【完結】占い館のチョコレート

変化するクラスの「常識」

二学期が始まって一週間が経たった日の昼休み、なずなちゃんと図書室で勉強していると、ユイが話しかけてきた。 

「鈴奈、あのさ…」 

「あぁん？」 

　姐あねさんモードになったなずなちゃんがすかさず威嚇いかくする。ユイはちょっとビクッとした。 

「ちょっと待ってて」 

　わたしはユイにそう言って、なずなちゃんを廊下ろうかに連れ出す。 

「ねぇ、ちょっと落ち着いて。たぶん、ユイを引き込むチャンスだよ」 

「えー、スパイかもよ？」 

「何のスパイよ。ユイ、昨日からみんなに無視むしされてたもん、たぶんこっちに混まぜてって話だよ」 

「えー、嫌すぎる。混ぜたくない」 

「わたしもそうだけど…でもなずなちゃんのお母さんと考えた作戦さくせんやってみたい！お願ねがい！」 

　両手をあわせて拝おがむと、なずなちゃんは折おれてくれた。「まったくママは…」とかブツブツ言っているが、背中を押して図書室へと戻る。 

　その後は作戦通りだ。わたし達と一緒にいたいと言い出したユイに、「えー、ユイはわたし達のこと無視したり悪口言ったりしたじゃな～い」とか「カリンと遊んだら～」とかぐだぐだ言って、「裏切うらぎりません」という念書ねんしょを書かせた。 

「…え…裏切ったら親呼おやよんで話し合うの？」 

　なずなちゃんのお母さんお手製てせいの念書を見て、ユイは顔色を変える。 

「はぁん？裏切らなければ良くない？もしや、ほとぼり冷めたらカリンちゃんのグループに戻もどる前提ぜんてい？」 

　なずなちゃんの切きれ味あじは日に日に増ましている。学校を休んで泣いていた日が遠い昔のようだ。 

「わたし達は別に、二人で過すごせれば十分なの。わたし達に意地悪して、都合つごうの良い時だけ一緒にいたがる人をまぜてあげるメリットはない。またカリンのとこに戻って、助けてもらった恩おんを仇あだで返す気なら最初からこっちに来ないで」 

「………」 

　キッパリと言い放つと、ユイは顔を真っ赤にしてうつむいた。怒おこっているのかな？と思ったけど、違ちがうみたい。 

「…ご、ごめんなさい。わたし、本当に自分勝手じぶんかってで恥知はじしらずだった。今まで、わたしが無視しても鈴奈は無視しないでいてくれたから、それを当たり前に思ってた」 

「バカじゃないの？鈴奈ちゃんだって、アンタと同じように人に無視されたら傷付きずつくし腹立つよ。まして、助けてあげた人が手のひら返して意地悪したら百倍辛ひゃくばいつらいわ」 

「…そうだよね…」 

「そういうわけだから、よく考えて決めて。今はカリン達に無視されて辛いからわたし達といたいだろうけど、わたし達といると決めたらカリン達のとこには戻れない。カリン達にはずっと無視されるよ。」 

　ユイはうなずき、渡された紙を大事そうに手に持つと、背筋せすじをピンと伸のばした。 

「わたし、よく考える。怒られるだろうけど、ママにもちゃんと話して決めるよ。そしたら、また…」 

「うん、待ってる」 

　しどろもどろになったユイの言葉の意味を汲くみ取とって、わたしはそう言った。なずなちゃんは「まったく鈴奈ちゃんは優しすぎるんだから」とブツブツ言っていたけど、自分では全くそう思わない。 

　すべては、カリンへの復讐ふくしゅうのためだ。