メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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運命の舵輪編

赦しの時と報われの空

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 本来であれば、この“許しの刻と報われの空”並びに“テイク・オフ”とは一つの物語になるはずでした。

 それを二つに分けたのです(余りにも長くなりすぎましたので・・・)、なので二つで一つ、“前編”、“後編”と思って下されたのならば幸いです。

 またこれらのお話においては特に“メリアリアちゃん”に関する部分を最初から最後までキチンと見ていただきますと、自分が言いたかった事が何なのかが、解っていただけるかと思います。

 どうかよろしくお願い致します。

                 敬具。

           ハイパーキャノン。
ーーーーーーーーーーーーーー
「・・・・・」

「そっか・・・」

 一頻(ひとしき)り、話し終わるとメリアリアは思わず涙ぐんでしまい、蒼太に“ごめんなさい”と告げて来た、両手で顔を覆い尽くし、“ヒック。グスッ、グスッ!!”とグズりながらもそれでも、蒼太の着ているダウンジャケットを、涙で濡らさぬようにと一度、頭を離そうとするモノの、そんな彼女を。

 蒼太は強引に抱き寄せてはその美しいハニーブロンドで覆われている、形の良い頭頂部分を、何度となく優しく撫で返し続けた、そしてー。

「良いんだよ、メリー」

 蒼太は告げた、“君は何にも悪くないよ?だから安心していっぱいお泣き?”とそう言って。

「う、うっ。うっ!!うわあああぁぁぁぁぁんっっっ!!!!!!!」

 最愛の夫からもたらされたその言葉に、それまでずっと気に病み続けて来た様々な思いが一気に噴出し始めて来てメリアリアはいたたまれなくなり、堪らなくなってその場でワァワァと、大きな声で泣き始めた、まるで小さな子供みたいに泣いて泣いて、泣き濡れて、何度となく嗚咽と慟哭とを繰り返すがそれは妻(メリアリア)が溜め込み続けた心の膿だと、蒼太は思った、誰にも打ち明ける事も出来ずにずっと蓄積され続けて来た膿が、今この瞬間にしてようやく吐き出されて来たのだと感じた蒼太はだから、それを残らず全部吐き出させる事にした、だからー。

「メリー。良いんだよ、全部出すんだ、全部吐き出しちゃうんだよ、メリー!!」

「う、うぅぅぅうううっ!!ヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!!?うえぇぇっ。ゲホ、ゴホッ。う、うえぇぇぇっ!?うえぇぇぇっ。うえええぇぇぇぇぇーーーんっっっ!!!!!!!」

 そう言って彼女が泣いている間中、ずっと横から寄り添っては肩を抱き締め、自分に密着させていたのであり、時折、背中を擦ってはもう片方の手で頭を撫で返してやっていたのであるが、やがてー。

「うえぇぇぇっ!?うぇっ、ゴホッ。ヒック、グスウゥゥッ!!ヒック、ヒック・・・ッ!!」

 ようやくにして、メリアリアが泣き止むと同時に落ち着きを取り戻して来たのであるが、それを見た蒼太は改めて思った、“この子は自分なりに、本当に一生懸命に生きて来たんだ”と。

 “どんな小さな問題と言えども決して妥協すること無く、真正面から取り組んで来たんだ”と、“生き抜いて来たんだ”とー。

 だからー。

「一生懸命に、生きて来たんだね。メリー・・・」

「・・・・・・・っっっ!!!!!!!」

「いっぱい、いっぱい、我慢して来たんだね、メリー・・・!!」

「うっ。うぐうううぅぅぅぅ・・・・・っっっ!!!!!!!」

「良いんだよ、お泣き?君は本当に頑張ったんだから・・・!!!」

「う、うわあぁぁぁっ!?うわあああぁぁぁぁぁんっっっ!!!!!!!!」

 そう言って精一杯、優しい言葉を掛けるモノの、そんな夫からの心の籠もった暖かさに包まれたメリアリアはまた、その場で再び泣き始めてしまっていた、もはや彼女の着ているトレンチコートやトップスの裾も襟口も、涙でグチョグチョになっており、それは蒼太のダウンジャケットも同じ事になってしまっていたのだが、そんな事は蒼太にとっては別段、どうでも良い事だった、それよりなにより心配だったのは妻(メリアリア)の事である。

 彼女はきっと物凄いまでの鬱屈を溜め込み続けて来たのであり、それに加えて更に言ってしまうのならば、自分自身を傷付け続けて来たのであろう、それも昨日今日に始まった事では無い、数年分だ。

 しかしー。

「良いんだよ?メリー。いっぱいお泣き。メリーは何にも悪くないよ、だってこんなにも一生懸命に頑張って来たんだもの。必死になって生き抜いて来たんだもの!!」

 “辛かったね”、“苦しかったね”と、蒼太は尚も彼女を抱き寄せながら言葉を掛けるが、するとそれに呼応したかのようにメリアリアからは更に大粒の涙と共に嗚咽と慟哭とが漏れ始めて来るモノの、それが一頻り続いた後でー。

 メリアリアが再びしゃくり始めて今度こそ本当に平静さを取り戻し始めて行った、心なしかその顔は今までのそれよりも明るくてスッキリとしたモノになっており、毒素を出し切れたのが伺える。

 それだけではない、メリアリアは確実に“癒されていた”のであり、“自分が蒼太に酷いことをしてしまった”と言う負の感情も、蒼太がしっかりと拭い去ってくれたのである、“君は何も悪いことなどしていないよ”とそう言ってー。

 だからそれを聞いた時にー。

 メリアリアはようやく心底ホッとすると同時に自分が本当に、救われたような気がして思わず顔を上げるが、そこには暖かな笑みを浮かべて自分を見つめる最愛の夫の顔があって、自身を穏やかな光を湛えた瞳で優しく見つめ続けてくれていた。

「ヒック、グスウゥゥッ!!ヒック、グスッ。ヒック・・・ッ!!!ハアアァァァッ。ハアァァ、ハアァァ・・・ッ!!!」

「・・・・・」

 “落ち着いた?”と蒼太が尋ねるとメリアリアは“うん・・・”と少し恥じらいながらも、それでもハッキリとした口調で頷いた、その顔は前にも増して美しい気品に満ち溢れており、調和の気配すら漂わせている。

 その愛らしい表情と凜として輝かしい気迫とは普段、見慣れている筈の蒼太をしてさえも“ドキッ”とさせるモノがあって、改めて“自分の妻はこんなにも麗しい女性(ひと)だったのか!?”と感動させた。

「ハアァァッ、ハアァァ・・・ッ!!ふうぅぅ・・・っ!!グスッ、ヒック。う、うん。もう大丈夫・・・っ!!!」

「・・・良かった!!」

 そう言われて、蒼太は心底そう思うがこれでようやく、長年彼女を苦しめ続けて来た“自責の念”はほぼほぼ完全に消滅し尽くした訳であり、そしてこの時を以てようやく彼女は、子供の時と同じような“素直で優しい純朴さ”とでも言うべきモノを取り戻す事が出来たのであった。

「もう・・・!!だけどメリーも気にし過ぎだよ、僕、全然気になんかしていなかったんだよ!?あれは単なる事故だったんだから、誰が悪いわけでも無かったんだから!!」

「う、うん。ごめんなさい・・・!!」

 申し訳なさそうにそう応えると、まだ少しグズりながらもそれでもメリアリアは“えへへ”とようやくにして笑ってくれた、かつてのような眩しい位の満面の笑みを浮かべてー。

「嬉しいの、あなた。嬉しいの・・・!!」

「・・・ん」

 安心して自身に身も心をも委ねて来てくれる妻に対して蒼太は“僕も”と応じると、自らもまた、彼女の頭に顔を寄せるようにする。

「でもごめんなさい、あなた。わたし本当に、本当に・・・!!」

「あはは、大丈夫だよ。メリー!!」

 蒼太は尚も続けて言った、“君は何も気にしなくて良いんだから”とそう告げて。

「君はこれまで、いっぱい悩んで来たんだろ?いっぱいっぱい自分を傷付けて、責め立てて来たんだろ?もう止めるんだよメリー。なんだったらハッキリと言ってあげるけれども、許すか許さないかで言ったら僕は君を許しているよ、とっくにね。だからずっと一緒に居たんじゃないか。だからね?メリー。どうかどうか、今までも、これからも。ずっとずっと側にいておくれよ、僕の事を思っていて欲しいんだ!!!」

「・・・私、ここにいていいの?あなたの事を、愛し続けて良いのかしら?」

「当たり前じゃないか!!!」

 ようやくにして少しずつ、自らの本心をさらけ出し始めて来た妻の言葉に蒼太は大きく頷いて応えた。

「君は、ここにいて良いんだよ、メリー。ずっとずっと側に居て、僕を愛し続けておくれ・・・」

「あなた・・・っ!!!」

 夫から向けられ続ける、自身への確かな愛情と思いやりとに“嬉しい!!”とメリアリアはまたホッとしたような微笑みを浮かべて応えると、続けて本心から言い放った、“愛してるわ、あなた!!”と。

 それを聞いた蒼太はー。

「・・・チュッ!!」

 と愛妻の唇に唇を重ねるモノの、本当はちゃんと抱き合って、もっと濃厚なモノをしたかったのであるが、今はこれが精一杯である、我慢するしか他にしようが無い。

「・・・あなた!!」

 “ありがとう!!”と告げてメリアリアもまた“チュッ”と言ったキスを返すがすると直後にー。

 彼女はウットリとした顔で頭を肩へと預けて来るモノの、本当は彼女だって、しっかりと抱き締めてもらった上でのもっと激しい接吻の、それも心行くまでの応酬がしたかったのであるが何分、ここは車内な上にノエルやドライバー(♀)さんもいる、人前では気が散ってしまい、これ以上自分自身を解放しての逢瀬を堪能する事ができなかった、集中できないのだ。

 しかも。

 バックミラー越しに見ると、みるとドライバーさんは明らかに面倒臭そうな顔をしていた、一応、同じ女同士であった事も手伝って、何事かあったのだろうと察して敢えて黙っていてくれるであろう可能性も捨て切れなかったがしかし、それでもやはり“厄介な客を拾ってしまった”等と思われてしまっているのかも知れず、また人前であれだけ咽び泣いてしまった事に対する恥じらいも手伝って、それまでとは違う気まずさも出て来た。

(うぐぐ・・・。で、でも別に良いもん!!悪い事なんかしてないし。それにこの人蒼太だって“よくやった”って褒めてくれたし・・・!!)

 とそう思って自分自身を励ますと同時にチラリと旦那の顔を見ると、彼はそんなドライバーの視線やノエルの存在等はどこ吹く風とでも言うかのように、彼女(メリアリア)をしっかりと抱き寄せたままで正面を向いたまま平然と座り続けており、それに安心すると同時に気を良くしてしまったメリアリアもまた、それに倣って横からラブラブし続ける。

 ただしー。

 それでもちょっとだけ、ちょっとだけ、湧き上がって来る照れ臭さと恥ずかしさとで顔が赤くなってくるのはなぜ?等と自問自答をしているとー。

「ねえソーくん、メリアリアちゃん?」

 ノエルがいつもの調子で口を開いた、例によって緊張感など全く無く、さっきまでメリアリアが隣で泣いていた事など気にもしていない様子である(お陰でメリアリアは助かったが・・・)。

「ちょっと聞きたい事があるんだけど・・・」

「なんですか?ノエルさん。断っておきますけれども変な事なら怒りますよ?」

「あっ、じゃあいいや!!」

 と、蒼太から放たれたその言葉にノエルは掌を返したように口を噤(つぐ)んでしまうモノの、それを見た蒼太は“いいんかいっ!?”と心の中で突っ込みを入れ、メリアリアもメリアリアで、せっかくのしっとりとした空気に水を差されて少しムスッとしてしまうが、そこへー。

「ああーっ!?でも一応、聞いておきたいな。ねえソーくん、メリアリアちゃん!!」

「結局、聞くんじゃないですか!!」

「もうっ、なんなの?ノエル!!変な事だったら、本当に怒るからねっ!?」

「ふーんだ、変な事じゃないもーんだ。大切な事だもーんだ(`Д´)(`Д´)(`Д´)」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “なんですか?”とそれを聞いて自身もプンスカ怒り出したノエルに対して“ハアァァ・・・ッ!!”と呆れたように溜息を着くと、蒼太とメリアリアは互いの顔を見合わせた後で仕方なしに尋ねてみる。

「答えられるモノでしたなら、お答えしますけど・・・」

「本当に変なモノじゃ、ないでしょうね?」

「ふーんだ、変じゃないもーんだ。真面目なモノだもーんだ(`Д´)(`Д´)(`Д´)」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “どうだか?”と思いながら聞いた二人をノエルは唖然とさせてしまうモノの、いわく“アウロラちゃん?だったっけ。その子の知り合いに7歳から15歳くらいまでの、日本人かガリア人の女の子がいたのなら・・・!!”等と曰(のたま)ってきたのである。

「もしいたのなら、是非私に紹介して・・・」

「おみゃーはよぉっ、頭ン中それしかねぇんべかーっ!!?」

「呆れてモノが言えないわ!!?」

 と蒼太とメリアリアは二人揃って突っ込みを入れると同時に“やっぱり聞かなきゃ良かった”と後悔した、こんな事ならずっと黙らせておくべきだったのであり、間違っても口を開かせてはいけなかったのである。

(向こうに着いたら・・・。アウロラにもよく言っておかなきゃな、“絶対に相手にするな”って・・・っ!!!)

(“うっかり何か話を聞いたりしたら、絶対にダメだからね”って事を、ちゃんと教えてあげないと!!)

 二人が“憤懣遣る方ない”と言った表情で座っているとー。

 何やらノエルが笑い出した、“ふっふっふっふっ”と怪しげな声まで出して。

「・・・なにさ?」

「ソーくん。あなたそれで良いと思っているの?」

「・・・・・?」

「はあぁぁっ?」

 そんなノエルの反応に、蒼太もメリアリアも怪訝そうな顔を浮かべるモノの、そんな二人にノエルは言った“私という聖書(バイブル)をそんなぞんざいに扱ってしまって良いのかしら?”と。

「・・・・・?」

「“魔導書(グリモワール)”では無くて?」

 一度顔を見合わせた二人はそのままノエルへと向き直ると、“何言ってんだ、こいつ?”と言った表情を浮かべるモノの、そんな彼等に対してこの年上ハーフのゆるふわ美女はあくまで余裕の面持ちを保った上で腕組みしつつも“フフンッ”と鼻を盛大に鳴らした。

「私はね?世に“おねロリ”の素晴らしさを教えなければならないのよ?それにあの娘達だってせっかく女に生まれて来てるって言うのに、好きな人は作らないし、その心と身体とを散々なまでに持て余しているんだからっ。私という“先導者”の善意を受け取らない理由は無いわっ!!!」

「人がいつ、誰を好きになるのかはその人の意識、波動のレベルや意思の向いている方向性で決まります。そう言うのも含めて“運命”と言うヤツです、そこに貴女のつけ込む隙等、全く無いと思いますが・・・」

「ふふん。甘いわね、ソーくん・・・」

 ノエルはニタニタ笑いながら、尚も続ける。

「女の子同士のセックスは、底無し沼と一緒なの。私と一発でもやった女の子はみんな“おねロリマンマンセックス”の虜になるのよっ!!?」

「言い方っ!!」

 蒼太が叫んだ。

「言い方っ。そう言うとこです、ノエルさんっ!!」

「えっ?なになに、どう言う所?」

「人前で下品な言葉を、躊躇わずに言ってしまえる所が“おかしい”って言ってるんです!!」

 叫ぶ蒼太の傍らではそんな彼に無言でしがみついたまま、“どうしようもないモノ”をるような目つきを此方へと向けて来るメリアリアの姿があったが彼等がノエルについて問題視していたのは別に、女性同士でセックスをしている事を指していたのでもなんでも無かった、彼等自身には決して理解は出来なかったけれどもそれだって、もう世間一般的に見た場合は十二分に“大人”と言うべき年齢に差し掛かっている二人である、世の中にはそう言った、“真性同性愛者”の他にも“疑似同性愛的趣味嗜好”を持っている人々がいるのも知っていたし、それについてとやかく言う気は全くなかったのであるモノの、しかし。

 そんな中において、彼等が疑問を呈していたのは人前でも平気で“やりてぇやりてぇ”等と抜かす、彼女の行き過ぎた“異常性欲の発動”そのものであって、それがして蒼太とメリアリアの夫婦をドン引きさせる要因となっていたのである。

「解っていただけましたか?ノエルさん」

「私達は別に、貴女の趣味嗜好に付いてはとやかく言う気は無いわ。ただね、ノエル。貴女にはそう言った所を直して欲しいのっ!!」

「えっ!?じゃあまさか。二人は私が異常だって言いたいの・・・?」

「いや、異常って言いますか・・・。ただまあ“ぶっ飛んではいるな”と・・・」

「あんまり、一般的な人々の感覚からは、外れているんじゃ無いかしら・・・」

「“常識”って言うヤツね?」

 ノエルが尚も食い下がる。

「ねえソーくん。一応、聞いておきたいんだけど・・・。“常識”ってなんなの?皆良く言うわよね?“常識的におかしい”だとか“普通はやらないよね”って言う言葉を。じゃあその“常識”とか“普通”って一体、何なのよ・・・」

「えっ?それは・・・」

「大多数の人が共有している“普遍的通念”それが“普通”です、“常識”と言うのと同義語です」

 蒼太が語るが基本的に人間というモノは、何度となく繰り返される“輪廻転生”の輪の中において様々な体験を通して学びを得てくるモノなのであるが、それは甘い愛の記憶であり、或いは辛い心の疵となって、魂の中に蓄積されてゆく。

 そしてそう言った体験を繰り返して行く内に霊魂の中ではそれに付いての“認識”が深まって行くのであるがこの時、大多数の人にはある共通する感性、意識が生まれて来るモノの、それが“常識”であり“普通”と言われる概念の正体なのであって、それは例えば“こんな事をしたら、皆に喜んでもらえて嬉しい(だからもっとしてあげたいと思う)”だとか“こう言うことをしたら、こんな事になってしまった、何という事をしてしまったのだろう(だからこんな事はしてはいけないんだ)”と言った、“崇高なる喜びの思念”であり“自責と悲しみの集合体”とでも言うべきモノなのだ。

「“輪廻転生”が信じられない、と言うのであれば、例えば、そこの部分を“ご先祖様から連綿と受け継がれて来たDNAに備わっている記憶”とでも置き換えてみてもいいのかも知れないけれども。要はするにそう言うモノです、“人々が一生懸命に生き抜いて来た中において体験してきた様々な物事の喜び、悲しみ。それらが元になっている判断基準”とでも言えば良いでしょうかね、それが“普通”であり、“常識”と呼ばれているモノの正体です」

「それは解ったけれども・・・。ではなんで“大多数の人々が共有する価値観”等と言うのが生まれて来たのかしら?だって人間て千差万別でしょ、個人個人で全く以て違うじゃないの」

「人間というモノは須(すべから)く、根っこの部分が同じなんです」

 蒼太が続けるモノの、基本的には誰もが皆、“人間は人間として”、“宇宙”によって生み出されておりその為、表面的には全く違うがその大元の部分は大抵において一致している。

 これは同一の存在によって同じように創造が為されているのであるから、当たり前と言えば当たり前なのであるがそれ故、人というのは物事を極めれば極める程、そして進化を続けて行けば行く程に、誰もが皆、同じ答え、同じ気持ちに辿り着くようになっているのであって、だからこそ別に、大多数の人々が基本的な部分で同じ価値観、心情を抱いたとしても、何ら不思議は事は無い、との事であった。

「・・・・・」

「うーん・・・」

「それにもう一つだけ、言わせていただきますと人間というモノは皆、基本的には須(すべから)く善なのです。中には確かにどうしようもないような人達も、いることはいますけれどね・・・。それでもやはり、大多数の人々は非道な行いを見た時に“これは非道である”と認識できますよね?また何か過ちを犯してしまった場合は“こんな事をしてはいけないんだ”と反省する事が出来ますよね?何故かと言ったらそれは“人が善だから”です。もしこれが“悪”であれば何か悪い事をしたとしても“してやった”、或いは“やられた”としか思わないでしょう?罪悪感等を感じる事も無いはずです」

「・・・・・」

「確かに。人は非道だったり悪事を働いたりする際には必ず何かを言い訳にするわね・・・」

 “そうですね”とノエルが告げた言葉に蒼太が頷いた。

「例えば“より多くの命を救うための尊い犠牲だ”とか、“神が言われたからやる”と言う風に、必ず何かを言い訳に持って行きますよね?そしてそれは必ずしも、自分自身を安心させる為だけでは無くて、そうしなければ世情の支持を得られないからでもありますが。いずれにしても、そんな所にだって、“人の良心”と言うのは関わって来ています、だって人に良心が無いのであれば、誰もそんな事を、つまりは世間に対する自己正当化等を考えなくても良いでしょうし。そもそも論として良心と言う言葉、概念さえも生まれては来なかったでしょうから・・・」

 それに、と蒼太は続ける、“進化する”と言う事が出来ること自体が、人間が善である証である、と。

「人間て言うのはね?生まれて来た時は誰しもがピュアで真っさらなモノなんですよ、そしてそれ故に、最初は誰もが“痛み”と言うモノを知らない。要するに“無邪気な状態”なんですよね。だから当然、そのままで行けばぶつからなくてもいい場面で誰かとぶつかったり、怪我をしなくてもいい場面で怪我をする、と言う事象が何度となく生み出されてくる訳なんだけれども。何故かと言えばそれは“人と言うのは自分がそれを経験しなければ解らない生き物だから”なんですよ、“味わわなければ解らない生き物だから”なんですよ」

 “だからこそ”と蒼太は続けた、“人の魂と言うモノは色んな事を経験するために輪廻転生を繰り返すのだ”と。

「そしてその人その人の人生において、何か障害が発生する度に、自らの中に眠る“霊性の輝き”ー。即ちそれまで自身の魂が培って来た経験、能力、感性と言ったモノを最大限に発揮させてはその時々の試練や問題等を乗り越えて行く訳なんですけれども。それが出来るのは、人が善だからに他ならない」

 蒼太は言う、“人の人生における障害と言うモノは大抵、その人の命や立場、もっと言ってしまえば人生そのものが脅かされたり、掛かっていたり、または大切な人が窮地においやられてしまっている、等と言う場合である事が殆どである”、と。

 そしてー。

「人はそう言った存在、物事、事象を必死になって守ろうとします。時には己の命に代えてですらもね。では何故それ程までに、それらを守り抜こうとするのか、と言えばそれは、それらの持っている有り難さ、貴重さと言うモノを、よくよく思い知っているからに他なりません。如何に自分自身にとって掛け替えの無いモノであるのか、と言う事を心底感じて理解しているからなのです」

「・・・・・」

「・・・・・」

「そしてそれは人間が、“愛”を知っているからに他なりません。何故ならば人間もまた、“愛”によって生み出されて来た存在であるからです。だから伴侶と愛し合う事の喜び、温もり、楽しさと言うモノを、“運命の人と結ばれる事の有り難さ”と言うモノを人は誰しもが感じて理解しています。それだけじゃありません、なんだかんだ言っても誰も彼もが結局は“人生捨てたもんじゃない”と思っているでしょう?それは何故かと言えば皆が“生きることの楽しさ、素晴らしさ”と言う事を知っているからです。誰もが皆、それを感じている筈です。そしてそれは偏(ひとえ)に、“自分の人生を、命を尊んで愛しているから”に他なりません」

「・・・・・」

「確かにね」

 と、それを受けてノエルが言った。

「正直に言って人生、辛いこともあったけれど、嘆いた事もあったけれども。・・・でも過ぎ去ってみれば懐かしいわ、“あんな事もあったな”って思えるし・・・。ただ」

 “今でも時々、心苦しくなる事もあるけどね”と、そう告げて、しんみりと寂しそうな表情を見せるがそれを受けて蒼太が言った。

「“苦い思い出”程度であるならまだ良いですけれど・・・。それで今も尚、あなたが苦しみ続けているようならばそれはもう、歴(れっき)とした“心の疵”です。・・・もしそうなのであれば、治療を受けられた方が良いと思います」

「有り難う、ソーくん・・・。それで?」

 フッと些か自嘲気味な笑みを浮かべた後でノエルは続けた、“人間はどうして須(すべから)く善なのかしら”とそう言って。

「ごめんなさい、あなたの言いたいことって言うのは何となく解るの、そしてそれが間違いではないと言う事までもね。でも私達ではそれをまだ、言葉に直す事が出来ないのよ」

「・・・人は誰しもが、自分自身の人生の有り難み、命の大切さを知っているし、だからこそそれらを守ろうとするんです。“大切な人”に付いても同様です、多くの場合、それらは伴侶、恋人の事を指しますけれども、いずれにしても“愛”と言う掛け替えの無いモノを、自分に向けて抱いてくれている人と言うのは中々に居ないモノなのです。まさに“有り難い”モノなんですよね、そしてだからこそ」

 “さっきも言いましたけれども”と蒼太は続けた、“人はそれらを守ろうとするのです”と。

「そしてそれに成功した場合は勿論、仮に失敗してしまったとしても必ず、自己を省みる、即ち“反省する”と言う事をしますよね?“あの時ああしておけば良かった”ですとか“もっとこうしておけば良かった”だとか。それは何故かと言ったら愛を守る事の大切さを知っているからです。それが絶対に踏み躙られてはならないモノである事を、皆が感じて理解しているからなのですよ。だから次に活かそうとするし、もしくは今後に繋げようとする。・・・“愛を無駄にしない”と言う事の為にもね」

 蒼太は言う、“人間が愛についてここまで必死になれるのは、誰も彼もが愛の大切さ、尊さと言うのを良く知っているからだ”と。

 そしてー。

「それを“大切だ”と思える事こそが、感性こそが人間が善の善たる最大の理由ですよ。何故ならばそれが出来ている人と言うモノは即ち、キチンとした形で“愛に則った進化”と言うモノが出来ている証拠だからです」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「どう言う事かと申しますと“自分の人生が貴重である”と言う感覚を得た人。・・・もっと言ってしまえば“それを学んだ人”と言うのはそれ故に、それまでよりも一層、一生懸命に与えられた人生を生きようとするモノです。これは別に難しい話ではありません、基本的には、人生と言うモノは頑張れば頑張った分だけドンドン良くなって行くモノですし、それにせっかく生かして下さっておられる神々や宇宙にも、申し訳が立ちませんしね。そう言う訳でますます身を入れて“その人なりの人生”と言ったモノを生きるようになる訳なのですが。その過程において必ず、“他人の人生や存在”と言ったモノを意識するようになります。どうしても他人との運命や関わり合いと言ったモノを感じずにはいられなくなるからです」

 “そうすると”と蒼太は続けた、“自分が一生懸命に生きている人と言うものは、他人も実はそうなのだと、理解する事が出来るようになるのだ”と。

「一見、単純快活そうに見えてもその実、その人なりに色々な事に苦しみ、もがき、葛藤しているんだ、と言う事が理解出来るようになるのです。するとどうなるのか、と言いますと、他人やその人の人生に対する“思いやり”が生まれてくるのです。段々と他人に対しての優しさ、暖かさと言うモノを持てるようになるのです。自分の人生の有り難みが解るからこそ、他人の人生も大事にする事が出来るようになる訳なのですが、だからこそそこまで至った人と言うのは基本、無闇矢鱈(むやみやたら)と他人の人生を破滅させたり、不用意に引っ掻き回したり、と言った事をしません。それがどれだけ悲しくて申し訳なくて、とんでもない事なのか、と言う事をよくよく思い知っているからなのです」

「解るわ」

 と今度はメリアリアが告げた、“あなたは、正しい”とそう言って。

「あなたの言っている事が、真実だと解る。あなたは、間違ってはいないわ・・・」

「・・・ありがとう」

 “続けて”と、自身が掛けた言葉に対して感謝の意を現した夫に対して妻が先を促した。

「うん、じゃあ言うけれど・・・。愛に則った進化が出来ている人、と言うのはつまり、どんどん自分を強化出来ると同時に優しくもなれる、と言う事なのです。“人に憂い”と書いて“優しさ”と読むでしょう?あれはそう言うの事なのです、人の憂いを自分事として捉える事が、出来るようになって行くのですね・・・。ちなみに」

 “進化”自体は誰でも出来ます、と蒼太は言った、“人は皆、愛によって生み出されていますから”とそう告げて。

「例えばまだ無邪気だった子供時代に誰かを苛めていた人がいたとしましょう。ところが時が経って大人になった時に振り返ってみると、“自分はなんであの時に、あんな事をしてしまったんだろう”と思う時ってありますよね?それは何故かと言ったらその何年か、もしくは何十年間かの間にその人を取り巻く環境が変化すると同時に様々な体験、経験を通じて人格が形成され、成熟して行ったからです。それに加えて当時飲まれてしまっていた、相手に対する熱気、妄執、想念から目が覚めて冷静さを取り戻し、自分のやったことが第三者的に見えるようになったから、と言うのもあるでしょうけれども。それだってやはり、人間が善であり、進化する事が出来るからこそ起きて来る現象なんですよ?」

「・・・・・」

「それなら、解るな」

 そこまで聞き及んだ瞬間、ノエルは初めて納得するモノの、彼女は蒼太の言葉から人間は誰しもがいつか必ず“このままではいけない”と気付いて進化して行くモノであり、そして進化すれば進化した分だけ、どんどん強く優しくなって行ける生き物である事、そしてその結果どんどん人格や能力に磨きが掛かってやがては“神”と呼ばれる存在にすら近付いて行ける事等を理解したのであり、即ちそれこそが人間の持つ性善性の由来であると同時に、人間の善の善たる所以である、と感じ取ったのであった。

 確かに人間が“悪”ならばこれと真逆な事が起きている筈であり、例えば誰を殴ったり、殴られたとしてもその痛みも悲しみも考えず、何とも思わないままいつまでもいつまでも暴力の只中で過ごす、と言う事案、現象が彼方此方で発生している筈ではあるが、しかし目下の所、そう言った現実は“ごく一部の地域”でしか起きてはおらずにその他大勢の人々は(環境が平和で衣食住が足りている場合等は特にそうであるが)わざわざ人を傷付けたり、軽々しく人のモノを奪ったり、と言う事はまずしないし、考えることすらせずに時折、軽口を叩きあったり、巫山戯(ふざけ)合ったりしながらもそれでも、その日その日をその人なりに懸命に生き抜いているモノなのである、確かにその思考、姿や行動等は“善”のそれであり、“光そのものである”と判断されて然るべきモノであった。

「例えばもし。これが悪だったならばどうだったでしょう。もしそうであれば人間は、愛し合う事の大切さも知らず、素晴らしさも知らずにただただただただその日暮らしを繰り返しては、悪戯に死んでいくだけの毎日を送ることになるでしょう。・・・例えそれがどんなに恵まれた環境であったとしてもね。自分自身の貴重さも、人生の有り難さも何も感じず、理解しようとさえせずに、“命はウジ虫のように勝手に湧いて来るモノ”、“自分が死んでも変わりはいる”、“ゴミが一人死ぬだけだ”。そんな事を思いながら生きて、死んで行くだけでしょう・・・。時折僅かに感じるだけの“刹那の快楽”を友としてね、そしてそんなだから」

 と蒼太は続けた、“他人の存在、人生についての有り難みや大切さも解ろうとはしないでしょう”と。

「・・・・・」

「そっか・・・」

 “やっぱり愛って大切なのね”とノエルがしみじみ呟くモノの、その顔には思案の色が浮かび上がっており、何事かを考えている最中である事が伺えた。

 やがてー。

「ソーくんっ!!」

「わっ、ビックリした!!」

「なんですか?急に・・・」

 突然、声を掛けてくるノエルに対してメリアリアと蒼太がそれぞれに反応するモノの、今の話を聞いた事で少しは自分の人生、生き方を考え直してくれたのであろうか。

(もしそうであったのならば、喜ばしい事なんだけれども・・・!!)

(ううーん、どうかしらね?ノエルだからなぁ・・・っ!!)

「私、決めたわっ。本日ここに“お姉さんとロリッ娘による激烈擦り付け大作戦”を発令する!!」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「ふっふっふっ。解るかな?いや解るまい。この私の崇高なる思念が形となって歩き出し、遂には世の中へと羽ばたく時が来たのを!!」

「・・・・・」

「何を、する気なんですか・・・?」

 もうげんなりとしてしまい、何も言うことが出来なくなってしまっていた嫁の分まで蒼太はノエルに向き合うモノの、そんな彼の努力は最も最悪な形で裏切られる事となった。

「うん、あのね?お姉ちゃんが“正しい性教育”と称して、まだ何も知らないロリッ娘達にあーんな事やこーんな事を・・・!!」

「おいっ!!」

 蒼太が堪らず突っ込んだ。

「何が“と称してあーんな事やこーんな事を・・・”だ!!」

「全然、解ってないじゃない!!」

 夫に対するせめてもの援護射撃をしようとメリアリアも何とか気力を搾って追撃に参加するモノの、もはやコイツには何を言っても無駄であり、些か頭痛を覚えて来るレベルである。

「あん(^0^;)もう怒らないで?ソーくん、メリアリアちゃん。私にも私なりの、考えがあっての事なんだから!!」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「ふっふっふっ。知りたーい?ソーくん、知りたくてしょうが無いんだ~(∩´∀`∩)(∩´∀`∩)(∩´∀`∩)」

「いや、別に。割かしどうでも良いけど・・・」

「ええっ!?うそっ。ちょっとやだ、何でぇ~っ!!!」

 “何ですか?考えって・・・”と、互いに顔を見合わせあった後に聞き返して来た蒼太達夫妻に対してノエルは得意気にふんぞり返ったままでそう答えるモノの、それに対して今度は蒼太が若干、引き気味と言うか、面倒臭そうにそう言い放つと突然、ノエルがテンパり始めた。

「聞きなさーいっ(`Д´)(`Д´)(`Д´)ってか聞いてよ、ねぇねぇ、ねえぇぇぇっ!!!」

「はあぁぁ・・・っ!!」

「・・・・・」

 喚き散らす年上ハーフな美女の友人に、蒼太は思わず溜息を一つ、吐き出してから愛妻(メリアリア)と再び目配せし合うと力無く項垂れつつもある種の覚悟を決めてから“何ですか?”と尋ねてみた。

 すると。

「私はねぇ~、ソーくん・・・」

「はい・・・」

「迷える子羊達を、救済してあげるの~(*´▽`*)(*´▽`*)(*´▽`*)」

「・・・・・」

「・・・・・?」

 “ど、どう言う事・・・?”と蒼太とメリアリアがまた、怪訝そうな表情を浮かべたままでノエルに向かって聞き返すモノの、その結果二人は、“やっぱり聞くんじゃ無かった”と後悔する事になった。

「私はねぇ~、まだ人を好きになった事のない女の子達に、“人と愛し合う事の喜び”って言うのを教えてあげたいんだ~(o´∀`)b(o´∀`)b(o´∀`)b主に“おねロリ貝合わせ限定(リミテッド)”だけどね?」

「結局やる事それじゃんかよっ!?」

「貴女には他に、夢とか成し遂げたい事とか何も無いわけ!?」

 蒼太とメリアリアがいっそ呆れた様にそう叫ぶモノの、しかもわざわざ“限定”の所を“リミテッド”等と曰(のたま)っているのがまた度し難いのであった。

「大体なんだ、“リミテッド”って。それあれだろ、“初恋リミテッド”だろ?河下水希先生じゃねーか、懐かしいな、おい!!」

「ふっふっふっ。ソーくんたら、河下水希先生って言ったら実は、ボーイズラブ業界の重鎮なのよ?知らないの?」

「・・・いや、僕そう言うのに興味無いんで」

「えっ!?ソーくん、君素質あるよ!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「はあぁ~っ。メリー・・・」

「ええっ!?は、はいっ!!」

 その言葉を聞いて信じられないようなモノをみる眼差しと面持ちとをノエルに向けていた蒼太は暫しの沈黙の後で溜息を付くと、突然、それまで傍らで黙って話を聞いていたメリアリアに、真面目な表情で語り掛けて来た。

「なぁに?どうしたの、あなた・・・」

「あのさ・・・。正直に言って本当に、突然こんな事を聞くのってどうかと思うんだけれども。僕のウンチって食べれる?」

「ええ・・・っ!?」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・真剣に、聞いているんだよね?」

「うん・・・」

「・・・いいわ!!」

 メリアリアが心の底から頷いてみせるモノの、夫から為された突拍子も無い提言に、流石に最初は逡巡していた彼女だったがそれでもやがて、蒼太が本気で尋ねている事を確認すると、自らも決意を固めると同時にハッキリとそう応えて頷いてみせた、“望まれるのなら食べてあげる”とそう言って。

「・・・ありがとう」

 そんな愛妻からの真摯な気持ちに堪らなくなって彼女に“チュ・・・ッ!!”と軽い口付けをすると、蒼太は些か申し訳なさそうな顔を見せるがその直後に。

「で、ノエルさん」

「いや、無理でしょ!?」

「出来ないんですか?」

「当たり前じゃん!!」

 今度はノエルに向き直って同じ質問をして見たところ、ノエルはあっさりとそれを拒否した。

「そりゃ好きな人のウンチだったら、どうしてもの理由があったりするのならばまだ食せるよ?だけどなんで私が好きでもなんでも無い人の排泄物なんか、口に入れなきゃいけないの!?って言うかそれ、セクハラだからね?ソーくん。なんだったらモラハラも入ってるだろうし・・・!!」

「嫌なんですか?」

「当たり前じゃん、ってかそう言ってんじゃん!!!」

「素質ありますよ、ノエルさん」

「・・・あ?」

「素質があります」

「・・・何ですって?」

「そ・し・つ・が・あ・る・って言ってるんです!!」

 “そう言うことじゃないですか、突き詰めて行けば!!”と蒼太が言うモノの基本的に人が興味が無かったり嫌だったりするモノ、と言うのは大抵の場合、行き着く先に未来が無いのか、危険極まりないモノなのか、はたまたその人にとっては全く必要が無いモノである場合と言うのが圧倒的に多い。

 否、殆どの場合が当てはまると言っていいが別段、蒼太は他人様の趣味嗜好についてあれこれ言うつもりは全く無いが、それでも、嫌がる人にまで無理矢理それを押し付けようとするのは些かおかしいのではないのかと、前々から疑問に思っていたのであった。

「最初にそれを言った人も多分、冗談半分だったのでしょうから、それに対してマジレス的な回答をするのもどうかと思いますけどね。・・・それでもしつこく、そう言う事を勧めて来る人には僕は、“じゃあ僕の排泄物が食べられるのか”って聞いてみたい。人に嫌がる事を勧めるんだから、自分もそれをやってもらわないとね、不公平じゃないですか。何だったら裸一貫でマグマの中に、直接ダイブして来て欲しいです。嫌なのにそれを言っても“素質がある”とか言われて強要されたらどうしますか?極論言っちゃえばそう言うことでしょう?」

「そ、それは極論言い過ぎだよ、ソーくん・・・っ!!」

 とノエルが半ばあたふたしながら反論するモノの、彼女としてもまさかこんな事態になるとは思えずに、些かビックリとしてしまったのだ。
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