【完結】占い館のチョコレート

四季苺

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劇団カリン改め劇団ひとり

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「ふぃーっ!超気分良ちょうきぶんいい!」 

「ホント楽しかった!」 

「アイドル気分を味わえたよねぇ!」 

 舞台袖ぶたいそでから一度会場外いちどかいじょうがいに出て、控室ひかえしつあせをふいたり着替きがえをませたりしたわたし達は、ふたたび体育館へと向かっていた。 

「なんかげとかしたい…ん?鈴奈ちゃん、どうしたの?なんかいそいでない?」 

「…わたし達の三つ後くらいがカリンの出番でばんだったはずなの。まだ間に合うかなって」 

「あ~ら、それはぜひともなくてはなりませんわね」 

「そうですわね」 

「わたくし、期待きたいむね高鳴たかなっておりますわ」 

 三人はきゅう悪役令嬢あくやくれいじょうになり、同時どうじにぎゅんと早歩はやあるきになる。ギリギリ走ってないくらいだ。 

「ま、待って。しずかにね!?」 

 そっと体育館後方こうほうのドアを開けると、ちょうどカリンが舞台ぶたいに出てきたところだった。 

「間に合った…」 

 こそこそとをかがめて、元の自分のせきもどる。 

 カリンは一人で歌を歌うみたいだ。 

劇団げきだんカリンが解散かいさんして、ひとりぼっちになっちゃったね」 

 ユイがあわれみと皮肉ひにくぜた声で言う。 

「…劇団ひとり…」 

 ホノカがぼそりと言うので、わたし達四人は笑いをこらえるのが大変だった。そういう名前の芸人げいにんさんいるよね。 

 カリンは自分の好きな歌を選んだみたい。今流行はやりのjpopのタイトルを言って、カリンは歌い始めた。 

「…えっ」 

 誰かがおどろきの声をもらす。カリンの声が小さくて、全然聞ぜんぜんきこえなかったからだ。 

堂々どうどうと大きな声で歌うかと思ってた」 

 ユイがこそりとそう言い、「ホントね、あれだけ威張いばらしておいてさ」とホノカがわりと大きな声で返した。すると、それを聞いた六年女子がクスクスと笑い出し、ボソボソと口々に感想かんそうを話し始める。 

「あたし達には『もっと大きな声で』とか、『心をめて』とか言ってたくせにねー?」 

「本当~、言ったからには頑張がんばってよ」 

「ひとりじゃなんにもできないんじゃん?じつは」 

 それぞれの声は小さい。だけど、発表中の静かな体育館で、十人くらいが口々に話すもんだから、そこそこ音がひびいた。六年生の席は保護者席ほごしゃせきもっとも近いので、保護者も不審ふしんに思い始めてさらにざわめきが広がった。 

 舞台上ぶたいじょうのカリンは、もうさおだ。わたしは早くきょくが終わってとねがうけれど、カリンはなかなか長いヤツをえらんじゃったみたい。 

「ねぇ、やっぱ応援おうえんすべきじゃない?」 

 ココの声が耳に届く。 

「そうだよねぇ、そうしよう」 

 賛同さんどうするマキの声。 

 そうだ、みんな約六年間いじめを受けいじめをしてきた、いわばいじめのプロ。怒られないようみちを作りつつ意地悪をするなんて、お手の物だ。 

「カリーーン!頑張ってー!」 

「そうだよー!もっと大きな声出してー!」 

「わたし達、しっかり聞いてるからねー!」 

 となりにいたなずなちゃんから、「うわぁ」という声が聞こえた。応援してるフリでめるなんて、最低さいていだ。 

 だけど、これはカリンがまねいたこと。カリンがみんなに意地悪をしなかったら、こんなことにはならなかった。わたしは手をぎゅっとにぎりしめて、ちかう。 

 わたしは絶対ぜったいに人に意地悪したり、仲間はずれしたりなんてしない。いじめをしたいだなんて思わないけど、いつかなんかそんな気持ちになっちゃう時が来たとしても、絶対に絶対にしないんだ。人にしたことが自分に返ってくる姿すがたたりにして、わたしは強く思った。 

 カリンは下を向いて泣き出し、舞台袖ぶたいそでに向かって走っていった。
 その後もしばらく、カリンが歌い切れなかった曲が体育館に流れていた…。 
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