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運命の舵輪編

魔法使いの血統

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 “エイジャックス連合王国”の始まりは六世紀初頭にまで遡るモノの当時、“ブリタニア”では古来からの先住民である“ケルト系ブリトン人”と後に大陸からドーバー海峡を押し渡って入植して来た“アングロサクソン人”の王国が七つも乱立している状態であり、統一国家の樹立へと向けての、戦乱の只中にあった。

 それだけではない、中期以降になるとそこへ更に“デーン人”、即ち今現在のデンマークやスカンジナビア半島を本拠地とする、所謂(いわゆる)“ヴァイキングの集団”が度々襲来して来ては、街や村々を荒らして回るようになり、その結果ますます、ブリタニアの大地の混迷は、その度合いを増して行く事となった、そんな中において。

 ある一つの王国が抜きん出ては他を圧倒して行くようになるモノのそれはブリタニアの南西部から中部一帯を支配していた“ウェセックス”と呼ばれていた、アングロサクソン人の打ち立てた王国であって彼等は周囲の敵対国家や部族、集団等を次々と平らげて配下に収め、或いは討ち滅ぼして行き、そしてその結果として遂には見事に“エイジャックス連合王国”の元となった、“ウェールズ王国”を築き上げるに至ったのである。

 その後、王朝は幾度かその血統と名前とを変化させつつも(とは言えども基本的にはそのいずれもが皆、ウェセックス王家の血筋から出た親戚筋や分家筋のモノではあったが)1500年の歴史を伝えて来た訳であり、“世界の皇室、王室”を見渡して見ても中々に、格式と伝統とを有している家柄ではあった、そんな彼等の地に。

 土着の人々の間で語り継がれている、彼等に絶大な人気を誇る伝説上の人物がいた、何を隠そう“アーサー王”その人であったがしかし、彼自身はあくまでも古くから伝わる伝承、所謂(いわゆる)“民間伝承”の中に登場して来る伝説上の人物であって当然、その正体も詳しい出自も何もかもが不明と言う、誠にもって奇っ怪至極な存在なのであったモノのそれでも、未だに持ってブリタニアの人々は、彼を騎士道精神を体現していた“偉大なる英雄”として賛美し称え、そしていつか来たるであろう、その再来を日を今日でも待ち続けていたのである。

 ちなみに。

 そんな彼には忠実にして誠実なる(にも関わらずに不倫やら何やらで最終的にはその半数近くがアーサー王の元から逸脱して行く事になるわけなのであるが)友人達と言うか協力者である直属の“護衛騎士団”がいた、所謂(いわゆる)“円卓の騎士団”であるが彼等はその一人一人が非常に勇敢で戦闘能力も高く、まさに一騎当千の猛者揃いだった訳であり、アーサー王率いる軍団の、戦力中枢そのものを為していた構成員達だったのだ。

 それに加えてもう一人、忘れてはならない人物がいた、影ながらアーサー王を見守り続けて支え続け、時には助言をも授けて彼を導き続けて来た孤高の大魔法使い、“マーリン”の存在であるモノの、日本で言う所の優れた“科学者”兼“陰陽師”でもあった彼は、物語の中盤にアーサー王と袂を分かつまで(結婚相手に関する事でアーサー王と揉めた)ずっと彼に仕え続けて“導き手”としてのその役割を全うし続けて来たのであり、そしてそう言った彼等“協力者達”の立ち位置や存在意義と言ったものを参考にして現実に創り出された組織こそが王宮直属の裏方護衛魔法騎士団、“レウルーラ”だったのである。

 基本的には彼等は“エイジャックス連合王国”の内部における秘密内偵組織でありそれと同時に文字通り、王宮の警護を(もっと言ってしまえば“王族そのものの警護”を)任されている魔導師達の一派だったのであるが当然、それに選ばれる為には強靱な精神力と身体能力とを誇っている事に加えて高潔な人柄と協調性、一般常識と冷静さを弁えている事、そして更に言わせてもらえば周囲の存在を感じ取る事の出来る鋭い感性と同時にもう一つ、いざの際に窮地を脱出するために働かせられる機転を有している事など、かなり細かくて厳しい条件を、それも全てにおいてクリアーしなければならなかったし、その上。

 そう言った諸々の事柄よりも、何をおいても最優先的に考慮しなければならない極めて重要な判断基準が実際の選考においては存在していて、そしてそれはレウルーラの構成員達自身にすらも、数えるほどしか知らされていない事実であったがそれと言うのは彼等魔法戦士の中に流れている、先祖代々に渡って脈々と受け継がれ続けてきていた各家系の魔法使いとしての血筋、要するに“血統”そのものであったのだ。

 そもそもの論理としてエイジャックス連合王国の王侯貴族や官僚達と言った、所謂(いわゆる)“上流階級”や“国の元締め”達と言うのは己や他人の血統と言うものに対して皆何某かの、ある種の誇りと言うかドグマのようなモノを一様に抱えていたのであり、そしてそれは彼等“レウルーラ”に対してもまた同様であった、と言うのは国のトップや公的上層部における主観や主論、または彼等主導の下で行われて来た長年の研究成果においては魔術や技術、超能力と言った、所謂(いわゆる)“霊力”と呼ばれる力はそれぞれの家系、家庭の有している“血の力”とでも言うべきモノに由来する所が極めて大きいのであって、そしてそれは紛う事無き事実であった。

 それはつまり“霊力の高い家系の子供と言うのは確かに、その高い霊力を受け継いでいる”のであり、そしてそれが遺憾なく発揮されるにしても、素養のままで終わってしまうモノなのだとしても、少なくとも無能力者の家系等より遥かに、貴種としての存在価値を内包しているのであって、そう言った人材を発見、確保する事もまた、彼等にとっては最重要項目事項に該当している、大事な使命であったのだ。

 もっとも。

 この事は何も、エイジャックス連合王国に限った話では決して無かった、そのライバルにして隣国である“ガリア帝国”においてもそうであったし、また今現在、蒼太とメリアリアが暮らしている大八洲皇国、即ち“日本皇国”においても内情は全く同様であって、要するにそう言った国々の秘密組織がそれぞれに手を出し合うと同時に絶えず後継者の確保、育成に努め続けており、そしてその結果として“裏の世界”では奇妙な均衡状態が生まれ、今日においてもなお、それらが維持され続けている、と言うのが偽ざる実状であったのだ。

 そしてそう言った血筋の家柄と言うのは往々にして、古来より続く王族や名家等に何らかの関わりや携(たずさ)わり、即ち縁(ゆかり)がある場合が圧倒的なまでに多かったのであるがそもそも論としてこれには古代世界における、統治者の在り方そのものが非常に大きな関わりと言うかウェイトを占めていた、と言うのは(これは今現在でも同じ事が言える訳なのであるが)往時においては王族と言うのは重要な儀式、即ち“祭り”を執り行う際には必ずと言って良いほどに、その中核とも言える“祭司”としての役割を担っている事が多々あったのであって、そしてそう言った理由もあってどうしても、“高次元世界”と繋がる事の出来る、ある程度以上に高い感性と霊力とが絶対に必要になって来る。

 そもそも論として、古代世界における“祭り”と言うのは本来、祭司や巫女に選ばれたる存在、人々が神々と一体となってその意思やエネルギーをこの世に降ろし広めたり、または逆に人々の願いである五穀豊穣や国家の安寧、そして感謝の気持ちと心といったモノを神々へと伝える為の、大切な神事そのものだったのであって、そしてそれ故に、王族達と言うのは単なる“指導者”、“統治者”であるのみならず、優れた“シャーマン”としての素質をも兼ね備えていなければならなかったのである。

 そう言った理由もあってだから、万が一にもこれら“祭り”を正しく執り行うことが出来ない者、もしくは開催する事が出来ない者と言うのは=で“神事を疎かにする者”、或いは“神々と繋がる事の出来ない者”として人々からの信頼を失い、求心力の著しいまでの低下を招いてしまう事となるのであって、それは即ち自分自身の勢力の凋落、酷い場合だと滅亡そのものに直結する場合すらもあったのだ、そして。

 だからこそ各国の王侯貴族と言うモノは皆、まるで競い合うようにしてそう言った霊力、呪力を高めようと躍起になったし、仮にその素養が無かったり、あっても低くてどうしようもない場合はそう言った力を秘めている家系との婚姻を結んでは、彼等の血筋を己の中へと取り込み続ける、と言った事を何代にも渡って繰り返して来たのである。

 だから現に(決して公的にその名が挙がる事は無かったモノのそれでも)“ルクレール”と呼ばれる女性は王族の一つである“ウィンザー家”の出身であったし、またもう一人の“エヴァリナ”の方はと言えば此方は、エイジャックス連合王国の王都“ロンディニウム”が世界に誇る、超高級一等地区である“メイフェア”、“ベルグラビア”の双方の利権を握る大地主にして“ウエストミンスター公爵位”を代々受け継ぐ“クロブナー家”の一門であったのだ。

 そう言うわけであって彼女達は別に、そのまま生きていたのならば上流階級のご令嬢としての、押しも押されぬ地位と名誉を約束されていた筈であり、現に二人も最初はそのつもりであったのだが。

 運命はそれを許さなかった、類い稀なる魔法の才と身体能力を誇る彼等は幼い頃からその秘めたる力を“ドルイド”と呼ばれる“ハイウィザード”の一団に見出されて、それから後は今日に至るまでずっと数多の戦場と専門の教育機関、そして国の有している、“彼等”のような存在の為の保養施設で過ごして来ていた、と言う訳であった。

「“白薔薇園”も楽しかったけれど。ここも中々のモノよね?エヴァリナ」

「ええ、ちょっと人が多すぎるのが辛いところですけれど・・・」

 街に繰り出した二人はご機嫌であった、以前から日本のポップカルチャーには興味を抱いていた二人だったがそんな自身の感性に、間違いが無かった事もまた、嬉しい事実だったのだ。

「本当は、“お仕事”なんかでは無くて、バカンスで来たかったわ。嫌になっちゃう!!」

「ここは本当に、不思議な国ですよねぇっ!!」

 とすっかり雰囲気に馴染んできたルクレールとエヴァリナは、洒落たショップの建ち並ぶ原宿の街を呑気に楽しく散策しながら互いに声を掛け合うモノの、確かに日本は不思議なお国柄ではあった、と言うのは彼女達から見れば正直に言ってこの国は甘いと言うか、素朴と言うか、単純な所が多々あったのだが。

 だけどそれでも何だか、祖国にいるよりも“癒される”と言うよりも、“安らげる”国なのであって、ハッキリと言ってしまえば安全保障上では間の抜けた所もあるにはあったがそれでも、不思議と居心地の良い、安心できる空間と雰囲気とが、国中に充満していた。

「そりゃ“オタクな文化”も育つわけよねぇ!!」

「色々な物事が、育ちやすい土壌と言うか、性質を持っているのでしょうね、この国は・・・!!」

 そう言い合いながらも二人は、途中の角を右に曲がって裏路地に入った所にある、一件のカフェへと至った。

 内部は今風に小洒落た感じの、それでいて落ち着きのあるスペースが店の奥まで広がっていた。

「May I help you?(いらっしゃいませ)」

「ああ、大丈夫よ?」

「日本語は、出来ますから・・・」

「失礼致しました!!」

 迎えてくれた男性の店員が、そう言って慌てて謝罪するモノの別段、二人は気にする様子も無くメニューを見ながらコーヒーとパンケーキ、そしてホットサンドイッチを含む、幾つかの品を注文する。

 ここは実は、エイジャックスの旅行会社が発行しているガイドブックに乗っていたお店でありそれ故に、彼女達はわざわざ足を運んで来たと言うわけだ。

「ここのベーグルとホットサンドイッチは、特に逸品らしいからね。1回どんなモノなのか、食べに来て見たかったんだ!!」

「エイジャックスの思い出させる、非常に完成された品、そう書いてありましたもんね。私も少し楽しみです」

「お待たせ致しました・・・」

 “ちょうどお昼時だったしね”等と話し合っていた二人の元へと先程のウェイターとは別の、ちょっぴり可愛い系の顔をしたウェイトレスが料理を運んで持って来るモノの、それを見た瞬間。

「ちょっと、嘘でしょ!?」

「最高過ぎです!!」

 二人の歓喜の嬌声が、店の中いっぱいに響き渡って言ったのである。
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