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変わりゆく気持ちの行方
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そして、そのまま無事に試合に勝利し、璃湖は気分良く球場を出た。本当に最高だった。こんな劇的な試合を生で見られるなんて滅多にない。
やはり福永の幸運の星がここでも発揮されているのだろうか。
歩いていると、突然カキンという金属音が聞こえ、思わず足が止まる。どうやら球場内にバッティングができる設備があるらしい。
「へえ、こんなところにバッティングセンターがあるんだ。懐かしいなぁ」
「本当ですね。せっかくだから、やってみませんか? 私、福永さんが野球してるところを見てみたいです」
ダメ元でそう誘ってみる。口にしてから少し無神経だったかと思うが、彼が野球をしている姿を見れるチャンスはきっとこれが最後だ。
少し迷う素振りを見せていた福永だったが、やがて小さく頷いた。
「中学以来だから自信ないけど⋯⋯やってみようかな。空振りしても笑わないでね」
そう言って着ていた上着を璃湖に預け、ぐっと腕を伸ばしてストレッチをする。そしてゲージに入る前に、璃湖の方を真剣な顔で振り返った。
「ねえ、もし、これでホームランの看板に当てられたらさ⋯⋯キスしてもいい?」
「え?」
予想だにしなかった言葉に、璃湖は驚きで固まった。冗談だろうかと思ったが、福永はとても真剣な面持ちで璃湖のことを見つめいる。
なぜ、こんなことを言うのか。福永の気持ちが読めず、璃湖はユラユラと視線を彷徨わせた。しばし沈黙が続く。
それでも彼は辛抱強く璃湖が答えを出すのを待っている。これは絶対に冗談なんかじゃない。そう悟った璃湖は、迷った末にコクリと頷いた。
「⋯⋯ありがとう。じゃ、頑張るね」
そう言った福永がゲージに入りバットを手に持ち軽く素振りをする。その姿を見て、璃湖の心臓の音が速くなる。彼の野球をしている姿を見たいと思い安易な気持ちで誘ってしまったが、これはまずいかもしれない。
彼は右利きだが左打ちらしく、左のバッターボックスに立って構えた姿に胸がときめく。すでにかっこいい。これ以上好きになっては自分が苦しいだけなのに、なぜ自分の首を締めるようなことをしてしまったのか。
そして打ち始めた福永が、一球目は空振りした。バットを握るのも中学生以来なのだから当然だ。十年以上のブランクは、やはりそう簡単に埋まるものではない。
キスという言葉に身構えていた璃湖は、思わず身体の力を抜いた。高い場所に設置されているホームランと書かれた看板に打球を当てるのは簡単なことではない。ブランクがあるなら、尚更だ。
そう思った璃湖だったが、福永が空振りしたのは最初の一球だけだった。そして打つ度にボールが看板に近づいているのは、きっと気のせいではない。
璃湖はドキドキしながらその姿に釘づけになった。今まで見たどんな野球選手よりも、福永がかっこよく見える。
そして最後の一球、福永の打ったボールが真っ直ぐにホームランと書かれたボードに向かっていく。
ガンッという音の後、『ホームラン!』という機械の音声が響き、周囲からも歓声があがる。係員からなにかを受け取った福永が、満面の笑みを浮かべて璃湖の元に戻ってきた。
「すごい! すごすぎです!」
「いや、俺もまさか本当に打てるとは思わなかったからびっくりした。身体が覚えてるもんだね。ちょっと手が痛いけど、久しぶりにバット振って楽しかった」
そう言って汗を拭く福永がとても輝いて見える。ドキドキが止まらない。今日でこうして会うのも最後だというのに、野球をしている姿を見て完全に恋をしてしまうなんて、思いもしなかった。
キスの約束はどうなるのだろうと身構えていたが、福永はそこにはなにも触れてこない。ホームランを打った記念にもらえるマスコットのぬいぐるみをもらい、球場を後にする。
そして車に乗ると、福永が璃湖の方に身を乗り出してきた。吐息が触れるほどの距離で見つめられて、油断していた璃湖の心臓がものすごい勢いで早鐘を打ち始める。唇を親指の腹で撫でられて、身体がピクリと小さく震えた。
「ふ、福永さん⋯⋯」
「約束のキス⋯⋯いい?」
低い声でそう聞かれ、背中にゾクリとしたものが走る。抗うことなんてできなくて、小さく頷いた璃湖の唇を福永が塞いだ。
一瞬触れ合っただけで離れたそれが、形を確かめるように上唇と下唇を順番に挟む。チロリと縁を舐められて、薄く開いた隙間から熱い粘膜がねじ込まれる。
「んんっ」
触れるだけのキスだと思っていた璃湖は、それに驚いてビクリと身を震わせた。舌先が絡み合うと、下腹部がズクリと疼いた。これがディープキスというものなのか。
舌同士を絡め合うなんて気持ちが悪いのではないかと思ったが、そんなことはなかった。むしろとても気持ちがいい。口の中を丹念に探られて、頭が蕩けそうになる。
ふいに太股を撫でられて、ビクンと大きく身体が揺れた。唇を離した福永の目に情欲の炎が灯っていることに気がつく。スカートの中に入ってきた手が、ショーツの中に入ってきた。くちゅりという音が車内に響く。
「すごく濡れてる。キス、気持ち良かった?」
「それは⋯⋯あ、ダメ⋯⋯んんっ」
再び唇を塞がれて、甘い声が口から漏れる。口腔内を舌で舐られながら指で陰核を擦られて、秘奥から蜜が溢れた。それを指に纏わせた福永が、それを見せつけるように璃湖の前に手をかざす。指の間に糸が引いているのを見て、璃湖は羞恥で頬を赤らめた。
「密室でこの匂いはやばい⋯⋯おかしくなりそう。移動しようか。さすがにここではこれ以上できないし、細井さんも我慢できないでしょ?」
愛液のついた指をなんのためらいもなく舐めた福永がそう言った。もう彼とこんなことをする必要はないのに、彼に触れてもらえるチャンスはきっとこれが最後だ。そう思ったら、その誘いを断ることなんてできるはずがない。
無言で頷いた璃湖に、満足気な笑みを浮かべた福永が車を走らせた。これで絶対に終わりにする。何度も自分にそう言い聞かせながら、璃湖は涙が出そうになるのを必死にこらえて窓の外の景色をじっと見つめていた。
やはり福永の幸運の星がここでも発揮されているのだろうか。
歩いていると、突然カキンという金属音が聞こえ、思わず足が止まる。どうやら球場内にバッティングができる設備があるらしい。
「へえ、こんなところにバッティングセンターがあるんだ。懐かしいなぁ」
「本当ですね。せっかくだから、やってみませんか? 私、福永さんが野球してるところを見てみたいです」
ダメ元でそう誘ってみる。口にしてから少し無神経だったかと思うが、彼が野球をしている姿を見れるチャンスはきっとこれが最後だ。
少し迷う素振りを見せていた福永だったが、やがて小さく頷いた。
「中学以来だから自信ないけど⋯⋯やってみようかな。空振りしても笑わないでね」
そう言って着ていた上着を璃湖に預け、ぐっと腕を伸ばしてストレッチをする。そしてゲージに入る前に、璃湖の方を真剣な顔で振り返った。
「ねえ、もし、これでホームランの看板に当てられたらさ⋯⋯キスしてもいい?」
「え?」
予想だにしなかった言葉に、璃湖は驚きで固まった。冗談だろうかと思ったが、福永はとても真剣な面持ちで璃湖のことを見つめいる。
なぜ、こんなことを言うのか。福永の気持ちが読めず、璃湖はユラユラと視線を彷徨わせた。しばし沈黙が続く。
それでも彼は辛抱強く璃湖が答えを出すのを待っている。これは絶対に冗談なんかじゃない。そう悟った璃湖は、迷った末にコクリと頷いた。
「⋯⋯ありがとう。じゃ、頑張るね」
そう言った福永がゲージに入りバットを手に持ち軽く素振りをする。その姿を見て、璃湖の心臓の音が速くなる。彼の野球をしている姿を見たいと思い安易な気持ちで誘ってしまったが、これはまずいかもしれない。
彼は右利きだが左打ちらしく、左のバッターボックスに立って構えた姿に胸がときめく。すでにかっこいい。これ以上好きになっては自分が苦しいだけなのに、なぜ自分の首を締めるようなことをしてしまったのか。
そして打ち始めた福永が、一球目は空振りした。バットを握るのも中学生以来なのだから当然だ。十年以上のブランクは、やはりそう簡単に埋まるものではない。
キスという言葉に身構えていた璃湖は、思わず身体の力を抜いた。高い場所に設置されているホームランと書かれた看板に打球を当てるのは簡単なことではない。ブランクがあるなら、尚更だ。
そう思った璃湖だったが、福永が空振りしたのは最初の一球だけだった。そして打つ度にボールが看板に近づいているのは、きっと気のせいではない。
璃湖はドキドキしながらその姿に釘づけになった。今まで見たどんな野球選手よりも、福永がかっこよく見える。
そして最後の一球、福永の打ったボールが真っ直ぐにホームランと書かれたボードに向かっていく。
ガンッという音の後、『ホームラン!』という機械の音声が響き、周囲からも歓声があがる。係員からなにかを受け取った福永が、満面の笑みを浮かべて璃湖の元に戻ってきた。
「すごい! すごすぎです!」
「いや、俺もまさか本当に打てるとは思わなかったからびっくりした。身体が覚えてるもんだね。ちょっと手が痛いけど、久しぶりにバット振って楽しかった」
そう言って汗を拭く福永がとても輝いて見える。ドキドキが止まらない。今日でこうして会うのも最後だというのに、野球をしている姿を見て完全に恋をしてしまうなんて、思いもしなかった。
キスの約束はどうなるのだろうと身構えていたが、福永はそこにはなにも触れてこない。ホームランを打った記念にもらえるマスコットのぬいぐるみをもらい、球場を後にする。
そして車に乗ると、福永が璃湖の方に身を乗り出してきた。吐息が触れるほどの距離で見つめられて、油断していた璃湖の心臓がものすごい勢いで早鐘を打ち始める。唇を親指の腹で撫でられて、身体がピクリと小さく震えた。
「ふ、福永さん⋯⋯」
「約束のキス⋯⋯いい?」
低い声でそう聞かれ、背中にゾクリとしたものが走る。抗うことなんてできなくて、小さく頷いた璃湖の唇を福永が塞いだ。
一瞬触れ合っただけで離れたそれが、形を確かめるように上唇と下唇を順番に挟む。チロリと縁を舐められて、薄く開いた隙間から熱い粘膜がねじ込まれる。
「んんっ」
触れるだけのキスだと思っていた璃湖は、それに驚いてビクリと身を震わせた。舌先が絡み合うと、下腹部がズクリと疼いた。これがディープキスというものなのか。
舌同士を絡め合うなんて気持ちが悪いのではないかと思ったが、そんなことはなかった。むしろとても気持ちがいい。口の中を丹念に探られて、頭が蕩けそうになる。
ふいに太股を撫でられて、ビクンと大きく身体が揺れた。唇を離した福永の目に情欲の炎が灯っていることに気がつく。スカートの中に入ってきた手が、ショーツの中に入ってきた。くちゅりという音が車内に響く。
「すごく濡れてる。キス、気持ち良かった?」
「それは⋯⋯あ、ダメ⋯⋯んんっ」
再び唇を塞がれて、甘い声が口から漏れる。口腔内を舌で舐られながら指で陰核を擦られて、秘奥から蜜が溢れた。それを指に纏わせた福永が、それを見せつけるように璃湖の前に手をかざす。指の間に糸が引いているのを見て、璃湖は羞恥で頬を赤らめた。
「密室でこの匂いはやばい⋯⋯おかしくなりそう。移動しようか。さすがにここではこれ以上できないし、細井さんも我慢できないでしょ?」
愛液のついた指をなんのためらいもなく舐めた福永がそう言った。もう彼とこんなことをする必要はないのに、彼に触れてもらえるチャンスはきっとこれが最後だ。そう思ったら、その誘いを断ることなんてできるはずがない。
無言で頷いた璃湖に、満足気な笑みを浮かべた福永が車を走らせた。これで絶対に終わりにする。何度も自分にそう言い聞かせながら、璃湖は涙が出そうになるのを必死にこらえて窓の外の景色をじっと見つめていた。
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