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ガリア帝国編

ルテティアの休日

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 “エイジャックス連合王国”の野望を挫いて“カインの子供達”による凶勢を撃破し、無事に“ガイアの青石”の守護、奪還に成功した蒼太達には褒美としての昇給と、復帰して早々にだが1週間の休暇が与えられる事となった。

 何しろ今回は事が事だった為にこの二人を始めとして作戦に参加した者達には皆、全て何らかの恩賞、褒賞が宛がわれたわけなのであるが、それだけでは無い。

「今回の事で、ようやくにしてガリア帝国上層部も動き始めたのかなっ、て感じだよね?」

「それはそうでしょうね、あそこまでの事をやられたんだから、黙っていたなら次はもっと非道な事をされるのは、目に見えているわ!!」

 蒼太の言葉にメリアリアが頷くモノの、今まではどちらかと言えば国内はセイレーン、国外はミラベルと言ったような、暗黙の了解のようなモノがあったが今後は重要事件ならばセイレーンは直接に、ミラベルの支持をいつでも得られる格好となった訳であって、つまりはようやくにして諸外国の謀略やら暗躍に対する国内防衛の為のシステム、“近代的総力戦体制”が確立された瞬間である、とも言えたのである。

「大丈夫?暑くない?」

「ううん、平気よ?それよりあなたは大丈夫なの・・・?」

「僕は全然平気だよ?むしろメリーの事が心配だよ、なんてったってここ数日は、日差しがうんと強いからね、もし何かあったら言っておくれよ・・・!!」

「う、うん。有り難う・・・!!」

 夫からの言葉にそう応えると、メリアリアは幸せそうな表情のまま微笑んでは彼にその身を強く寄り添わせるモノの、久方振りにガリアへと帰ってきた二人はだから、(特に蒼太はそうであったが)毎日のように移り変わって行く街の様子を見てみたかった事もあって、休日に託(かこつ)けて散策へと繰り出したのであった。

 最初は恋人繋ぎでしっかりと手を握り締め合っていた二人であったがやがてメリアリアはそれでも物足りなくなってしまい、彼の右腕に抱き着いてはグイグイとその身を擦り寄せるようにするモノの、彼に触れる度に毎回の様に思う事なのであるが、その肉体の放つ存在感やオーラと言ったモノは、彼女が思っているよりも遥かに力強くて濃厚で、ドッシリとしていて揺るぎないモノだった、メリアリアが思いっ切り寄り掛かっても少しもビクともしない所かその圧力を、伸し掛かりを平然と跳ね返してはただ、何事も無かったかのようにそこにあり続けていたのである。

 只でさえ、その筋肉や骨格のみならず、筋繊維や神経系をも鍛え上げていた蒼太の肉体は、今まさに“成熟期”を迎えていた事もあって日に日に強靱になっており、見た目以上にガッシリとしていて逞しく、硬くて熱くてしなやかで、それでいて重量もあったし、その上更にー。

 その精神も徹底的に練り上げられて強化、発達していた為に、彼は常に心の平静を保てると同時に、自らを含めた物事を、第三者的かつ多角的に観る事が出来るようになっておりそのため、それに伴って体幹もまた、何があっても動じず変わらず、常に堂々とする心持ち、姿勢をも保つ事が出来ていたのだ。

 そしてそんな彼であったから、学生寮から外に出ると、蒼太は自然と日陰の多い道を選んではメリアリアには歩道側を歩かせるようにし、反対に自らは車道側を歩くようにしていたのであるモノの、そう言った彼のさり気ない自分に対する心配りが、メリアリアには何より眩しくて、暖かくて、とても嬉しかったのだった。

「あれっ?ここのアパートメント、いつの間にかに取り壊されてショッピングモールになってる!!」

「ここね、もうずっと前から痛んでたんだって。鉄骨も老朽化していたらしいから、それなら思い切って取り壊して新しいのを作ろうって事になっちゃったみたい・・・」

「へえぇぇ、そうだったんだ・・・」

 と自らの横にちょこんと並びつつも、甲斐甲斐しくあれこれと説明してくれる愛妻の姿を愛でながらも蒼太は徐々に進化隆盛して行く街の姿を見て回るモノの、彼からしてみればこの時間と言うのは任務で拘束されていた事に対する気晴らしのつもりであり、またメリアリアからしてみればエッチを終えた後だった事もあって、ちょっとしたデート気分でのそれであり、夫と二人で手を繋ぎつつも彼方此方(あちらこちら)へと向けて、彼の赴くのに合わせて歩を進めて行くモノの、その途中でー。

「げえぇっ!!?」

「・・・・・?どうしたの、あなた?」

 蒼太が突然、何かに驚いた様な声を発すると、“い、いやなんでも・・・っ!!”と見るからに慌てふためいた言葉を口にしつつも、“今度はこっちに行ってみよっか!?”と彼女を誘って急な方向転換を試みる、が。

「あーっ!!?やっぱりー(*´▽`*)(*´▽`*)(*´▽`*)」

「あちゃ・・・」

「・・・・・」

 道の向こうから懐かしいような、それでいてそうでも無いようなしかし、妙に聞き慣れた声が響き渡って来た、そして良く知っている、本質的には優しいのだけれどもちょっとズレているコミカルな雰囲気が、二人の感性にビシビシと伝わって来る。

「そー君、メリアリアちゃん。ヤッホー(*^▽^*)(*^▽^*)(*^▽^*)」

「あ、あはは・・・」

「・・・・・っ!!」

 “声の主”はピンクのゆるふわパーマの掛かった長い髪の毛を上下に揺らしながら二人に向かって駆け足で近付いて来た、その歩調は軽くて無邪気さに満ち溢れており、後ろめたさ等微塵も無い。

「あはははっ、ここに来てから久方振りだねぇ~(≧∇≦)b(≧∇≦)b(≧∇≦)b」

「ええぇ~。まあ、そうですねぇ・・・!!」

「・・・・・・・っっっ!!!!!」

 満面の笑みを浮かべて近付く“彼女”に対して蒼太の表情は何処かぎこちなく、メリアリアに至っては明らかに不満げなそれを浮かべていた、彼女にしてみればハッキリと言って迷惑だった、確かに“彼女”は良き友人であったし、その行動や態度の節々に悪気が無い事も知っている。

 それに日本にいた時は色々と世話にもなった身だ、だからこそあんまりこう言う事を言ったり、感情を覚えたりするのはよろしくは無い、よろしく無いのではあるモノの、しかし。

 自分の中からどうしても、ある種の苛立ちと憤怒とが沸き上がって来るのを、メリアリアは抑える事が出来なかった、だってせっかく愛する夫と二人っきりでテンション高く歩いていた、と言うのに、とんだお邪魔虫が来たモノである。

(もうっ。どうしてこの人はいつもいつもこうなのかしらっ。もうちょっと此方に気を遣ってくれたって良いのにっっっ!!!!!!!)

 とメリアリアが憤りを露わにしつつも、何とかそれを抑えようと必死になって葛藤するが、そんな妻に申し訳無く思いつつも蒼太は何とかこの場を丸く収めると同時に、可及的速やかに愛妻を連れて立ち去るべく、高速で頭を回転させ始めるが、その矢先に。

 “彼女”が口を開き始めた。

「もうぅーっ、聞いてよ二人とも、本当に大変だったんだからぁっ(`Д´)(`Д´)(`Д´)自分の生い立ちやら、家族構成やら、今までの経歴を調べられてっ。挙げ句に一々“これで間違いないですか?”、“本当に相違無いですね?”って繰り返し繰り返し聞かれるのよっ?私、嘘なんか付いてないもーんっ!!!!!」

「ま、まあでもね?それくらいはね・・・?」

「それくらいは仕方が無いわ!!」

 とあくまで彼女を躱すことしか考えていない蒼太に変わって妻(メリアリア)が真正面から言い放った。

「い~い、ノエル?貴女はこの国に、私達に保護されているのよ?ちゃんと捜査や調査には協力して。少し位の不便さには目を瞑ってもらわないと、こちらも力になってあげられないわ!!!」

「うう、それはそうなんだけどぉ~・・・。:゜(;´∩`;)゜:。。:゜(;´∩`;)゜:。。:゜(;´∩`;)゜:。」

「じゃあ、そう言う事だから。私達もう行くわね!!それじゃあね!!」

「あ、あれ?これは・・・」

 少しキツい口調でノエルに告げると今度は打って変わって優しい雰囲気となり“行きましょ?あなた!!”と蒼太へと向き直り、再びその右腕に抱き着いては夫に催促をするモノの、その直後に。

 蒼太が新たなる知人の気配を感じて反応するモノの、それは非常に良く知っている、ある人物のモノだったのだ、その人物と言うのはー。

「ああっ、蒼太さん!!」

「アウロラ!?」

 先程ノエルがやって来たのと同じ、曲がり角の向こう側から今度はこの幸(さきわ)いたる水の星の大気のように真っ青な髪の毛をしている麗しの令嬢が、その姿を現すモノの、その女性(ひと)は蒼太の姿を一目見るなり急いで彼へと向けて掛け寄って来た。

「はあっ、はあっ。はあっ、はあぁぁぁ・・・っ!!!こ、こんにちはっ、蒼太さんっ。蒼太さんもお休みだったんですねっ!!!?」

「ああ。アウロラも休暇をもらっていたんだね、知らなかったよ!!」

 “別々に、呼び出されていたからね・・・”と蒼太が思い返しつつ告げるが確かに、彼の言う通りで今回の休暇と昇給の辞令はそれぞれの班ごとに、上層部から呼び出されて直接褒賞として受け渡されたモノだったのであり、しかも秘密保持の観点からも賞罰の訓示内容は一切、口外厳禁であったから、違う班の人間がどうなっているのかは、全くの謎という訳であったのだ。

「だけど嬉しいです、蒼太さんと一緒だなんてっ!!あああ、本当に夢みたいですっ!!!」

「ち、ちょっとアウロラッ!!」

 その勢いのままに蒼太へと向けて飛び付こうとしているアウロラの態度を見るに見かねて蒼太にしがみ付いたままでメリアリアが牽制した。

「あのね、アウロラ。私達は今、二人っきりでデートをしていたのよ?邪魔しないでくれる?ねー?あなた!!!」

「なんですか?その言い方は!!!」

 するとそれに対して蒼太が何かを言おうとする前に、殆ど反射的にアウロラが口を開いた。

「いいですか?メリアリアさん、蒼太さんは私と結婚する人なんですっ、邪魔しないで下さいっ!!」

「何ですってっ!!!!!!?」

「何ですかっ!!!!!!?」

「ち、ちょっと。二人とも、ね?もう落ち着こうよ。ほら、皆見てるから・・・」

「・・・・・」

 “へえぇぇ、そうだったんだ”と、するとそれまで事態を瞳をパチクリさせながら眺めていたノエルが興味深そうに微笑んで言った。

「そー君も隅に置けないのね?恋人が二人も居たなんて、流石のノエルさんもちょっと驚きだわ(*´Д`*)(*´Д`*)(*´Д`*)」

「・・・今おまえ、あれだろ?驚きって言うより呆れたろ?思いっ切り失礼な事を思ったよな?多分!!」

「うん、思ったー(*^▽^*)(*^▽^*)(*^▽^*)」

「うん、思ったー(*^▽^*)(*^▽^*)(*^▽^*)じゃねぇっ!!!」

 蒼太は咄嗟に叫んでいた、叫びながらやっぱりコイツは親衛隊の奴らと一緒だと心底思った、どうしようも無いヤツだと本気で断じた、ほんのちょっとの間だけでも“実はいい人だったんだな”等と考えていた自分自身に腹が立つ。

(確かに悪い人では無いけれど・・・。何て言うかそれ以外がおちゃらけ過ぎなんだよ、この女性(ひと)はっ!!)

 と蒼太は漸くにして、このノエルと言う女の本性が解って来たのであり、それと同時に一応、“根はいい人なんだけれども”と言う事が判明したから安心もしたのであるモノの、しかし。

(何て言うかな、これはこれで・・・!!!)

 “修羅場だな”と蒼太は思った、どんなに絶望的な状況であっても、どんなに困難な現実に置かれたとしてでも決して諦めたりせずに勝利成功を信じて突き進み、またどんな強敵に会ったとしても少しも憶する事無くどこまでも果敢に立ち向かって行く事が出来るだけの勇気と度胸と冷静さをも持ち合わせていた彼ではあったがしかし、こと女性問題に関してはてんでダメだった、メリアリアを始めとする女性達の剣幕に狼狽え怯み、その飛び交う怒気と怒声とにどうして良いのか解らなくなってしまうのだ。

「ハッキリ言わせてもらうけど・・・!!い~い?アウロラ、貴女はね・・・!!!」

「何ですか?その言い方は!!それを言うならメリアリアさんこそ・・・!!!」

「凄い、凄いわ、この盛り上がりはっ!!!凄く面白い事になってるじゃないのっ。お姉さん感激しちゃうわっ、鼻血吹いてぶっ倒れそぅ~っっっ(≧∇≦)b(≧∇≦)b(≧∇≦)b」

(ぶっ倒れてろよ、こん畜生は!!)

 途方に暮れつつ、それでも蒼太はそう思った、“そうすりゃ少しは世界も平和になるだろうさ”と、この世界の片隅で混沌と動乱とを密かに願う不届き者の天誅を、今まさに心の中で希(こいねが)っていた訳であるが(と言うよりも寧ろ自ら画策してしまいそうな勢いであるが)、しかし。

「良い?アウロラ。貴女はね、一々しゃしゃり出て来ないでくれるっ!!?私の全てはこの人と共に、常に夫と共にあるのよっ!!?貴女の付け入る隙なんて、これっぽっちも有りはしないわっ!!!」

「何てこと言うんですか、メリアリアさん!!!メリアリアさんこそ引っ込んでて下さいっ、良いですか?ハッキリと言わせていただきますけど蒼太さんと私とは、“運命の赤い糸”で結び付いているんです、メリアリアさんの出しゃばる幕こそ、何処にも無いじゃ無いですかっ!!!」

「・・・・・」

 “ねぇねぇねぇ、そー君、そー君”とその状態を見ていたノエルが(本人には多分、そのつもりは全く無かったのだろうが)側にいた蒼太にコッソリと告げた、“あの青髪の女の子って一体誰なの?”と。

「私にとっては初対面なんだけれども・・・。もし良かったら紹介してよおぉ(・・;)(・・;)(・・;)」

「・・・・・っ!!!」

 “それだっ!!!”とそれを聞いた瞬間、蒼太は思った、“メリアリアとアウロラの喧嘩を止めるにはこれしか無いっ!!”と。

(あの子達はそれでも冷静だ、ノエルの事を紹介する、と言う場面になれば、途中で気が削がれる事も相俟ってお互いに引くしか無くなるだろうし・・・!!!)

 “ただし”と蒼太は思った、正直に言ってノエル自身はとんでもない激薬である、天然かつ無邪気な分だけ途中でどう転ぶのかが全く解らないのであり(否、寧ろその事が良く解り過ぎているからこそ)、その事がどうにも蒼太をしてある種の危惧を抱かずにはいられなかったのであるモノのしかし、それでももはやこれしか方法に賭けるより他、どうしようも無かった、このままの状態のメリアリアとアウロラとを放って置くなんて事は、とてもでは無いが出来た事では無いし第一、このまま行ったら引くに引けなくなった二人がどんな事になってしまうのか、想像しただけで恐ろしくも悲しい気持ちでいっぱいになってしまう。

(そうだ、どっちみちもうやるしかない!!!この方法に賭けるしか無いんだ!!!)

 そう思って腹を決めると心の奥底からは俄然、勇気が沸き上がって来た、“ちょっと良い?”と半ば無理矢理二人の間に割って入りつつも、蒼太はアウロラにノエルの事を紹介する。

「アウロラ、こちらはノエル。“ミネオラ・ノエル・キサラギ”だ、日本人とルクセンブルク人のハーフでね、もしかしてもう、知っているかも知れないけれど、彼方(あちら)の大公家の血を引いているプリンセスだ・・・。その、ちょっと特別な生い立ちではあるけれど・・・!!!」

「・・・・・」

「・・・聞き及んでいます、オリヴィアさんから内々に通達がありましたから」

 するとほんの僅かだが、二人の間で張り詰めていた、緊迫した空気が和らいでいった、流石のメリアリアもアウロラも、蒼太の話では無視は出来ないし、それに(一応は)最重要ゲストで保護対象のプリンセスの話である、疎(おろそ)かにする事等は出来ないのが事実であった。

 それに加えて。

「それだけでは無いよ、この人は僕とメリーの命の恩人なんだ、ね?メリー・・・」

「・・・ええ」

「・・・・・」

 “まあね”とメリアリアがアウロラの事を睨みながらそう頷くが、その後で。

 蒼太がタイミングを見計らってこう述べた、“改めてノエルを紹介したいのだけれども、良いかな?”と、それで漸(ようや)く。

 二人は睨み合いを解いた、それと同時に周囲の緊張が収縮して行き、空気がゆっくりと流れて行くのを感じるモノの、それを感じ取った蒼太はすかさずノエルを前面に押し出させてはアウロラへと自己紹介させる。

「初めまして、アウロラ。私はノエル。ミネオラ・ノエル・キサラギって言うの、よろしくねぇ~(*´▽`*)(*´▽`*)(*´▽`*)」

「・・・・・っ。え、ええ。よろしくお願い致します、プリンセス・ノエル」

 と、アウロラは流石にフォンティーヌ家のご令嬢だけあって、まだ少しは蟠(わたかま)りはあるモノの、それでも軽く会釈を返して、最低限の礼儀作法は取って見せた。

「ねぇねぇねぇねぇ、アウロラちゃん。そー君とはどんな関係なの?どうしてそんなにも熱い思いを抱くに至っているのぉ~っ( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)」

「・・・・・・・っっっ!!!!!!!」

「・・・・・・・っっっ!!!!!!?」

(やりやがった!!)

 その言葉にまたもやむかっ腹を立てて瞳を吊り上げるメリアリアをチラッと横目で確認しつつも蒼太は内心で頭を抱えるモノの、どうやらノエルは激薬どころかダイナマイトそのものだったようであり、状況を少しでも良くしたい、と言う蒼太の希望を寧ろ、根っこの部分から木っ端微塵に打ち砕いてしまった、かのように見えたのだが。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・蒼太さんとの出会いは7歳の頃の事です」

 意外な事にアウロラが昔語りを始めたのであるモノの、これは仕方が無い事なのかも知れないのだが蒼太はメリアリアやアウロラの中での自分への思いや自分との記憶、と言うモノを過小評価してしまう癖があり、その実際は、彼女達にとっては自身の意地やプライド等を押し退けてでも優先するべきモノだったのである。

「私がルテティア郊外の森で泣いている所を、蒼太さんに助けてもらったのです」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・それでそれで!?」

「その日はそのまま、屋敷まで連れて帰ってもらって・・・。そこで名前も聞かずにお別れしてしまいました」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・じゃあどうやって再会したの?」

「それは・・・」

 ノエルが尚も訪ねようとした、その時だ。

「・・・・・っ!!!」

(あれ?今度は・・・)

「こんな所で何をしている?」

 蒼太が一瞬、早く気付いて気配のした方を見ると、そこにはやはり、と言うべきか、彼の感じ取ったままの人物であるオリヴィア・フェデラーその人が立っていた。

「あ、あれえぇぇ・・・?」

「オリヴィア!?」

「・・・・・」

「こんにちわ~(*´▽`*)(*´▽`*)(*´▽`*)」

 四人がそれぞれに反応を返す中、オリヴィアはユックリと彼等目指して(正確には蒼太を目指して)近付いて来ては彼を見据えてこう告げた。

「そうか、君も今日はオフだったな」

「ええ、まあ1週間程はね。・・・オリヴィアも?」

「見ての通りだ、と言うよりも私だってたまには休むさ・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “意外だな”と蒼太は思った、“あの氷炎の大騎士オリヴィア・フェデラー”がこんな格好で、こんなカジュアルなパリジェンヌファッションを着こなしているなんてと、中々に新鮮な気持ちになるが、彼女の出で立ちは“オスカーリートのホワイト・タンクトップ”に“アクネのデニム”、そしてシューズに“イザベル・マランのエスパドリーユ”を履き熟(こな)しており、その颯爽とした出で立ちや立ち振る舞いと相俟って彼女の魅力的な雰囲気を一層、引き立て、醸し出していた。

「似合うと思いますよ?“ザ・パリジェンヌ”と言った感じの出で立ちで。ねっ、メリーッ!!」

「ええ・・・!?う、うん・・・!!」

 “メリーもおいでよ!!”と言ってまだ、幾許か表情の硬かった愛妻を呼び寄せると、並ばせて立たせて見比べるが、この時の彼女は“マリ・マロのジェンダーレスTシャツ”に同じく“アクネのデニム・パンツ”を着こなしており、靴には“コンバースのホワイト・スニーカー”を愛用していた。

「ほらアウロラも。早く早く!!」

「わ、私も・・・っ!!?は、はい・・・っ!!!」

 蒼太からの更なる招きに、この青髪の少女も戸惑いながらも彼女達の横へと馳せ参じるモノの、彼女は彼女で“ティエリー・コルソンのホワイト・サンドレス”に“フィリップ・リムのサンダル”と言う実にシンプルかつ優雅なファッションに身を包んでおり、この辺りは流石に洗練されたセンスと言うモノを見せ付けていた。

「皆、凄い綺麗だよ、流石に洗練されたパリジェンヌッて言う感じの!!」

「う、うむ。まあ・・・」

「そ、そう言われると・・・」

「ちょっと、恥ずかしいって言うか・・・」

「・・・・・」

 愛しい思い人からもたらされたその言葉に、メリアリア達は皆一様に満更でも無い表情を浮かべて照れながらも俯いてしまうが、それを見ながら“へえぇぇ”とノエルは思った、“その気になればそー君は、自分の力で争いごとを収められるんだ”と言うことを、改めて見せ付けられたからであり、彼の持つ“和の精神”と言うモノを、少しは感じ取れた為である。

 しかも今回、彼は彼女達を何ら注意することなく見事に一つに纏め上げて見せたのでありその能力と言うか、愛情と言うか、“暖かな指導力”とでも言うべきモノは、素直に目を見張るモノがある、と認めざるを得ない。

(“大和(やまと)の能力(ちから)”、噂に聞いた事はあったけれども。まさかその一端を、ここで垣間見る事が出来たなんて!!)

 心の底から感心するノエルであったが、安心すると同時にちょっとした悪戯心と言うべきか、どうしても聞いておきたい事柄がムクムクと首を擡(もた)げて来た、そうだった、それは本来であれば、何をおいてもまず一番に聞いておかなければならない、大事な大事な質問事項だったのだ。

「あのー、ねぇ。オリヴィアさん、アウロラちゃん」

「・・・・・?」

「何用ですが?プリンセス・ノエル・・・」

「ノエルで、良いわよ。それよりも」

 “二人に是非とも聞きたい事があるの・・・”と少し真面目そうな顔付きとなり、改まった表情でそう告げるモノの、一方でそれを見ていた蒼太とメリアリアは、何だか嫌な予感しかしなかった、こんな面持ちと雰囲気になった時に、ノエルがろくな事を曰(のたま)った記憶が無いのだ。

「・・・・・」

「では、改めまして・・・。なんでしょう、ノエル。我々に出来る事ならよろしいのですが」

「うん、あのね?二人の知り合いで日本人かガリア人の女の子で、7歳~15歳くらいの少女って・・・」

「いない、いなーいっ!!何にもいなーいっっっ!!!!!」

「いい加減にしなさいよ、あんたはっっっ!!!!!」

 とそれを聞いた蒼太はまるで喚き散らすかのようにして否定の言葉を連発させつつ二人に対しては“何でも無いんだよ、何でも!!”と、必死の弁明を行うモノの、一方のメリアリアはメリアリアで、まるでそれに連動するかのようにしてノエルに対して詰め掛けるがその日、そんな綾壁夫婦の活躍によってアウロラとオリヴィア(の知り合いの少女達)はノエルという名の暴走超特急に乗らずに済んだのであり、その同性愛的変態性癖の発露たる虎口を辛くも逃れたのであった。
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