【完結】占い館のチョコレート

四季苺

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その後の占い館

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「はぁ…はぁ…しんど…」 

 すっかりなまってしまった体を動かすために、わたしは散歩さんぽに出ていた。まだまだ寒い日が続いているけれど、陽射ひざしはぽかぽかとあたたかい。 

 どうにか入試にゅうしをやりげて、わたしは無事ぶじ翠陵すいりょう合格ごうかくした。だけど、試験会場しけんかいじょうでインフルエンザに感染かんせんしたらしく、また一週間寝込ねこんでいたのだった。合計二週間寝込んだ体はもうヨッボヨボだった。 

 散歩の目的地もくてきちはリゼさんの占い館。もうリゼさんはいないってわかってるけど、なんとなく行きたくなったのだ。 

「ん?」 

 占い館の前にだれかいる。 

「鈴奈ちゃん、インフルなおったの?」 

「うん、やっと。ずっと寝てたから少し体を動かしに出たの。新くんはどうしたの?」 

「スーパーに買い物たのまれたんだけど、ついでに鈴奈ちゃんが言ってた占い館がどんなとこか見たくなって」 

「…どう思った?」 

 わたしは新くんのとなりに立つ。 

「…うん…パン屋かなって思った…」 

「だよね。リゼさん、後で後でって言って全然ぜんぜんお店を占い館っぽくしなかったから…。初めてお店に入った日なんて、入り口にトングがたくさんいてあったよ」 

 あの日からそんなに時はっていないのに、すごく前みたいな気がする。なつかしくて、もどりたくて、むねがギュッとなった。 

面白おもしろい人だってよく言ってたよね。僕も会ってみたかったなぁ。…フフッ、これも保健室以外ほけんしついがいで初めて見た」 

 新くんはドアにったままの丸い回転盤かいてんばんにそっとれる。 

「これ、良いよね。…ん?どうかした?」 

 心なしか新くんの表情ひょうじょうおどろきがじったような気がして、たずねる。 

「ん、ここの『います』のとこさ」 

「うん」 

 今まで「店内てんないにいます」の意味いみだったその表示ひょうじには、「Swedenスウェーデン」と走り書きがくわえられている。 

「なんかボコッとしてるんだ。さわってごらん」 

「…ほんとだ…」 

 パッと見分からなかったけど、後ろに何かってあるみたい。新くんは丁寧ていねいに回転盤をドアからはずしてくるりと後ろに向けた。 

 「います」の部分の後ろには小さな封筒ふうとうりつけられていて、宛名あてなには「鈴奈ちゃんへ」と書かれていた。 

「え!わたしにお手紙?」 

「読んでみたら?」 

 新くんは封筒がやぶけないように丁寧にセロハンテープをはがしてわたしに手渡てわたしてくれた。うなずきながら受け取る。 

  

 鈴奈ちゃんへ 

  

 急だけど、スウェーデンに帰らなくちゃならなくなりました。おばあちゃんが具合悪ぐいわるくなっちゃったのよね。これから鈴奈ちゃんちに行って、会えたら直接ちょくせつ話すつもりなんだけど、会えなかった時にそなえてこの手紙をドア裏に残しておきます。 

  

 鈴奈ちゃんはあたしとはなれることで、きっと大きなダメージを受けると思う。試験しけんの前なのに、本当にごめんなさい。でもそれは、鈴奈ちゃんが弱いからじゃないの。いい大人だけど、あたしだって本当に悲しくて、たくさん泣いたんだから。きっと、これから空港くうこうでも泣いて飛行機内ひこうきないでも泣いて、おばあちゃんちでも泣き続けると思う。でもね、それは仕方しかたがないの。だってあたし達はソウルメイトだから。 

  

 そして、ソウルメイトだからこそ、またいつか会えるって信じてる。たくさん泣いても、あたしも鈴奈ちゃんも再会さいかいを目指して立ち直れるって分かるの。それが入試に間に合うといいんだけど…。 

  

 受験じゅけんわってスマホを買ってもらえたら、あたしにも連絡れんらくしてね! 

連絡先れんらくさきは………です。スウェーデンの景色けしきとか、写真にって送るね。鈴奈ちゃんは絶対ぜったい制服姿せいふくすがたを送ってね!あーあ、直接ちょくせつ見たかったな。なんなら卒業式そつぎょうしきだって入学式にゅうがくしきだって行きたかったのに(親か)。 

  

 ねぇ鈴奈ちゃん、あたしここまで書いて気付いちゃった。鈴奈ちゃんちに行くなら、この手紙は鈴奈ちゃんちのポストに入れとけば良かったよね。でもまぁ、面白いからドアにかくしておくね。きっと、見つけてくれる予感よかんがするんだ。鈴奈ちゃんか…鈴奈ちゃんの6番が…。 

  

 それでは、あたしはこれからいそいで荷造にづくりをします! 

お店の片付かたづけとか手続てつづきでいったんは日本に帰るからその時には遊ぼうね!         リゼより 

  

「…ソウルメイトってなんだろう…」 

 グスッと鼻をすすりながらそう言うと、新くんがすぐにスマホで調しらべてくれた。 

「いいな、スマホ。わたし、寝込ねこんでたからまだ買ってもらえてないの」 

「買ったらすぐに教えてね!ラインしたいな。…はい、見ていいよ」 

 新くんはソウルメイトについて調べて、良さそうなページを見せてくれた。 

「…前世ぜんせからつながってる特別とくべつな関係…?」 

「すごいね、リゼさんにはそれが分かったのかな?」 

「…かもしれない」 

 占いに魔法まほうは使ってないって言ってたけどなんか当たってたし、不思議ふしぎ雰囲気ふんいきがあったなぁ。それは、魔法とはまた別の能力のうりょくなのかも。 

「まぁたしかに、突然離とつぜんはなれることになったからって鈴奈ちゃんがねつ出して寝込ねこむなんて、普通ふつうないよね。鈴奈ちゃんって人間関係にんげんかんけい現実的げんじつてきじゃない?」 

「…そうかな?自分では分からないな。新くんが別の中学校行くって聞いた時も、かなしかったよ」 

「あ、その話しちゃうんだ?」 

 スマホから顔を上げると、新くんはちょっと意地悪いじわるそうなみを浮かべていた。 

 わたしは自分でれたくない話題わだいに触れてしまったことに気付きづき、ダラダラとあせながした。 

「…あ…えっと…」 

 受験も終わったんだしそろそろ新くんに告白こくはく返事へんじをしなければならない。分かっていたんだけど、リゼさんのことで頭がいっぱいになって、考えること自体忘じたいわすれていた。 

「返事はさ、いくらでも待つからいいよ。それこそ、中学生になっても高校生になっても、待てる自信じしんある。…鈴奈ちゃんがいいならね」 

「…そ、そんなに待たせる気は…」 

 モゴモゴと言い訳をしながら新くんにスマホをす。新くんはスマホを受け取ると、ポケットにしまいながら少し考えるようにだまった。 

「…ねぇ鈴奈ちゃん?よく知らないことを判断はんだんするのってむずかしくない?」 

「…え?たとえば?」 

「中学校だってさ、ホームページ見たり学校見学行ったり、塾生じゅくせい体験談たいけんだん聞いたりして最終的さいしゅうてきに受ける中学めたわけで」 

「…ん?うん、そうだね。体験授業たいけんじゅぎょうもあったね」 

「そうそれ!」 

 新くんはパッと表情ひょうじょうかがやかせる。 

 え…何の話してる?告白の返事の話じゃなかったの? 

ぼくはさ、鈴奈ちゃんが『僕と付き合う』ということを全然ぜんぜん知らないからなやむんだと思うんだよね。でも、そんなの想像そうぞうする以外いがいに分からないじゃない?」 

「そうだね」 

「だからさ、僕は『春の体験恋愛たいけんれんあい』をおすすめしようと思う。」 

「なんか塾でそういうの見たような…」 

 わたしの頭には「春の体験授業!無料体験実施中むりょうたいけんじっしちゅう」というポスターがかんでいた。われらが塾のマスコットのペンギンが笑顔えがおでこっちを見ている。 

「そうそう、塾も中学も必要だからやっている。というわけで、恋愛にも体験授業が必要です」 

「そ、そうなのかな?」 

「そうです。」 

 新くんはキッパリとはなつ。 

「とりあえず、春休みに僕とおためしで付き合ってみて、良さそうなら本格的ほんかくてきに付き合うというのはどうでしょう?」 

 え、どうしよう?それが良いのか悪いのか分からない。 

「電車乗ってショッピングモールに行って、紅茶の専門店せんもんてんに行かない?茶葉ちゃばを見て買いたいって言ってたよね」 

「えっ行きたい!」 

「そのお店、サンプルがあって香りがためせるんだ。あと、モールにあるカフェでふわふわの分厚ぶあついパンケーキ食べようよ」 

「…パンケーキ!食べたい!」 

雑貨屋ざっかやさんもたくさんあるから、中学校で使う文房具ぶんぼうぐとか見たいな。あっ、輸入食品ゆにゅうしょくひんのお店もある」 

 新くんはスマホでショッピングモールのサイトを見せてくれた。 

「あ…◯ルディもある…」 

 リゼさんのくれたチョコレート、売ってるかな? 

「じゃあ、春休み中に行こう」 

「うん!」 

「せっかくだから、今からスーパー行くの付き合って」 

 新くんはわたしの手をつないで歩き出す。

「えっ!なんで手をつなぐの?」 

「だって、『体験恋愛中』だから」 

「…え、春休みからじゃなかったの?ていうか、わたしお出かけには行きたいって言ったけど体験恋愛するとは言ってないような…」 

「まあまあ」 

 何がまあまあなんだと思いつつ、わたしは手をつないだまま歩き出してしまう。 

「そういえば、リゼさんの手紙に書いてあった『鈴奈ちゃんの6番』って何?」 

 心臓しんぞうそうなくらい、ドキッとする。 

「さっ、さぁ!?」 

「…ふぅん?まぁいいけど」 

  

 恥ずかしいから絶対ぜったいに言いたくないけど、タロットカードの6番は「恋人こいびと」のカードだ。リゼさんは、新くんがお手紙を見つける未来を分かっていたのかな? 

  

「体験恋愛の間、何しようか?」 

「うーん、なずなちゃんも一緒に受験じゅけんつか様会さまかいしたいなぁ」 

「…それ、今までと変わりないよね?もっとこう恋愛っぽいことを考えようか」 

「うーん…」 

 体験ですらうまくこなせないわたしに、本格的なお付き合いなんかできるんだろうかと思いつつ、とにかく「春の体験恋愛」ははじまった。 

  

 数ヶ月後、久々に会ったリゼさんに新くんと付き合うことになった経緯けいいを話したら、「そんなの体験でもなんでもないじゃん、外堀そとぼりガッツリめられてるじゃん」と言われた。そう言われるまで、わたしは新くんの策略さくりゃくになんて、何も気付きづかないのだった。 
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