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第9章
第197話
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【なんで?】「ワフッ?」
「ほんと何でこんなことになったんだろうな?」
宿屋に戻り、留守番をしていたキュウとクウのに事の経緯を説明すると、2匹の従魔は首を傾げた。
自分たちを尾行してきた人間に、わざわざ距離を縮めるようなことをしたらバレる可能性も高くなる。
何か理由があるのかと思ったのだが、肝心のケイも人ごとのように呟く。
ケイ自身も、人違いだと思わせることができた時、早々に立ち去っていればこんなことにはならなかったのにと、今は少し後悔している。
「奥さんが病気って聞いたらな……」
【…………】「…………」
ケイの呟きに、キュウとクウは少しシュンとして黙り込んだ。
2匹も、ケイの妻だった美花のことを思い出したからだろう。
従魔のキュウはケイと一緒にいることが多かったが、それは同時に美花と一緒にいたということでもある。
主人のケイの側にはいつも美花がいたし、美花といるケイはいつも楽しそうだった。
キュウも美花には良くしてもらったし、亡くなった今でも思い出すと悲しい気持ちになる。
それはクウも同じだ。
元は美花の従魔だったクウは、毎日のように遊んでもらっていた。
美花からしたら、ただ一緒に散歩に行ったりしていただけだろうが、クウには楽しい時間だった。
ケイの従魔になったが、今でも美花といた時のことを思いだす。
“く~……”
「悲しくなっても腹は減るんだよな……」
湿っぽい空気が室内に流れる中、動いてきたからかケイの腹の音が鳴る。
何故かこういう時でも腹は空く。
美花を亡くして、食べることなんて考えていないそんな時でも鳴っていた。
ある意味、これがあるからこそ、ケイは今も生きているという部分がある。
というのも、美花が亡くなって頭が真っ白になった時、腹が鳴ったことで自分が生きているということを思いだした部分がある。
生きている人間は、亡くなった者のためにも生きる義務がある。
いつ聞いた言葉だか分からないが、何故だかその言葉が頭に浮かんできた。
亡くなった者は、生きている者の記憶から消えた時こそが本当の死を意味する。
たしか、そんな意味だった気がする。
亡くなった者のことを他の人に伝え続ければ、記憶から消えることはない。
伝え聞いた者も、それを他の人へ伝えることにより、亡くなった者の本当の意味での死が訪れないようにできる。
そのことを思いだした時、このままでは良くないと思ったケイは、生きることを決意したのだった。
「……飯でも食うか?」
【うん!】「ワンッ!」
腹が減っては戦もできぬ。
アウレリオのことは一旦忘れ、ケイたちは食事をすることにしたのだった。
◆◆◆◆◆
「フ~……」
あまり近くに居過ぎると、警戒されて逃げられる気がして、ケイたちとは違う宿屋に泊まることにしたアウレリオは、ベッドに横になり一息つく。
組み手をしたことで、現在の自分の問題点が理解できた。
ブランクによる持久力の低下と、魔力のコントロールの練習不足。
どっちもすぐには取り戻すという訳にはいかない。
「…………ケイ、あいつ何か隠している気がする」
直感を信じてここまで来たが、その直感に引っかかったのは手配書の人間とは顔が違った。
そもそも、なんとなく引っかかったから追ってきたので、最初にかかったのが手配書の男だという確証はなかった。
何もかもを見通せるほどこの直感も万能じゃないのは分かっていたが、ハズレを引いた気はしていなかった。
「この手配書の男ではないようだが、……何か引っかかる」
冒険者時代、捕まえた犯罪者の中には、魔力を使って顔を別人に見せるという方法を取っていた者もいたが、それは魔力を上手くコントロールできない者にのみしか通用しない。
どんなに魔力コントロールが上手く、分からないようにしようとしても、誤魔化されるというミスを犯すつもりはない。
ブランクがある今でもそうだ。
ランクが高い冒険者だったアウレリオだが、錬金術に詳しくないため、マスクで顔を変えるという発想がない。
そのため、手配書の男とケイが同一人物だということに気付いていない。
ただ、昔取った杵柄というか、他の人間にはない特殊な感覚を持っているからか、見事に正解を引き当てていたのだ。
「やっぱりブランクのせいか?」
ケイとの組手で、自分が鈍っていることを改めて思い知った。
だからなのか、直感に関しても確証が持てないでいる。
ブランクがあるのは分かっていたし、解消しないといけないのは分かっているが、追っていたのが手配書の男でないと分かった今、他に直感に引っかかる人間がいないか、周辺の町や村を回って探しにいかなければならないのが普通だ。
妻のベアトリスの病気を一刻も早く治すためにもそうするべきなのだが、どうしてもケイが気になる。
「ブランクを解消しよう。それに稽古をしている最中に何か気付くことができるかもしれない」
感覚重視で強くなったアウレリオにとって、それを無視するということはどうもできない。
ケイには、確かに何かを隠しているという思いがあるが、それだけが気になるという訳でもない。
関わっていれば、何かしら良いことが待っている。
そんな気も、何故だかしている。
咄嗟にブランク解消の手伝いを頼んでしまったが、もしかしたらかなりいい作戦だったのかもしれない。
アウレリオは、密かにもう少しケイを探ることを決めたのだった。
「ほんと何でこんなことになったんだろうな?」
宿屋に戻り、留守番をしていたキュウとクウのに事の経緯を説明すると、2匹の従魔は首を傾げた。
自分たちを尾行してきた人間に、わざわざ距離を縮めるようなことをしたらバレる可能性も高くなる。
何か理由があるのかと思ったのだが、肝心のケイも人ごとのように呟く。
ケイ自身も、人違いだと思わせることができた時、早々に立ち去っていればこんなことにはならなかったのにと、今は少し後悔している。
「奥さんが病気って聞いたらな……」
【…………】「…………」
ケイの呟きに、キュウとクウは少しシュンとして黙り込んだ。
2匹も、ケイの妻だった美花のことを思い出したからだろう。
従魔のキュウはケイと一緒にいることが多かったが、それは同時に美花と一緒にいたということでもある。
主人のケイの側にはいつも美花がいたし、美花といるケイはいつも楽しそうだった。
キュウも美花には良くしてもらったし、亡くなった今でも思い出すと悲しい気持ちになる。
それはクウも同じだ。
元は美花の従魔だったクウは、毎日のように遊んでもらっていた。
美花からしたら、ただ一緒に散歩に行ったりしていただけだろうが、クウには楽しい時間だった。
ケイの従魔になったが、今でも美花といた時のことを思いだす。
“く~……”
「悲しくなっても腹は減るんだよな……」
湿っぽい空気が室内に流れる中、動いてきたからかケイの腹の音が鳴る。
何故かこういう時でも腹は空く。
美花を亡くして、食べることなんて考えていないそんな時でも鳴っていた。
ある意味、これがあるからこそ、ケイは今も生きているという部分がある。
というのも、美花が亡くなって頭が真っ白になった時、腹が鳴ったことで自分が生きているということを思いだした部分がある。
生きている人間は、亡くなった者のためにも生きる義務がある。
いつ聞いた言葉だか分からないが、何故だかその言葉が頭に浮かんできた。
亡くなった者は、生きている者の記憶から消えた時こそが本当の死を意味する。
たしか、そんな意味だった気がする。
亡くなった者のことを他の人に伝え続ければ、記憶から消えることはない。
伝え聞いた者も、それを他の人へ伝えることにより、亡くなった者の本当の意味での死が訪れないようにできる。
そのことを思いだした時、このままでは良くないと思ったケイは、生きることを決意したのだった。
「……飯でも食うか?」
【うん!】「ワンッ!」
腹が減っては戦もできぬ。
アウレリオのことは一旦忘れ、ケイたちは食事をすることにしたのだった。
◆◆◆◆◆
「フ~……」
あまり近くに居過ぎると、警戒されて逃げられる気がして、ケイたちとは違う宿屋に泊まることにしたアウレリオは、ベッドに横になり一息つく。
組み手をしたことで、現在の自分の問題点が理解できた。
ブランクによる持久力の低下と、魔力のコントロールの練習不足。
どっちもすぐには取り戻すという訳にはいかない。
「…………ケイ、あいつ何か隠している気がする」
直感を信じてここまで来たが、その直感に引っかかったのは手配書の人間とは顔が違った。
そもそも、なんとなく引っかかったから追ってきたので、最初にかかったのが手配書の男だという確証はなかった。
何もかもを見通せるほどこの直感も万能じゃないのは分かっていたが、ハズレを引いた気はしていなかった。
「この手配書の男ではないようだが、……何か引っかかる」
冒険者時代、捕まえた犯罪者の中には、魔力を使って顔を別人に見せるという方法を取っていた者もいたが、それは魔力を上手くコントロールできない者にのみしか通用しない。
どんなに魔力コントロールが上手く、分からないようにしようとしても、誤魔化されるというミスを犯すつもりはない。
ブランクがある今でもそうだ。
ランクが高い冒険者だったアウレリオだが、錬金術に詳しくないため、マスクで顔を変えるという発想がない。
そのため、手配書の男とケイが同一人物だということに気付いていない。
ただ、昔取った杵柄というか、他の人間にはない特殊な感覚を持っているからか、見事に正解を引き当てていたのだ。
「やっぱりブランクのせいか?」
ケイとの組手で、自分が鈍っていることを改めて思い知った。
だからなのか、直感に関しても確証が持てないでいる。
ブランクがあるのは分かっていたし、解消しないといけないのは分かっているが、追っていたのが手配書の男でないと分かった今、他に直感に引っかかる人間がいないか、周辺の町や村を回って探しにいかなければならないのが普通だ。
妻のベアトリスの病気を一刻も早く治すためにもそうするべきなのだが、どうしてもケイが気になる。
「ブランクを解消しよう。それに稽古をしている最中に何か気付くことができるかもしれない」
感覚重視で強くなったアウレリオにとって、それを無視するということはどうもできない。
ケイには、確かに何かを隠しているという思いがあるが、それだけが気になるという訳でもない。
関わっていれば、何かしら良いことが待っている。
そんな気も、何故だかしている。
咄嗟にブランク解消の手伝いを頼んでしまったが、もしかしたらかなりいい作戦だったのかもしれない。
アウレリオは、密かにもう少しケイを探ることを決めたのだった。
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