メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

追憶編3

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 実はこのお話の開始から1年と半年ほど前の時点で、蒼太はメリアリアと既に恋仲になっています(初めても、既に済ませています)。

 二人の詳しい馴れ初めはいずれまた、取り敢えず今はまず、追憶編を完結させます。

 些か急ぎ足となってしまいますが、どうか御容赦願います。

 ただ一つだけ言わせていただきますと、メリアリアは蒼太を自分と同じ境遇へと落としたく無かったのです(蒼太がメリアリアの事を知ったら、きっと“自分もセイレーンに入る”と言い出すだろうからです)、彼女なりに何としても彼を守ろうとしたのですね、その辺りの事は、追々語られて行くことになろうかと思われます。
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 メリアリアが13歳、蒼太が11歳を迎えたばかりの頃のこと。

 この時、二人の関係と言うか将来に転機をもたらす、ある重大な出来事があった、蒼太がセラフィムの中でも一握りの人間しか入れない超法規的生徒会組織、通称“セイレーン”のメンバーとして招致されて、正式に属する事となったのだ。

 ここは何か、と言うとセラフィム内に秘密裏に創設されたミラベル直属の(つまりは王立諜報部直属の)非公式なオーガニゼーションであり、将来を担う幹部候補生達が皆、必ずと言って良い程所属する、その筋では有名な登竜門的アソシエーションであった。

 その活動目的は幅広くて例えばセラフィム内部の風紀の維持や生徒会等各種役員会の監視(これらにも、セイレーン程では無いが成績が優秀な者が選出される為、メンバーが不祥事を起こした際は重大な事案に発展する事も珍しい事では無かった)、時には不良グループの捕縛や指導(事実上の排除や撃滅)そしてー。

 稀に現れる、生徒を装って内部に侵入して来る諸外国の工作員及び、その協力者の洗い出しと制圧(場合によっては抹殺を含む)と言う、実に危険な任務の数々を本職であるミラベルの戦士達と共に熟す事を余儀なくされる状況下に置かれたのだ。

 ちなみに原則として、この組織に入る場合には一ヶ月間の猶予期間が与えられるが、何か余程の理由が無い限りかは生徒側に拒否権と言うモノは、事実上として存在してはいなかった。

 勿論、“どうしても嫌だ”と言って拒否する事は可能だったがそれをした場合、もう将来的にこの世界で生きてゆく事は出来なくなるし、セラフィム内部の人間関係も卒業と同時に完全に絶たれる事となる。

 それだけではない、この申し出を受けた場合は授業料の免除や進学の際に便宜を図ってもらえる等の、ある種の特待生待遇を+して受けられるのだが拒否した場合はそれらも全て軒並み拒絶されるようになると言う、まさに人生の勝ち組と負け組の分岐路に立たされるような仕組みになっていたのだ。

 ちなみに。

 蒼太は最初はこの申し出を、それでも拒否しようとしていた、エルヴスヘイムの冒険を通してこの世界に身を置き続ける事の大変さは身に染みていたし、それが故に“果たして自分に出来るだろうか”と自信が今一つ、持てずにいたからである。

 あの時だってそうだった、“父のように立派にいたい”と言う、いわゆる自己の社会的承認欲求に端を発した冒険は(勿論、困っているエルフ達を助けてあげたい、出来るなら何とかしてあげたいと言う思いも加わっての事だったのだが)、様々な存在や、持って生まれた悪運とでも言うべきモノに助けられて結果、立派に成し遂げる事が出来たものの、それだって一歩間違えればどうなっていたかは解らない。

 要するにこの世界に居続ける事自体に将来性や意義を全く見出せていなかったのだがしかし、一方でメリアリアとのことは、是が非でも何とかしようと考えていた、メリーならきっと付いてきてくれるだろうし、それにメリアリアと言う少女ならば確かに、多少の無理など跳ね返してでも“蒼太と一緒に生きる!!”と言ってくれたであろう事は想像に難くなかった、もっとも。

 この時の蒼太はまだ、大人の世界の深さと複雑さと、それに伴う恐ろしさとを完全に理解し切れていなかった、“自分達が頑張れば何とかなる”、そう考えて疑わなかったのである、そんな彼の思惑というか人生の事情が一気に変わったのはそれから一月と経たない内だった。

 何と無敵を誇っていた蒼太の父、清十郎がある任務の最中に戦死してしまい、時を同じくして母親である楓も、病で帰らぬ人となってしまったのだ。

 大黒柱とその番とを一遍に失ってしまった蒼太の家庭に、セラフィムの授業料は余りにも重くのし掛かって来た、今までは両親が共働きで、しかも二人ともミラベルに属していたから蒼太の授業料も事実上、免除となっていたのだが、この申し出を断れば今後どうなるのかは、解ったモノでは無かった。

 おそらく、今まで付いていた各種特典は機能しなくなり蒼太はこの広い世界に、たった一人で放り出される事となる。

 勿論、その場合でも父や母が残してくれた遺産で暫くは食いつないで行けるであろうが、それとて永遠に続けていける訳では無い。

「君はいずれ大いなる選択の時を迎える事になるだろうが、まずはその時まで生きる事だ」

 あの時のアルヴィンの言葉が脳裏にありありと蘇って来た、それにセイレーンと言う言葉についてもそれが一体、何なのか、あの時点で誰も(父や母までも)教えてはくれなかったが今、この時になってその答えを見出せた事に、そして何より、自らがその組織へと所属せざるを得ない事に、蒼太は運命のうねりと言うモノを、ヒシヒシと感じるようになっていたのだ。

「・・・どうするかね?」

「・・・お引き受けいたします」

「そうか」

 後日。

 ミラベルの執行役員室に呼び出された蒼太は、覚悟を決めた口調でそう答えた、もう自分に選択肢は無い、取り敢えずは生きてゆかねばならないのだ。

「良かった。アルヴィン老師のお気に入りの君ならば、選択を間違える筈は無い、と思ってはいたがね」

「今後はこちらの指示には絶対に従ってもらうよ、如何に君と言えども勝手な振る舞いは許さない」

「違反があった場合は、例えセイレーン内部の人間とは言えども処罰の対象となる。・・・よくよく肝に銘じておくように」

「はい」

 これでいい、これで今後の自分の処遇や立場は改善されずとも、少なくとも今まで通りの生活は保障されるだろう、それにミラベルの任務中に父は殉職しているのだから、それに対する手当も出るはずだ。

(学園にも、今まで通りに通える。・・・メリアリアとも会うことが出来るだろう)

 と、幼馴染みの少女の事を考えていた矢先の事だった。

「では君の上役と言うか、先輩としてタッグを組む相手を紹介しよう。実は本人たっての希望でな、“是非君とパートナーになりたい”と自ら志願してくれたのだよ。・・・入りたまえ」

「・・・え、えっ!?」

 厳しい世界には辟易しているのに、等と考えていた蒼太の前に現れた人物、それはー。

 蒼太のよく知る少女だった。

「メリアリア・カッシーニ君だ。君より二つほど年上だ、日本人ならば大丈夫だと思うが先輩をキチンとたてるようにな」

 そんな執行役員の言葉も、この時の蒼太の耳には入っては来なかった。
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