メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

超新星、襲来!!

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 蒼太は基本、金曜日の夜から日曜日の朝方までに掛けてはずっと恋人の事を抱き続けており、そしてメリアリアもまた、そんな彼氏の事をどこみでも求めて貪り、受け入れ続けていたのであるが、そんな二人のエッチが終わる時と言うのは大抵、蒼太が己の滾りをあらかた放出し尽くした時であり、しかもその時点で間違いなく、メリアリアもまた完全なまでに脱力してしまっていた、恐ろしい程の勢いと激しさとでイカされ続けた彼女の精神は涅槃の果てのそのまた向こう側にまで吹き飛ばされてしまっており、ピクリともしなくなっていたのであるが、そんな二人はだからそのまま、重なり合ったままで眠りに付き、起きると暫くの間はベッドの上でイチャイチャしたり、ピロートークを繰り広げたりしてまったりと過ごすようにしていたのである。

 大体、午前中いっぱいはそのような感じで過ごした後でお風呂に入ってシャワーを浴びて、室内の片付けを済ませてから後、近所のスーパーマーケットへと食料品や日用雑貨を買い揃える為に、揃って出掛けて行くのだったがしかし、では一方で、それ以外の日に付いては一体何をしていたのか、と言うと、そこは普通に就労しており、しかも最近はメリアリアの事を助手として、連れ歩くようになっていたのだ。

 理由は至って簡単である、ノエルによってもたらされた、例のレウルーラ4人組の襲撃の一報以降、メリアリアと話し合った結果、“二人が別々に過ごしているのは完璧にヤバい”と言う事となり、“申し訳ないんだけれども”と言いつつも彼女に助手として、仕事に付いて来てもらう事になったのである、そしてその結果。

 蒼太は大いに助かる事となっていった、仕事が以前よりも大分捗るようになり、特に除霊や結界張りは勿論、魔物退治や悪鬼征伐等と言った、比較的重要な案件に対する苦労も格段に減少して蒼太をして、“頼りになるパートナーがいるとこうも違うのか”と言う事を、まざまざと痛感させる事となっていったのだ。

 一方で。

 メリアリアもまた、嬉しくて仕方が無かった、“自分が蒼太にくっ付いて行けてる”、“自分の能力が、存在が大好きな人の役に立っている”と言うことがハッキリと実感出来た為に、心は喜びで満ち溢れており、気力も充足して毎日を、以前よりも更に活き活きと過ごすことが出来るようになっていったのである。

 そんな折り。

「・・・・・」

(“また”だ・・・!!)

 ある休日の午後、デートも兼ねていつものように、蒼太がメリアリアと連れたって歩いていると、不意に“その気配”が感じられて思わず周囲を見渡すモノの、実はここ数日の間に何者かの視線を感じる事が度々あって、その都度こうして辺りに探りを入れてみるのであるが、どこにも誰の姿も見えずにどうにもスッキリする事の出来ない、訝しい日々が続いていたのだ。

「メリー・・・」

「解っているわ・・・」

 恋人からのその言葉に、メリアリアもまた頷くモノの、彼女もまた、そう言った自分達を監視するかのような眼差しを感じる事が何度かあって、それ故に2人とも気が抜けない状況になっていったのである。

「・・・・・」

「・・・・・」

(“これ”は“あの時”の、だとすると・・・!!)

(ノエルのくれた情報通り、“コイツら”が・・・!!)

 そのまま暫くの間は歩き続けて、“無視して買い物に行こうか”と思っていた蒼太であったがー。

 不意に意を決したような眼差しをメリアリアへと向けると彼女もまた、覚悟を決めた表情でそれに応じてコクンと頷く、そうしてー。

 一瞬の隙を付いては直ぐ側にあった裏路地への道へと入り込み、そこから更に奥にある“新興住宅予定地”となっている、工事現場の更地に入った。

 ここはかつて“都営住宅”の公団マンションが軒を連ねていた場所であり、その改築と近代化の為に住民を一時期、仮住まいへと移した後で解体工事が進められており、その結果、今はキチンと平坦に慣らされた広大な土地が、それなりの面積にまで広がりを見せていた。

「・・・・・」

(やれやれ・・・)

 蒼太は思うがこれでは立派な不法侵入であり、その気になれば逮捕とまでは行かないまでも警察署に呼び出されての叱責位は免れ得ない事態であるが、しかし。

(それでも・・・。一般の人を、犠牲には出来ない!!)

(ここならば恐らく、それなりに暴れても周囲に迷惑の掛かることは無いでしょう・・・!!)

 そう思った二人はだから、もう一度互いを見つめて頷き合うと、声を限りに呼び掛け始める。

「出て来いっ、“黄昏のルクレール”、そして“青天のエヴァリナ”!!」

「お前達がいるのは解っているのよ、大人しく出て来なさいっ!!」

「・・・・・!?」

「行きましょ?エヴァリナ・・・」

 一瞬驚愕するモノのしかし、ルクレールから促されたエヴァリナは直ぐさま彼女に同調すると、二人は建物の陰から表へと出て来てはスタスタと徒歩で蒼太とメリアリアのいる工事現場へと向けて歩を進めて行った。

 更地の周囲はバリケードが創られており、その向こう側には防音と防塵の為だろう、天幕が張り巡らされていたモノの、それをー。

「・・・・・」

「・・・・・っ!!」

 軽々と飛び越えると華麗に着地を決めて既に臨戦態勢で身構えている、二人へと向けて真正面から近付いて行った。

「・・・・・っ!!」

「・・・・・っ!?」

 “へえぇ・・・っ!!”とルクレールは驚いてみせた、聞いていた“話と大分違うわね”と、そう告げて。

「メリアリア。あなたは確か、少女の姿になっているって聞いたけれども・・・」

「普通のレディですわね、レウルーラの本部で目を通した“暫定資料”に大まか合っていますでしょうか・・・」

 ルクレールの言葉を受けてエヴァリナもまた頷くモノの、どうやら彼女達にはセイレーンの主要人物達に対する“暫定資料”が存在しているらしく、その出所は恐らく“エカテリーナ”か“カインとメイルの二人組”かのどちらかであろう事は、容易に伺える事案であった。

「・・・でもまあ、驚いたわ?まさか私達の事まで割れているなんて」

「どう言うマジックを使われましたの?」

「・・・・・」

「・・・なに。こっちも“諜報網”ってのがあってね、それを使ったまでさ」

 するとそれを聞いたルクレールが再び“へえぇっ!?”と驚愕の表情を露わにするが、もしそれが本当ならば蒼太とメリアリアの後ろには一つの国家レベルの情報収集能力を持っている、諜報組織が付いている事になるのでありそれはそれで脅威ではあった。

「私達の姿だけではなくて、名前や異名も知れ渡っているなんて・・・。ねえ?エヴァリナ・・・」

「ええ」

 ルクレールからのその言葉に、エヴァリナもまた頷いて見せた、“本当にビックリです、ルクレールさん”とそう言って。

「そんな諜報組織があるんでしたら、是非ともこの後、調査をしなくてはなりません」

「ええ、そうねエヴァリナ。これでまた、ジャパンにいられる理由が出来たわね、正直ホッとしてる・・・」

「・・・・・」

「・・・・・っ!!」

(既に、勝った気でいやがるな。しかし・・・!!)

(コイツらの“闘気”、本当に凄い。静かで、だけどとても濃厚で。隙間無く研ぎ澄まされてる・・・!!)

 一方で。

 そんな二人と対峙していた蒼太とメリアリアはあらかた、彼女達に対する“感覚的なスキャンニング”を終えており、その観察結果から思わず身を引き締めるが、ハッキリと言ってこの二人はカインとメイルよりも格段に強く、手を抜いた状態のままで勝てる相手では決して無かった。

「メリー・・・」

「ええ・・・っ!!」

 蒼太の呼び掛けに、メリアリアはすぐに応えるモノのこの時点で二人は覚悟を決めていた、即ち“全力”を発揮する覚悟を、である、一方で。

 ルクレールとエヴァリナもまた、一見軽い感じに見えてその実、蒼太達を決して甘く見てはいなかった、何しろ彼等はあの妖精王“オーベロン”と妖精女王“タイターニア”の妖力を、その身に纏っていた筈のカインとメイルとを、それもその力と感性とが最大以上に発揮される筈の“トワイライトゾーン”の中で返り討ちにしてしまっているのであり、詳細は解らないモノの、相当に強力な、“秘めたる力”を持っている事が伺える。

 それも。

(ただ単に“強い”だけでは決して無い。現にこの二人は“トワイライトゾーン”の戦いを生き残り、ちゃんと現実(この)世界へと帰還を果たして来ている。それはつまり、あの二人を無傷で打ち破れる程度の実力と同時に現世から完全に閉ざされてしまっていたはずの“トワイライトゾーン”から、次元を切り開いてこの世界へと帰還する事が出来るだけの特殊で超越的な“何かの力”を持っている、と言う事になるけれど・・・。でもそうでなければ説明が出来ないわ・・・!!)

(只者じゃないって事ですね・・・!!)

 そう思い立った二人はだから、蒼太とメリアリアとに対してあくまで余裕に構えつつもその実、“厳しい戦いになりそうだ”と腹を括っていたのである。

「・・・・・」

「・・・・・」

(僕はあの、ルクレールを叩くから・・・。君はエヴァリナを・・・)

(ごめんなさい、蒼太・・・)

 “逆の方がいいわ”と、恋人から小声でなされた提案に、すかさずメリアリアが反応するが見たところあの“ルクレール”と言う女性の闘気と練り上げ方から推察するに、彼女は恐らく自分の同じタイプの人間であり、そして申し訳ないのだけれども実力も殆ど同程度だと思われる。

 即ち。

(“通常のまま”で戦ったのならば・・・。蒼太では、恐らく・・・!!)

 “それならば自分がやろう”とメリアリアは腹に決めていたのであるが、しかし。

「・・・いいや、大丈夫だよ。メリー」

 と蒼太はあくまでそれを制した、蒼太としてみればどうしても気掛かりだった事があった。

 それというのはメリアリアの見立てと同じで多分、あのルクレールと言う女性はメリアリアとほぼ同等の実力、戦い方をして来るであろう事は想像に難くなかったモノの、それ故に彼女達が戦った場合は凄絶な事になってしまう予感があった、恐らくはどちらも一歩も引かずに戦うだろうし、そうすれば次は意地の張り合いとなり、下手をすれば双方が相討ちになってしまう事態さえ、発生して来るであろう懸念があったのだ。

 それに。

 現に蒼太は“ガイア・マキナ”の世界線で嫌というほど思い知らされて来たのだが、実力の拮抗している戦士達の闘いと言うのは、時に綺麗事だけで済まされるような、見ていて気持ちの良いモノばかりでは決して無かった、それは例えば“真面(まとも)に戦っては勝てない”となった場合は相手の虚を突く、後ろに回る、等と言う事は当たり前、酷いモノになると相手の顔面(特に目を)目掛けて唾を吐く、土埃を投げ付ける等の視界を塞ぐ行為に出たり、または相手の髪の毛やマント、インバネス等を掴んで引き摺り倒し、体勢を崩させてから心臓や首目掛けて攻撃を繰り出す、と言ったような、サッカーで言う所の“ラフプレー”すれすれの危険行為をせめぎ合いの最中において平然とかまして来る輩もおり、それで敵味方双方共に思わぬ不覚を取られる場合もなきにしもあらずだったのだ。

 その事も一応、メリアリアには話して聞かせてはいたモノの、それでも彼女はそう言った闘いをまだ、経験した事は一度もないらしく、話を聞いてビックリしてしまっていたから、そう言うこともあってだから、先ずは蒼太がルクレールの相手をする事にしたのである。

「蒼太!?でも・・・」

「大丈夫だから・・・」

 と尚も心配そうな眼差しを向けてくる恋人に対して蒼太は落ち着いた表情で頷いて見せた、“僕を信じて?”とそう言って。

「僕だって何もしなかった訳じゃ無いよ?こっちの世界に帰って来てからだって修業は続けていたし、それに君との“模擬戦”を通して学ぶ事もあったしね」

「蒼太・・・。うん、それは良く解っているんだけど・・・」

「それにもう一つ、理由がある」

 蒼太はそう言うと、何があっても言いように身構えつつも、チラリとエヴァリナへと視線を向ける。

「あのエヴァリナと言う少女、あっちもかなりの実力者みたいだけれども・・・。正直言ってどう言う戦い方をしてくるのかが解らないんだ、一応“魔法タイプ”だって言う事は解るんだけれども・・・。どうもそれだけじゃあ無いと思う」

「・・・・・」

 そう言われてメリアリアも、周囲に気を配りながらも改めて、この黒髪黒眼の少女へと意識を向けるがなるほど確かに高度なまでに練り上がっている魔法力と同等な程の強い闘気を感じるのであり、彼女が単なる魔法使いでは決して無く、ハッキリと言ってしまえば“魔法戦士”のような立場にいることを伺わせるのに充分な気迫と波動であった。

「・・・確かに。じゃあコイツは、もしかして」

「ああ」

 頷きながらも蒼太が応えた、“レベッカと同種の存在である可能性が高い”と。

「つまり魔法剣士って事だよ。ただもちろん、それだけじゃ無いと思うんだ、“レウルーラの超新星”って言ったらそれはセイレーンで言う所の“女王位”に当たるからね?それに選ばれるだけの特徴と、何某かの能力を秘めている可能性が高いんだ」

 “それを”と蒼太は語った、“君に見届けて欲しいんだ”と。

「これは正直、僕ではダメだ、僕はパワーで圧倒するのは得意なんだけれども、その反面で細かい部分の力の作用や動き、働き、或いはその発動の前兆なんかを上手く捉えきれない事がある。・・・それらを君に見極めて欲しいんだよ」

 “それに”と蒼太は思うが実は彼にはもう一つのエヴァリナの相手をメリアリアに任せたい理由があったのであるモノの、それが“ルクレールとエヴァリナの闘気の流れや練り上がりの具合、即ち身体能力や攻撃的特性等を比較した場合、エヴァリナにならば、仮に突発的にラフプレーをされたとしてもメリーで充分に対応出来る筈だ”と感じていたのであり、それ故の彼女に対する請願であったのだ。

「ねっ?メリー、お願い・・・っ!!」

「ううーん・・・っ!!!」

「ねっ。お願い、メリー・・・ッ!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・解ったわ」

 暫しの沈黙の後にようやくにしてメリアリアが頷くモノの正直に言ってしまえばそれでもまだ、不安が完全に払拭されたわけでは無かった、勿論、蒼太の事を信じていない訳ではないが、それでもやはり、自分の方がルクレールに当たった方が安全ではないか、と言う思考がどうにも頭の中でカマ首を擡げ続けて来るモノの、しかし。

 一方でメリアリアは確かに、自分がまだ、蒼太の言う所の“ラフプレー”に慣れていない事もまた、良く解っていたのであり、それ故にもし、ルクレールがそれをやって来るような存在であった場合は不覚を取る恐れがあったのであって、そう言う事も手伝って自身の意見を強く主張する事が出来なかったのである。

「でも蒼太、本当に気を付けてね?正直に言ってアイツ、只者じゃ無いわ!!」

「うん、解ってるよ。君もね!!」

「解ってるわ!!」

(メリー・・・ッ!!)

(・・・・・?なぁに。蒼太)

(後で、抱かせてくれ!!)

(もうっ。こんな時に何を言ってるのよ、本当に!!)

 蒼太から小声でなされた愛の提案に、顔を赤らめながらも狼狽しつつ、そう応えるメリアリアだったが直後に“うん、いっぱい抱いて?”と告げると彼氏の唇に唇をチュッと重ね合わせる。

「・・・・・」

「・・・・・」

(羨ましいわ・・・!!)

(本当です、早く帰りたい・・・!!)

 その光景を見ていた二人は思わず、それぞれの恋人の事を思い返すが彼等とはここ二ヶ月の間に5回程、日数に直して10日間程しか会えておらずに寂しさが募るばかりである。

 向こう仕事がある身なので仕方が無いが、出来れば日本(ジャパン)に呼び寄せた上で二人でのんびりと、デートがてらに散策を楽しみたい所ではあるモノの、しかし。

「その為にはまず、どうしても・・・」

「ええ、任務を片付けてしまいませんとね・・・」

 とこちらも終わった後の恋人とのラブラブタイムを想像してすっかり燃え上がってしまっておりやる気は十分、双方共に油断はこれっぽっちも存在していなかった。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 四人は黙ってそれぞれの手に、自身の命を預ける武器を握り締めて装備する。

 蒼太は“ナレク・アレスフィア”を、メリアリアは“純潔の証たる茨の聖鞭”を、そしてー。

 ルクレールは左右一対となる2振りのレイピア“エクセリオンとアレクシオン”を、エヴァリナは彼女専用に開発された、格闘魔法戦士用の“ワンダーロッド”を両手で構えた。

 そのままー。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「シュ・・・ッ!!」

 お互いに黙ったまま対峙していると、先ずはエヴァリナが超ミニサイズの短剣を投擲して来るモノの、それを目にも止まらぬ素早さでもって鞭を操り、先端部分で叩き落としたメリアリアはそのまま、エヴァリナへと向けて肉薄して行く。

 一方のエヴァリナもまた、メリアリアへの距離を詰めて二人の闘いは接近戦闘のスタイルで開始、展開されて行くモノの、がその左舷前方ではー。

「・・・・・」

「くうぅぅ・・・っ!!」

 早くも蒼太とルクレールの鍔迫り合いが始まっていたモノの、もっとも激突した瞬間に既に、ルクレールはハッキリと悟っていた、今自分の目の前にいる男がどれほど強くて凄まじい存在なのか、と言うことを。

 その肉体、精神共にこれ以上無い程にまで練り上げられているのだ、と言う事を。

 現に自分と正面衝突したにも関わらずに蒼太の身体はビクともしないで巌(いわお)のようにそこに佇み、その力もまるで地の底から延々と湧き上がって来るかのように非常に硬くてしっかりとした、尽きる事の無いモノだったのであるモノの、最初の内はそんな彼の剛力を真面(まとも)に受けてしまっていたルクレールであったが程なくして“それは不味い!!”と悟ったのであろう、作戦を変更して来た。

 一旦、後ろに引いて適度に距離を取った後で、身体能力と手数にモノを言わせて間合いを制し、蒼太をジリジリ追い込んでやる、そう思っていたのだが。

「・・・・・」

「アゥゥ・・・ッ!!?」

 蒼太はそんなに甘い存在では決して無かった、彼女の戦い方等お見通しだとでも言わんばかりに力を込めてはルクレールを押し潰しに掛かるモノの、それに対して危機感を持ったルクレールはなんとか高速で横に跳躍しつつも隙を突き、蒼太の手の甲をレイピアの尖端で突き刺そうと試みる、ところが。

「・・・・・っ!!」

「ぐうぅぅ・・・っ!!?」

 蒼太の力と気迫とが、彼女にそれを許させなかった、圧倒的なまでの蒼太の勢いの前には流石のルクレールも打つ手が無くて、下手をすればこのまま終わってしまうかに見えた、その時だ。

 ガツ、ガツ、ガツ、ザッと、ルクレールが足下の地面を爪先で抉り、その土埃を蒼太の顔面目掛けて蹴り飛ばそうとして来たのである。

「・・・・・っ!!」

(やっぱりな・・・っ!!)

 これあることを予測していた蒼太は瞬時に力を込めて相手を撥ね除け、押し出してそれを回避するモノの、このルクレールと言う女性(ひと)は恐らく、蒼太の体勢をまず崩そうとしていたのであり下手に後ろに飛んで良ければそれこそ相手の思うツボになるであろう事を、蒼太はよくよく知り尽くしていたのだ。

 だから。

「ちいぃぃ・・・っ!!」

「ルクレールさんっ!!」

 刹那の間にまずはルクレールの方の体勢を崩させて蹌踉(よろ)けさせた上で回避運動を取ったのであり、その辺り、蒼太もまたただ単に強いのみならず非常に強(したた)かな戦い方を身に付けていたのである。

「蒼太・・・っ!!」

「こっちは、平気だよ・・・!!」

 急いで近付いて来る恋人に対して蒼太は落ち着いた表情のままでそう応えるモノの、一方で。

 エヴァリナに駆け寄られていたルクレールもまた、相方に向かって“大丈夫”と応えつつも、それでも信じられないモノを見るかのような眼差しを蒼太へと向けるが最初の激突から僅か二十秒も経たない程度の鍔迫り合いでルクレールは自分が蒼太のペースに飲み込まれてしまっていたことを悟ったのであり、同時に“決して真正面から戦ってはならない”と言う事もまた、正しく理解したのだった。

 そして。

 そんな彼女の思惑の変化を蒼太もまた気付いていた、と言う事はこれ以降、蒼太がどんなに真正面から挑もうとしてもルクレールは決してそれには応じないだろうし、それどころか今後はその柔らかな関節と高速機動能力とを活かした、メリアリアのような戦い方を仕掛けて来る可能性の方が圧倒的に高かったのだ。

「はぁ、はぁ・・・っ!!」

(全くもうっ、なんて奴なのっ!?腕が痺れて、まだ完全には回復しきれていない・・・っ!!)

 蒼太とメリアリアには勿論、味方(エヴァリナ)にさえも悟られないように両腕を解しつつ、尚も蒼太達へと向き直るモノの、一方の蒼太には彼女の状態はお見通しであり“追撃するのは今しかないな”と決意を改め再びの、攻撃体勢を展開するが、しかし。

 その前に一つ、気掛かりな事があった、エヴァリナの戦法である。

(どうだった?エヴァリナの戦い方って・・・!!)

(まだ、何とも言えないけれども・・・!!だけど蒼太の言った通りだわ、あの子、魔法力で身体能力を強化して・・・。同じように、魔法力を込めたワンドの尖端を、此方目掛けて振るって来るの!!)

(ラフプレーとかは、無かったの・・・?)

(今のところ、それは無いけれど・・・。でも油断は出来ないわ、蒼太はやられていたわよね?)

(ああ・・・)

 と蒼太は僅かな時間の中においてもそれでも、様々な事柄に付いての情報を、恋人との間に交換し合うが特に相手がラフプレーをして来る事が明白になった以上、“大丈夫だ”と解ってはいても、それでも正直に言って注意しておきたい事はいっぱいあったし、どれだけそれについて気を付けようとも気を付け過ぎると言う事は無い。

(充分に気を付けて。コイツら、意外と厄介だよ・・・!!)

(ええ、解っているわ!!)

 そう言うと二人は再びの、本格的な戦闘態勢を取ってルクレール達へと向き直り、ここに極東における、セイレーン対レウルーラの第2戦目が開始されていった。
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