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第三章:天空の箱庭と、失われた太陽の民
第三節:『偽りの太陽』と、天空の支配者
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天空大陸の王都『アイテール』を覆う黒い積乱雲は、ただの自然現象ではなかった。
それは、大気中の魔力を強制的に吸い込み、生命の熱を剥奪し続ける、巨大な「魔導装置」の一部。アルトが浄化した広場から空を見上げると、その分厚い雲の切れ間に、時折、禍々しい黄金の輝きが明滅していた。
「……あれが、貴方たちの言っていた『偽りの神』だね」
アルトの声は、吹き荒れる石化の風を切り裂くように響いた。
彼の隣では、石化から解かれたばかりの有翼人の王女イカロスが、その美しい翼を震わせながら空を仰いでいた。
「はい。……かつて、天空文明が栄華を極めた時代。先祖たちは、気象を完璧に制御し、無限の魔力を生み出すために、あの守護機獣『フェニックス・アルター』を作り出しました。ですが、地上の帝国が引き起こした魔力の乱れによって、あいつの制御系は狂い、本来は人々に分け与えるはずだった太陽の熱を、自分一人で溜め込むだけの怪物に成り果ててしまったのです」
「独り占めか。……一番質(たち)が悪いね。自分だけが熱を持って、下には冷たい灰を降らせるなんて、庭師としては看過できないな」
アルトはそう言って、足元に咲かせた『石喰いの宿り木』の蔓を弄んだ。
天空の民たちは、自分たちを救ったこの青年の言葉一つ一つを、福音を待つ信者のように聞き入っている。
「アルト様。……あの高度では、通常の魔法は黒い雲に遮断されて届きません。それに、あいつの周囲には、熱を奪われた空間が作り出す『絶対零度の断層』があります。近づくことさえ、今の私たちには……」
「大丈夫だよ、イカロス。……届かないなら、届くところまで『伸ばせば』いいんだ」
アルトは鞄から、これまでのどの種よりも重厚な、銀色の光沢を放つ巨大な種を取り出した。
その表面には、微細な回路のような模様が走り、鼓動のように脈打っている。
「シエラ。……世界樹からの魔力パスを、全出力でこの種に繋いでくれ。……ここから先は、僕の『庭』の拡張じゃなく、この星の『空』そのものの書き換えだ」
「承知いたしました、アルト様。……リヴァイアサンとゼノス様にも合図を送ります。陸と海、すべての魔力を一点に集中させます!」
シエラが祈るように杖を掲げると、雲の下、遥か彼方の地上にそびえ立つ世界樹が、空を震わせるほどの共鳴音を上げた。
地上の世界樹から、目に見えるほどの太い「魔力の奔流」が天空へと突き抜けてくる。
「――始動。極光の向日葵(ソーラー・ピラー・ヘリアンサス)」
アルトがその種を、広場の中心――かつて噴水があった場所に深く突き立てた。
――ズズズズズズッ!!
大気が悲鳴を上げた。
種から噴き出したのは、柔らかな芽ではない。それは、鋼鉄を凌駕する硬度を持つ銀色の「幹」であり、天空を突き刺すための巨大な「槍」だった。
幹は猛烈な勢いで成長し、わずか数秒で王都の最高峰を追い越し、黒い積乱雲へと突入していった。
「な……な……っ! これほど巨大な植物が、一瞬で……!?」
イカロスは腰を抜かし、その巨大な銀の柱を見上げた。
銀色の幹は、積乱雲の中にある呪いや毒素を「肥料」として強引に吸い込みながら、さらにその高みを目指す。雲を貫いたその先で、幹の先端が巨大な「蕾」へと変貌した。
「咲け。……そして、この凍えた世界に『朝』を連れてくるんだ」
アルトが指を弾くと、雲の上で巨大な蕾が、大音響と共に開花した。
直径数百メートルに及ぶ、黄金の輝きを放つ巨大な向日葵。
だが、それはただの花ではない。葉の一枚一枚が、宇宙から降り注ぐ太陽光と、大気中の魔力を極限まで濃縮し、一点へと照射する「生きた太陽レンズ」だった。
――カッ!!
天空の大地を、数百年ぶりの「本物の光」が照らし出した。
黒い積乱雲は、向日葵が放つ高純度の浄化光によって焼き払われ、街を覆っていた石化の霧が、目に見える速さで晴れていく。
「あ……ああ……太陽だ……。私たちの太陽が、戻ってきた……!」
天空の民たちが、その場に跪き、涙を流して光を浴びた。
冷え切っていた街に温もりが戻り、石化していた建物が、本来の輝きを取り戻していく。
だが。
自分だけの熱源を侵された「偽神」が、それを許すはずもなかった。
キィィィィィィィィィィィィィィンッ!!
鼓膜を劈くような高周波の叫び。
積乱雲の奥から、燃え盛る黄金の羽を持つ巨大な「機械の鳥」――フェニックス・アルターが姿を現した。
その全長は優に五百メートルを超え、全身から放たれる熱量は、周囲の空気を瞬時にプラズマ化させるほどに凄まじい。
「ギ、ギギ……侵入者……排除……熱源……回収……」
機械仕掛けの神は、アルトが咲かせた巨大向日葵を「敵」と見なし、その巨大な嘴から、街を一撃で蒸発させるほどの熱線を収束させ始めた。
「アルト様! あいつ、怒っています! あんな熱線をまともに食らったら、街が……!」
「いいんだよ、シエラ。……向日葵はね、太陽の方を向くものだから」
アルトは動じない。
フェニックス・アルターが放った、極大の熱線が向日葵を直撃した。
――だが。
向日葵は燃えなかった。
それどころか、その莫大な熱エネルギーをすべて葉で受け止め、茎を通じて地中の「根」へと送り込み、街全体を温めるための「床暖房」のエネルギーへと変換してしまったのだ。
「ギ……!? 熱……消失……吸収……不能……!?」
「残念だったね。僕の植物は、君の『攻撃』を『栄養』として解釈するように設計してあるんだ。……さて、お返しだよ」
アルトが空に向かって手をかざすと、巨大向日葵の種の部分が、眩いばかりの光を放った。
「――重力結実(グラビティ・シード)。……重い『実』を食べて、少し地上を学びなよ」
向日葵から放たれた無数の光の種子が、フェニックス・アルターの体に吸着した。
その瞬間、一つ一つの種子が数万倍の「質量」を持ち始め、機械の鳥を容赦なく大地へと引きずり下ろした。
ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
かつて天空の神として君臨していた巨体が、アルトの足元に墜落し、土煙を上げた。
「……さて。修理の時間だ。君の中にある『詰まった歯車』を、僕の蔦で掃除してあげるよ」
アルトは、もがき苦しむ巨大な機械鳥へと歩み寄った。
天空の支配者さえも、この「庭師」の前では、ただの手入れが必要な壊れた玩具に過ぎなかった。
天空の開拓は、いまや「神々の再教育」という、未知の領域へと足を踏み入れていく。
それは、大気中の魔力を強制的に吸い込み、生命の熱を剥奪し続ける、巨大な「魔導装置」の一部。アルトが浄化した広場から空を見上げると、その分厚い雲の切れ間に、時折、禍々しい黄金の輝きが明滅していた。
「……あれが、貴方たちの言っていた『偽りの神』だね」
アルトの声は、吹き荒れる石化の風を切り裂くように響いた。
彼の隣では、石化から解かれたばかりの有翼人の王女イカロスが、その美しい翼を震わせながら空を仰いでいた。
「はい。……かつて、天空文明が栄華を極めた時代。先祖たちは、気象を完璧に制御し、無限の魔力を生み出すために、あの守護機獣『フェニックス・アルター』を作り出しました。ですが、地上の帝国が引き起こした魔力の乱れによって、あいつの制御系は狂い、本来は人々に分け与えるはずだった太陽の熱を、自分一人で溜め込むだけの怪物に成り果ててしまったのです」
「独り占めか。……一番質(たち)が悪いね。自分だけが熱を持って、下には冷たい灰を降らせるなんて、庭師としては看過できないな」
アルトはそう言って、足元に咲かせた『石喰いの宿り木』の蔓を弄んだ。
天空の民たちは、自分たちを救ったこの青年の言葉一つ一つを、福音を待つ信者のように聞き入っている。
「アルト様。……あの高度では、通常の魔法は黒い雲に遮断されて届きません。それに、あいつの周囲には、熱を奪われた空間が作り出す『絶対零度の断層』があります。近づくことさえ、今の私たちには……」
「大丈夫だよ、イカロス。……届かないなら、届くところまで『伸ばせば』いいんだ」
アルトは鞄から、これまでのどの種よりも重厚な、銀色の光沢を放つ巨大な種を取り出した。
その表面には、微細な回路のような模様が走り、鼓動のように脈打っている。
「シエラ。……世界樹からの魔力パスを、全出力でこの種に繋いでくれ。……ここから先は、僕の『庭』の拡張じゃなく、この星の『空』そのものの書き換えだ」
「承知いたしました、アルト様。……リヴァイアサンとゼノス様にも合図を送ります。陸と海、すべての魔力を一点に集中させます!」
シエラが祈るように杖を掲げると、雲の下、遥か彼方の地上にそびえ立つ世界樹が、空を震わせるほどの共鳴音を上げた。
地上の世界樹から、目に見えるほどの太い「魔力の奔流」が天空へと突き抜けてくる。
「――始動。極光の向日葵(ソーラー・ピラー・ヘリアンサス)」
アルトがその種を、広場の中心――かつて噴水があった場所に深く突き立てた。
――ズズズズズズッ!!
大気が悲鳴を上げた。
種から噴き出したのは、柔らかな芽ではない。それは、鋼鉄を凌駕する硬度を持つ銀色の「幹」であり、天空を突き刺すための巨大な「槍」だった。
幹は猛烈な勢いで成長し、わずか数秒で王都の最高峰を追い越し、黒い積乱雲へと突入していった。
「な……な……っ! これほど巨大な植物が、一瞬で……!?」
イカロスは腰を抜かし、その巨大な銀の柱を見上げた。
銀色の幹は、積乱雲の中にある呪いや毒素を「肥料」として強引に吸い込みながら、さらにその高みを目指す。雲を貫いたその先で、幹の先端が巨大な「蕾」へと変貌した。
「咲け。……そして、この凍えた世界に『朝』を連れてくるんだ」
アルトが指を弾くと、雲の上で巨大な蕾が、大音響と共に開花した。
直径数百メートルに及ぶ、黄金の輝きを放つ巨大な向日葵。
だが、それはただの花ではない。葉の一枚一枚が、宇宙から降り注ぐ太陽光と、大気中の魔力を極限まで濃縮し、一点へと照射する「生きた太陽レンズ」だった。
――カッ!!
天空の大地を、数百年ぶりの「本物の光」が照らし出した。
黒い積乱雲は、向日葵が放つ高純度の浄化光によって焼き払われ、街を覆っていた石化の霧が、目に見える速さで晴れていく。
「あ……ああ……太陽だ……。私たちの太陽が、戻ってきた……!」
天空の民たちが、その場に跪き、涙を流して光を浴びた。
冷え切っていた街に温もりが戻り、石化していた建物が、本来の輝きを取り戻していく。
だが。
自分だけの熱源を侵された「偽神」が、それを許すはずもなかった。
キィィィィィィィィィィィィィィンッ!!
鼓膜を劈くような高周波の叫び。
積乱雲の奥から、燃え盛る黄金の羽を持つ巨大な「機械の鳥」――フェニックス・アルターが姿を現した。
その全長は優に五百メートルを超え、全身から放たれる熱量は、周囲の空気を瞬時にプラズマ化させるほどに凄まじい。
「ギ、ギギ……侵入者……排除……熱源……回収……」
機械仕掛けの神は、アルトが咲かせた巨大向日葵を「敵」と見なし、その巨大な嘴から、街を一撃で蒸発させるほどの熱線を収束させ始めた。
「アルト様! あいつ、怒っています! あんな熱線をまともに食らったら、街が……!」
「いいんだよ、シエラ。……向日葵はね、太陽の方を向くものだから」
アルトは動じない。
フェニックス・アルターが放った、極大の熱線が向日葵を直撃した。
――だが。
向日葵は燃えなかった。
それどころか、その莫大な熱エネルギーをすべて葉で受け止め、茎を通じて地中の「根」へと送り込み、街全体を温めるための「床暖房」のエネルギーへと変換してしまったのだ。
「ギ……!? 熱……消失……吸収……不能……!?」
「残念だったね。僕の植物は、君の『攻撃』を『栄養』として解釈するように設計してあるんだ。……さて、お返しだよ」
アルトが空に向かって手をかざすと、巨大向日葵の種の部分が、眩いばかりの光を放った。
「――重力結実(グラビティ・シード)。……重い『実』を食べて、少し地上を学びなよ」
向日葵から放たれた無数の光の種子が、フェニックス・アルターの体に吸着した。
その瞬間、一つ一つの種子が数万倍の「質量」を持ち始め、機械の鳥を容赦なく大地へと引きずり下ろした。
ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
かつて天空の神として君臨していた巨体が、アルトの足元に墜落し、土煙を上げた。
「……さて。修理の時間だ。君の中にある『詰まった歯車』を、僕の蔦で掃除してあげるよ」
アルトは、もがき苦しむ巨大な機械鳥へと歩み寄った。
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