エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第11章

第290話

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「ナ、ナチョ様!!」

「……何だ? もう殲滅したのか?」

 ほぼ全軍による攻撃を開始して数時間。
 それ程の時間が経過していないのにもかかわらず、兵が人族の総指揮を取っているエヌーノ王国の王太子であるナチョのもとへ駆け戻ってきた。
 傷だらけで慌てながら戻て来たその兵に、後方で魔人たちの殲滅報告を待っていたナチョは、随分早い兵の帰還に、怪訝そうに問いかけた。

「…………いえ、ほとんどの者が殺されました!」

 大人数を投入しておいて、ほとんど何もすることも出来ずに逃げ帰って来た事を咎められるという思いもあったのだろう。
 問いかけられた兵は、少しの躊躇をした後に結果を正直に報告した。

「…………な、何の冗談だ!?」

 その報告を受けたナチョからしたら、正直理解が追い付かない。
 この島に連れてきた多くの兵を投入しておいて、手こずるならまだしも、負けて帰ってくるということが起きるなんて思ってもいなかったからだ。

「冗談などではありません! ドワーフ製の大量の大砲の集中砲火を受け、我々は城壁に触れることすらなく敗走を余儀なくされました!」

「バカな!! 数ならこちらが上だったはずだ!! そもそもどうしてドワーフが……!?」

 兵による更なる報告に、ナチョは次第に嫌な汗が噴き出てきた。
 ドワーフ族は、国の場所から獣人と魔人の両種族と良好な関係を築いているということは分かっていたが、まさかそこまでこの戦いに関わってくるとは思ってもいなかった。
 大砲を相手に戦うのだとしたら、それなりの対策をしないと勝てないのは当たり前だ。
 原始人のような魔人を相手にするなら、対策なんて必要ないと考えていたのが仇となった。

「逃走を計ろうにも、後方に回り込まれた魔人たちに包囲され、兵たちは散り散りに逃げることを余儀なくされました。そして、魔人から逃げた先は魔物の生息地であり、あっという間に兵の数は減っていってしまいました」

「なっ…………!?」

 砲撃によって一時撤退は仕方がない。
 しかし、それを見越したような戦いをされたということは、あちらの方がこちらの戦力をキッチリと分析しているということになる。
 つまりは、指揮官の分析能力の差が顕著に出たということになる。
 それをさすがのナチョでも理解したのか、続きの言葉が出てこなかった。

「うっ……」「ぐっ……」

「っ!?」

 ここまでのやり取りをしている間に、少しずつ兵たちが戻ってきた。
 とは言っても、無傷の者は片手で数えられる程度。
 他は大なり小なりどこかに怪我を負っている状況だ。
 生き残って戻って来ただけまだいい方かもしれない。

「……じい!」

「ハッ!」

 どんどん増えてくる怪我人に、ナチョもあることを決断することにした。
 そのため、世話役らしき老齢の男性を側に呼び寄せた。

「生き残った者たちを連れて逃げるぞ!」

「……了解しました!」

 このままここにいたら、魔人か魔物に今度こそ全員殺されてしまう。
 多くの兵を預かっておいてこのような結果になってしまったのは、完全に自分の失策によるものだ。
 このまま国に帰ったら、王太子はもちろんのこと、王族としての地位すらも失うことになるかもしれない。
 もう完全に指揮官としては無能だということが決定したが、生き残った兵たちをこれ以上無駄に死なせてさらに無能を晒すわけにはいかない。
 治療班の者たちと共に、怪我をした者たちを船へ戻し、国に帰ることを決定したのだった。

“ドン!!”

「っ!? 何だ!?」

 生き残った兵たちを船に戻している所で、突如大きな音が鳴り響いてきた。
 そのため、ナチョは何事かと思い周囲を見渡してその音の原因を探った。

「なっ!?」

 その音の原因は、すぐに分かることができた。
 ナチョたちがいる海岸から離れた崖の上から、魔人たちが大砲を設置して砲撃を開始していたのだ。
 
「ま、まさか、船を……」

 大砲が向いているのは、ナチョたちが乗って来た巨大な帆船に向いている。
 船を落とすために砲撃を行なっていることは間違いない。

「ここから逃がさないと言いたいのか!?」

 船にはもうすでに多くの怪我人が乗せられている。
 ここで潰されては、乗っている者たちは海の魔物の餌食になりかねない。

「くそっ!! 魔人どもめ……!!」

 そもそも、この島に勝手に侵略来たくせに、自分たちが追い込まれたら文句を言うなんて愚の骨頂だ。
 そんなこと分かっていたとしても、魔人たちによる容赦のないやり口に、ナチョは思わず歯噛みするしかなかった。

「ナチョ様! お早く!」

「しかし……」

 砲撃が始まり、ナチョにジイと呼ばれた男が怪我人よりも先に帆船に向かうように促す。
 海岸にはまだ多くの怪我人が残っている。
 彼らを置いて自分だけ先に船へ向かうのは、今さらだが躊躇われる。

「これ以上は仕方がありません!」

「く、くそっ!!」

 たしかに、これ以上ここに自分が残っていても怪我人を助けることなんてでいる訳がない。
 船に乗せた者たちのこともあるので、ナチョはジイのい言うことに従うしかなかった。

“ズガンッ!!”

「っ!? くそがー!!」

 小舟から帆船にたどり着いた時、側に停泊していた一隻に、大砲の一撃が直撃した。
 乗組員や怪我を負った兵たちを包み込んで炎上をした帆船は、そのまま崩れるように海へと沈んで行った。
 それをただ見ていることしかできず、ナチョは自分への怒りから大きな声をあげるしかなかった。

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