メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

綾壁蒼太

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「真奈さんからお礼が来たわよ、“旦那さんを助けてくれて有難う”だってさ」

「ああ、鵺の件ですか。別に良いですよあれぐらい。それにお礼ならばキッチリ払ってもらってますからね」

 片手でスマートフォンを耳に当てつつ、電話口の向こうで言葉を紡ぐ年配の女性に応対しつつ、青年はもう一方の手で預金通帳の残高を確認した。

 そこには0が6つに7の文字が書かれている、つまりは7000000円を持っている、と言う事だ。

「別にただで助けている訳ではありませんからね、こっちも命懸けなんで・・・」

「そりゃそうだね、下手すりゃ自分も取り込まれちまうんだから。で、鵺はどうしたんだい?」

「瓶の中でじっくり力を奪います。コイツらはただ倒しただけではダメなんです。未成仏の動物霊って言うのはどいつもこいつも始末が悪い。特に狸や鵺なんて言うのはその最たるモノです、何せわざわざやられた振りをして術者に取り憑き、人生を狂わせる輩までいるんですからね。じっくりと時間を掛けて消滅させます」

「そっか、まあ“逃げれば良いよ”って言ったのに逃げなかったんだからね、そっちの方は任せるわ。こっちはね、真奈さんと充さん、ヨリを戻したみたいだよ、“もう一度やりなおそう”って、なったみたい」

「そうですか、それは何よりですね」

「話を聞いたんだけどね。充さん、前から自分を変えたいって思ってたんだって。確かに皆に愛されてるけどそれだけじゃなくて、ちゃんと肩を並べられるようになりたいって、その為には仕事をもっと出来るようにならなきゃいけないんだって。人には見せなかったけどかなり思い詰めてたみたいだよ」

「なるほどね、そこを突かれた訳ですか」

「そうみたい、鵺に取り憑かれてしまった事で、それまで抱いていた劣等感とか、そう言ったモノが一気に噴出してしまったんだろうね、まあ優しい人だったからね、結構抱えてるモノも多かったみたいだよ」

「まあ人には色々ありますからね、何があっても驚きませんが。所で斉藤さん、確か函館に行かれるんでしょ?まだ出なくて良いんですか?」

「おっとそうだったね。それじゃね蒼ちゃん。またなんかあったらよろしく頼むわ」

「ええ、また何かあったらお声がけ下さい。・・・それでは」

 そう告げて通話をオフにすると青年はフゥ、と息を突き、鵺の封じられている小瓶を見つめる。

 消滅するまで、約半年と言った所か、しかしコイツ相手に油断は出来ない。

 正直危ない所だった、何しろコイツらと来たら入滅の瞬間にやられた振りをして逃れたり、最後の悪足掻きでもっと上手を呼び寄せたりする事もあるからだ(ちなみに本当にやられると二度と出て来なくなるので非常に解りやすいと言えば解りやすいと言える)。

「一年半は掛けて、じっくりとやろう。・・・その方がいいな」

 等とブツブツ言いながら、青年は洗面台に向かって歩みを進める。

 昨日の夜、お風呂に入った際に髭を剃るのを忘れてしまったため、急遽朝にやることにしたのだ。

 で、その直前に掛かってきた斉藤おばさんの電話にさっきまで掴まってしまっていた、と言う訳だったがドアを開けて備え付けの鏡に映し出された青年の姿には、確かに見覚えがあった。

 その身体は日焼けして大きく育ち、屈強な体躯になっていた。

 声も太く低くなり、どこか幼さの残る精悍な面持ちのその顔の額の部分には、大きな向かい傷が付いてはいたが、彼こそは紛れもなくあの日、大地の裂け目へと飲み込まれて行った筈の、綾壁蒼太その人だったのだ。
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