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第二章:蒼海を往く緑の箱舟
第三節:深海王の試練と、海底の黄金樹
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アルトが新たに生成した『酸素供給の泡(オキシ・バブル)』は、まるで巨大な真珠のように浮遊蓮を包み込み、ゆっくりと深海の暗闇へと沈んでいった。
通常、深海へ潜れば凄まじい水圧が人間を押し潰すが、この泡はアルトの魔力によって外圧を完璧に中和し、内部は地上と変わらない快適な湿度が保たれている。
「すごい……。海の中にいるのに、まるでお花畑にいるような、爽やかな香りがします」
シエラが泡の膜にそっと触れながら、感嘆の声を漏らした。泡の表面には、微細な「発光藻」が組み込まれており、それが深海の闇を淡いエメラルド色に照らしている。
「この泡はね、外の海水から毒素を濾過して、酸素に変え続ける循環植物なんだ。……さて、ルナ。君たちの王都はもうすぐかな?」
泡の外、先導するように泳ぐ人魚の姫ルナが、大きく頷いた。彼女の鱗は、アルトの浄化を受けてからというもの、深海のわずかな光さえも反射して、サファイアのような輝きを放っている。
「はい、アルト様! あそこに見えるのが、我ら人魚族の誇り――王都『アクア・ルミナス』です!」
ルナが指差した先。
深海の谷間に、巨大な「貝殻の形」をしたドーム群が姿を現した。
かつては海底の宝石箱と呼ばれたその都市だが、近づくにつれ、その惨状が明らかになっていく。
帝国の汚染は、この深海にまで根深く浸透していた。
都市を彩っていたサンゴの壁は白化して崩れ、人魚たちの生命の源であった『海底の黄金樹』――伝説の海草原種は、今や真っ黒に腐り、不気味なヘドロを撒き散らしている。
「……っ。ひどいな。地上の森が焼かれた時と同じ、いや、それ以上に『循環』が死んでいる」
アルトの表情が険しくなる。
王都の入り口には、槍を手にした屈強な人魚の戦士たちが立ち塞がったが、ルナの姿と、彼女から放たれる清浄な魔力を感じて、彼らは驚愕と共に道を空けた。
王都の中央、巨大な円形広場。
そこには、一族を束ねる深海王オケアノスが、枯れ果てた黄金樹の前に立ち尽くしていた。
彼の体もまた、汚染の影響で黒い斑点に覆われ、その命の灯火は今にも消え入りそうだった。
「……ルナか。その鱗……どうしたのだ。そして、その『陸の民』は何者だ」
「父上! このお方は、アルト様。私たちの海を、一族を救ってくださる、偉大なる植物魔導師様です!」
オケアノス王は、濁った瞳でアルトを見つめた。
彼は長年、地上から流れてくる毒に苦しめられ続けてきた。それゆえ、陸の人間に対する不信感は、深海よりも深い。
「……植物魔法だと? 笑わせるな。この海を腐らせたのは、陸の民が操る『魔法』ではないか。今更、人間が何を――」
「王様。……議論をしている時間はなさそうだ。その背後の木、あと数分で完全に腐り落ちて、毒の爆発を起こすよ」
アルトは王の言葉を遮り、スタスタと黄金樹の根元へと歩み寄った。
戦士たちが槍を向けようとしたが、アルトから放たれる圧倒的な「大地の威圧感」に、一歩も動けなくなる。
「待て! その木は我が一族の象徴、安易に触れることは許さ――」
「象徴なら、ちゃんと守ってあげなよ。……大丈夫、少し『植え替え』をするだけだ」
アルトは黒く腐った黄金樹の幹に、ガシッと両手を突き立てた。
「――解析完了。毒素の飽和状態……よし。これなら、逆に『燃料』として使えるね」
アルトがニヤリと笑った瞬間、彼の全身から黄金の魔力が溢れ出した。
「――新種交配・強制進化(オーバー・エボリューション)。『深淵の太陽大樹(アビス・サン・ツリー)』、起工!」
アルトの魔力が黄金樹の内部へ流れ込むと、腐った幹が激しく震え、内部から凄まじい熱量が発生した。
ドロドロとした黒いヘドロが、アルトの魔力に触れた瞬間に「燃焼」し、純粋なエネルギーへと変換されていく。
バキバキバキッ!!
深海に、ありえないほどの巨大な「植物の咆哮」が響き渡った。
真っ黒だった樹皮が剥がれ落ち、下から現れたのは、内側から太陽のような光を放つ、透き通った水晶のような幹。
枝は一瞬にして広がり、王都全体を覆い尽くすほどの巨大な天蓋を形成した。
その葉の一枚一枚が、深海の高圧を吸収して「電力」と「熱」に変え、暗闇だった都市を、真昼のような明るさで照らし出した。
「な……な……っ!?」
オケアノス王は、あまりの光景に膝をついた。
一族が数百年かけても救えなかった黄金樹が、わずか数秒で、伝説の姿を超えた「神樹」へと進化させられたのだ。
それだけではない。
大樹から放たれる黄金の胞子が、王都に住むすべての人魚たちに降り注いだ。
彼らの体に刻まれていた毒の斑点は見る間に消え、失われていた魔力が、かつてない密度で全身に満ち溢れていく。
「王様。……これが僕の『植物魔法』だ。気に入ってもらえたかな?」
アルトが手を離すと、そこには世界を浄化する「深海の太陽」が完成していた。
沈黙。
そして、次の瞬間、王都全体を揺るがすほどの歓声が沸き起こった。
人魚たちは涙を流して抱き合い、自分たちを救った「地上の神」の名を連呼した。
「……。アルト殿……。いや、アルト様」
オケアノス王は、もはや疑念など一欠片も持っていなかった。
彼は王としての冠を外し、アルトの前で深く、深く平伏した。
「我が無礼を許されたい。貴殿は、神話の時代にいたとされる『大地の調停者』そのものだ。……この海も、我ら一族の命も、すべて貴殿に捧げよう。どうか、このアクア・ルミナスを、貴殿の庭の末端に加えていただきたい」
「あはは、そんな大層なものじゃないよ。……ただ、この大樹を育てるには、君たちの『歌』が必要なんだ。人魚の歌声は、水に魔力を乗せる最高の触媒だからね」
アルトは王を立たせ、優しく笑いかけた。
こうして、死の海と呼ばれた外海は、一夜にして「黄金の深海庭園」へと生まれ変わった。
だが、この奇跡が起きた瞬間、遠く離れた地で「ある者」が目を覚ました。
海流の変化、魔力の急激な清浄化。
それは、帝国の残党だけではない。この海の下に数万年眠っていた、かつての世界の「調整者」……古の海龍を呼び起こしてしまったのだ。
「……アルト様。何か、来ます」
シエラが、腰の短剣に手をやり、暗い海域の向こうを見つめた。
黄金の大樹が照らし出す光の届かない場所。そこから、山のような巨体を持つ「何か」が、凄まじい圧力と共に近づいてくる。
「……へぇ。ようやく出てきたか。この海の、本当の『主』が」
アルトは、恐怖を感じるどころか、楽しそうに瞳を輝かせた。
彼の手元では、新しい「種」が、戦いを予感してドクンドクンと脈打っていた。
通常、深海へ潜れば凄まじい水圧が人間を押し潰すが、この泡はアルトの魔力によって外圧を完璧に中和し、内部は地上と変わらない快適な湿度が保たれている。
「すごい……。海の中にいるのに、まるでお花畑にいるような、爽やかな香りがします」
シエラが泡の膜にそっと触れながら、感嘆の声を漏らした。泡の表面には、微細な「発光藻」が組み込まれており、それが深海の闇を淡いエメラルド色に照らしている。
「この泡はね、外の海水から毒素を濾過して、酸素に変え続ける循環植物なんだ。……さて、ルナ。君たちの王都はもうすぐかな?」
泡の外、先導するように泳ぐ人魚の姫ルナが、大きく頷いた。彼女の鱗は、アルトの浄化を受けてからというもの、深海のわずかな光さえも反射して、サファイアのような輝きを放っている。
「はい、アルト様! あそこに見えるのが、我ら人魚族の誇り――王都『アクア・ルミナス』です!」
ルナが指差した先。
深海の谷間に、巨大な「貝殻の形」をしたドーム群が姿を現した。
かつては海底の宝石箱と呼ばれたその都市だが、近づくにつれ、その惨状が明らかになっていく。
帝国の汚染は、この深海にまで根深く浸透していた。
都市を彩っていたサンゴの壁は白化して崩れ、人魚たちの生命の源であった『海底の黄金樹』――伝説の海草原種は、今や真っ黒に腐り、不気味なヘドロを撒き散らしている。
「……っ。ひどいな。地上の森が焼かれた時と同じ、いや、それ以上に『循環』が死んでいる」
アルトの表情が険しくなる。
王都の入り口には、槍を手にした屈強な人魚の戦士たちが立ち塞がったが、ルナの姿と、彼女から放たれる清浄な魔力を感じて、彼らは驚愕と共に道を空けた。
王都の中央、巨大な円形広場。
そこには、一族を束ねる深海王オケアノスが、枯れ果てた黄金樹の前に立ち尽くしていた。
彼の体もまた、汚染の影響で黒い斑点に覆われ、その命の灯火は今にも消え入りそうだった。
「……ルナか。その鱗……どうしたのだ。そして、その『陸の民』は何者だ」
「父上! このお方は、アルト様。私たちの海を、一族を救ってくださる、偉大なる植物魔導師様です!」
オケアノス王は、濁った瞳でアルトを見つめた。
彼は長年、地上から流れてくる毒に苦しめられ続けてきた。それゆえ、陸の人間に対する不信感は、深海よりも深い。
「……植物魔法だと? 笑わせるな。この海を腐らせたのは、陸の民が操る『魔法』ではないか。今更、人間が何を――」
「王様。……議論をしている時間はなさそうだ。その背後の木、あと数分で完全に腐り落ちて、毒の爆発を起こすよ」
アルトは王の言葉を遮り、スタスタと黄金樹の根元へと歩み寄った。
戦士たちが槍を向けようとしたが、アルトから放たれる圧倒的な「大地の威圧感」に、一歩も動けなくなる。
「待て! その木は我が一族の象徴、安易に触れることは許さ――」
「象徴なら、ちゃんと守ってあげなよ。……大丈夫、少し『植え替え』をするだけだ」
アルトは黒く腐った黄金樹の幹に、ガシッと両手を突き立てた。
「――解析完了。毒素の飽和状態……よし。これなら、逆に『燃料』として使えるね」
アルトがニヤリと笑った瞬間、彼の全身から黄金の魔力が溢れ出した。
「――新種交配・強制進化(オーバー・エボリューション)。『深淵の太陽大樹(アビス・サン・ツリー)』、起工!」
アルトの魔力が黄金樹の内部へ流れ込むと、腐った幹が激しく震え、内部から凄まじい熱量が発生した。
ドロドロとした黒いヘドロが、アルトの魔力に触れた瞬間に「燃焼」し、純粋なエネルギーへと変換されていく。
バキバキバキッ!!
深海に、ありえないほどの巨大な「植物の咆哮」が響き渡った。
真っ黒だった樹皮が剥がれ落ち、下から現れたのは、内側から太陽のような光を放つ、透き通った水晶のような幹。
枝は一瞬にして広がり、王都全体を覆い尽くすほどの巨大な天蓋を形成した。
その葉の一枚一枚が、深海の高圧を吸収して「電力」と「熱」に変え、暗闇だった都市を、真昼のような明るさで照らし出した。
「な……な……っ!?」
オケアノス王は、あまりの光景に膝をついた。
一族が数百年かけても救えなかった黄金樹が、わずか数秒で、伝説の姿を超えた「神樹」へと進化させられたのだ。
それだけではない。
大樹から放たれる黄金の胞子が、王都に住むすべての人魚たちに降り注いだ。
彼らの体に刻まれていた毒の斑点は見る間に消え、失われていた魔力が、かつてない密度で全身に満ち溢れていく。
「王様。……これが僕の『植物魔法』だ。気に入ってもらえたかな?」
アルトが手を離すと、そこには世界を浄化する「深海の太陽」が完成していた。
沈黙。
そして、次の瞬間、王都全体を揺るがすほどの歓声が沸き起こった。
人魚たちは涙を流して抱き合い、自分たちを救った「地上の神」の名を連呼した。
「……。アルト殿……。いや、アルト様」
オケアノス王は、もはや疑念など一欠片も持っていなかった。
彼は王としての冠を外し、アルトの前で深く、深く平伏した。
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「あはは、そんな大層なものじゃないよ。……ただ、この大樹を育てるには、君たちの『歌』が必要なんだ。人魚の歌声は、水に魔力を乗せる最高の触媒だからね」
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