬とささやかな治癒魔法だけが、彼を蝕む古傷の痛みを和らげることができた。
「……お前の薬だけが、頼りだ」
秘密の治療を続けるうち、リリアはアレクシスの不器用な優しさや孤独に触れ、次第に惹かれていく。しかし、彼の立場を狙う政敵や、リリアの才能を妬む者の妨害が二人を襲う。身分違いの恋、迫りくる危機。リリアは愛する人を守るため、薬師としての知識と勇気を武器に立ち向かうことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる