エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
256 / 375
第10章

第256話

しおりを挟む
「ほぅ~……」

 飛び出した冒険者たちの戦いぶりに、敵であるはずの佐志峰も感心したような声をあげる。
 というのも、

「ハッ!!」

「たぁ!!」

 何百もの蛇が周囲を囲む中、冒険者の者たちは問題なく斬り倒していたからだ。
 彼らの周囲には薄い膜のような物が張り巡らされており、その膜の内部へ蛇たちが侵入できないため、囲まれているとは言っても焦ることなく対応できているのだろう。
 冒険者たちの武器により、バッサバッサと真っ二つになっていく蛇たち。
 二の足を踏んでいた日向の兵たちも、その戦い方に集中していた。

「すごいですね……」

「えぇ、彼らはかなりのランクの冒険者なのでしょう」

 彼らの戦いぶりに目を見張っていたのは西厚も同じらしく、小さく呟いく。
 その呟きに、ケイは同意しつつ彼ら冒険者のことを分析していた。
 戦っているのは10人程で、組み合わせからいって2パーティーといった感じだろうか。
 回復・援護系の男性との女性、魔法攻撃担当の女性が2人、タンク役の男性2人、剣士が2人、槍使いの女性と鎖鎌を持っている男性の10名だ。
 前衛と後衛がバランスよく、どんな魔物が出ても対応できるように考えられた組み合わせのようだ。
 どういう理由でこの戦いに参加しているのかは分からないが、魔物相手に戦うことに慣れているという意味では、日向の兵たちよりも佐志峰へ近付ける可能性のあるだろう。

「……蛇が巻き付けないでいるあれは、障壁のような物ですか?」

「えぇ、あの後方に位置する者に掛けて貰っているのでしょう」

 後方に控える回復・援護係の2人を指さし、ケイは西厚へと説明をする。
 彼らも日向の者たち同様に魔闘術を使っている。
 それだけでSランク以上だと分かるが、それだけでは蛇に巻かれて餌食になるだけ。
 なので、更に防御力を上げるために障壁を張ることで蛇の侵入を防いでいるのだ。
 その障壁を張っているのが、魔法を使って攻撃しているの者に守られている回復・援護係の2人だ。

「日向の剣士方も似たようなものを使えるはずですよ」

「本当ですか?」

 冒険者の者たちの戦い方は、魔法を使わない日向の人間には珍しく感じるのかもしれない。
 しかし、別に日向の人間が蛇を相手に戦えないという訳ではない。
 冒険者たちとは少し違う方法ではあるが、方法はある。

「もしかして、アスプの睡眠眼や毒の息を防いだあれですか?」

「その通りです」

 西厚は察しが良いようだ。
 ケイが言った言葉で、アスプと戦ったことを思いだしたようだ。
 それもそのはず、あの時、ケイの提案を八坂が西厚に伝えたからこそアスプを倒すことに成功したのだから。
 あの時のように魔力を壁にすれば、冒険者たちのように長い時間戦えるという訳ではないが、少しの時間なら蛇を減らすことができるはずだ。

「ただ、問題があります。魔力の消費に気を付けないと……」

「……突如壁が消えて蛇にやれると?」

「その通りです」

 ケイの言いたいことを察したのか、西厚は言葉をつなげる。
 あの時は通常の魔闘術と違って顔を覆うことで対処したが、今度は全身を覆うという戦い方になる。
 魔闘術なら当たり前のように使いこなしている日向の兵たちでも、慣れない戦い方に勝手が分からず、消耗する魔力は激しくなる。
 きちんと自分の魔力残量を計算していないと、突然障壁が弱まったりして蛇の侵入を防ぐ効果をなくしかねない。
 その部分が注意するべきところだ。

「それを他の隊に伝えなければ……」

 西厚の部隊はアスプとの戦いで経験があるため、見本を見せることができる。
 他の隊に戦法と見本を見せれば、蛇を削ることは容易になるはずだ。
 そう思った西厚は、南門の担当である責任者に伝えに行こうと目を向ける。

「大丈夫ですよ!」

「何故?」

 伝えに行こうとする西厚を、ケイが止める。
 魔物の数を減らしていっているとは言っても、冒険者たちだけではそのうち魔力が切れてやられてしまうかもしれない。
 他国のことに尽力してくれている勇敢な戦士たちに、異人だとか関係ない。
 このまま彼らにだけ任せておくのは日向の恥になる。
 そのためには、一刻も早く対処法を他の者に伝えるべきなのに、それを止めるケイに西厚は疑問に思った。

「見てください。冒険者の者たちがいた隊の方たちが魔力を練っています」

「……それが?」

 ケイの指さして言う通り、冒険者たちが出て行ったところの部隊の者たちは魔力を練っている。
 それだけでは分からなかった西厚は、もう一度ケイに問いかけた。

「恐らく冒険者たちの彼らが私と同じ考えを伝えていたのでしょう。ですから、西厚殿も兵の方たちにいつでも動けるようご指示をした方が良いかと……」

「っ!! なるほど!!」

 魔力を体から離すのが苦手な日向の者たちでは、他人に魔力で障壁を張るようなことは今この場ではできない。
 ならば自分で張るしかないが、魔闘術を使うことに慣れてはいても、二重に魔力を纏うといった方法は試してきてはいないだろう。
 魔力を練るのにも時間がかかって戦闘向きではないが、冒険者の彼らに魔物が集中している今を無駄にできない。
 長時間の戦闘も難しいのだから、一斉にかかるタイミングを逃してはならない。
 そのため、ケイは西厚に説明をした。

「皆の者! アスプ戦を思いだせ! あの時の要領でもう一枚魔力を全身に纏うのだ!」

 ケイのもっともな意見を受け、西厚もすぐに兵たちに魔力を練るように指示を出した。
 とは言っても、西厚の部隊はそのアスプ戦で魔力を消費しているので、他の隊よりもさらに戦える時間は少ないかもしれない。

「もしもの場合は自分が援護に動きます」

「お願いいたす」

 西厚もそのことを危惧しているかもしれないと思ったケイは、その時は自分も動くと安心させるために告げた。
 その言葉に、西厚は感謝の言葉を述べた。

『恐らく動かなければならないかもしれないからな……』

 大量の蛇の魔物に目が行っていて、どこの隊も佐志峰の方には行っていない気がする。
 しかし、ケイは蛇のことよりも佐志峰の方ばかり警戒している。
 大量の蛇とは言っても、ケイからすればそこそこの魔物でしかなく、魔法を放てば一気に減らすことも不可能ではない。
 しかし、そんなことをして魔力を消費しては、気になっている佐志峰を相手にする時、疲弊した状態で戦わなければならなくなる。
 完全に佐志峰の強さが分からないうちに、そんなばくちまがいなことはできない。
 そのため、西厚や放火の日向兵に頑張ってもらうしかない。
 魔力の残量からいっても、そろそろ戦いから引き始める頃合いになってきた冒険者たちには、ケイも参加してくれたことを内心感謝していたのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

処理中です...