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夫婦の絆と子供への思い

公爵令嬢の来日

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 日本に来てから二日目の朝のこと。

 羽田空港から東京赤坂にある星野リゾートに宿泊していたセザール公爵は、日本のサービスの質の高さに驚愕していた、正直に言って異民族の、それも東洋にあるアジア人の国のセキュリティやモビリティ、奉仕の心構え等物の数では無い、と考えていたのであったがそれはここ、日本に着いた時から徐々に変貌の一途を遂げていたのだ。

 荷物や食事、車の手配の迅速さや寄り添い方の丁寧さ、物腰の柔らかさや愛想の良さ、どれを取っても本国ガリアと遜色が無く、いやむしろ素直さや素朴さといった人間的な可愛げは日本人の方が超越してさえいたのである。

「ブルボン株式会社以外、見る価値は無いと思っていたが・・・。どうやら噂通りに素晴らしい国なようだな、中々油断がならん」

「セザール公爵殿下。今日はまだ二日目で御座いますが、さっそくブルボン本社に行ってしまわれますか?」

「いやぁ、待ってくれ蒼太君。私はこの国に興味を持ったよ、もっと色々な場所に行って色々な人々や自然、景観、そして食べ物や文化に出会ってみたい!!!」

「そう言う事でしたならまず、山梨県と長野県から参りましょうか。2つとも東京から割かし近場で高速バスをチャーターすれば1時間半~2時間弱で行けます。日本ワインの宝庫なのですよ?」

「ほう?ワインとはな・・・」

 朝食を終えたホテルのロビーで蒼太を始め、彼の花嫁達と今後の予定に付いての談合を開いていたセザールが、それを聞いて一段と目を輝かせつつも言葉を返した。

「蒼太君。私はワインにはちとうるさいぞ?何しろ生まれてから今までガリアやエイジャックス、エトルリアやプロイセンの主要な銘柄は全て口にしているのだからね!!!」

「あはは・・・。それはちょっとお手柔らかに願いたいですね?何しろ日本のワインの歴史はまだ百数十年ほどなのです。いかに日本人が真面目で勤勉であるとは言えども、千年以上の伝統を誇る本国のシャトーに、果たして匹敵するかどうか・・・」

「まあ、そこら辺は味見をしてみるにしくは無いな。流石の私も飲みもしないでいきなり品質を判断できたりはしないのでな。ところでそれはそれとして、日本に来たならやはり一度は本格的な和食を味わってみたいのだが・・・」

「実は日本には首都が2つあります、実質的な首都である“東京”と名目上の王都である“京都”です。どちらでも本格的な和食を体験出来ますが、さてどうなされますか?」

「ううむ・・・。それならやはり京都だな、京都に行ってみたい!!!」

 幾らか興奮気味にそう告げるセザールに対して蒼太はあくまで冷静に応じた。

「畏まりました、それではまずは山梨県と長野県から責めて行きましょう。京都はその後です、我々の今回の滞在期間はおよそ10日間となっておりますからブルボン本社を含めて充分に回れるでしょう・・・」

 “それでは・・・”とそう言って蒼太が席を立とうとしたその時だった、彼からロビーに設置されている、大型プラズマテレビジョンパネルへと目を移したセザールが、“なんだ?あれは!!!”と怪訝そうな面持ちを露わにしたのだ。

「・・・どうかなさいましたか?セザール公爵」

「うん?いやな、今し方テレビで流れていたコマーシャルが実にけしからん内容だったのでな。少し腹を立てただけだ!!!」

「・・・コマーシャル?」

 そう呟いた蒼太がテレビジョンパネルを見ると、そこには“いいちこ”と書かれたラベルの張ってある、麦焼酎のCMが映っていたのが一瞬だけだが確認できた。

「・・・ああ、あれは“いいちこ”ですよ。日本の焼酎のCMですね」

「“ショーチュー”・・・?なんだ、それは」

「日本酒の一種です、ワインよりもウィスキーに近い蒸留酒なんですけれども・・・。味わい深くてとっても美味しいですよ?飲み慣れて来ると解ります」

「けしからん、実にけしからん!!!」

 あくまで静かな口調で説明する蒼太とは対照的にややいきり立った様子でセザールは力説した。

「今や世界は“SDG's”が基本だぞ?それなのになんだ、あのCMは。最後に酒を投げ棄ておった、恥を知れ恥を!!!」

「・・・・・っ。い、いいえ公爵殿下。あれは投げ棄てたのではなくて、ラグビーのボールに見立てたのです。それでゴール目掛けて投げ入れたのです!!!」

「同じ事ではないか。あのまま行けば酒瓶は地面に叩き付けられて最終的には砕け散るだろう、ゴミを撒き散らしているのと一緒だ。第一中身の酒はどうする?せっかく作った商品をむざむざ無駄にするコマーシャルなど、私には全く理解出来ん!!!」

「・・・い、いいえ。あの、セザール公爵殿下。多分あのCMを企画した会社もそんな事までは考えて無かったと思われますが」

 “いいちこ”の為に必死の弁明を繰り広げながらも、蒼太はこのツッコミパターンに於ける自分の対応と公爵の物言いとにある種の既視感と言うか“デジャヴ”を感じていて、そしてそれ故に戸惑っていた。

 なんだか知らないが前にも一度(と言うか何度も)こう言う事があったような気がしてどうにも意識が過去へと振り向けられるが、思えばセザールは昔から“こう言う人”だった。

 悪い人では無いのだが多少天然な所があり笑いのツボが人のそれよりもズレていた、その上何と言うべきかどうでも良い事柄に対して異状なまでの興味を示しては一々ツッコミを入れて来るのである。

 この前もテレビの番組で世にも珍しい食べ物特集をしていた時、テレビの向こう側でコメンテーターが放った“あなた方は着いて来れていますか?”との呼び掛けに対して真顔で“大丈夫だ”、“私は至って冷静だぞ?”と何の応答も無いであろう独り善がりな言葉のキャッチボールを堂々と交わし始めたりした。

(何だろう、このツッコミ所満載の天然ボケなライフスタイルは。何だか昔もこう言う事があったような気がするぞ?だけどいつ、誰とだったのかが思い出せないんだよなぁ・・・っ!!!)

 そんな事を蒼太が考えていた時だった、不意に後ろ側のエントランス方面から、2人程のなんだか懐かしい感じのする気配を感じたのだ。

「・・・・・っ!!?」

(・・・・・っ。あ、あれれ?なんだっけ、この2人の気配は何処かで感じた事が)

「あ、アソコにいるのは・・・っ!!?」

「あーっ、いたぁっ!!!ソーくんだぁっっっヾ(≧∇≦)ヾ(≧∇≦)ヾ(≧∇≦)」

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「・・・っ!?!?!?」

「・・・・・っ!!?」

(げっ。まさか・・・っ!!!)

 “その声の主達”はそう叫び様早足となって蒼太やメリアリア達に近付いて来た、もう振り向くまでも無く蒼太にはその正体が解っていた、ガリア帝国の隣国の1つ、“ルクセンブルク大公国”の“私的公爵令嬢”であり天然ゆるふわ困ったちゃん。

 “ミネオラ・ノエル・キサラギ”とその内縁の夫でありノエルと同じくルクセンブルク大公家の血筋に連なる名家の出身“レアンドロ”の二人組であったのだ。

「いやぁーっ。探したよ蒼太、久し振りだなぁっ!!!」

「もぉーっ!!!ソー君てば日本に帰るつもりなら何で私達に一言相談してくれないのぉっっっ(*´▽`*)(*´▽`*)(*´▽`*)」

「・・・・・っ。はぁ~っ!!!」

「あちゃ~・・・っ!!!」

「あら?あの方々は、確か・・・」

「ルクセンブルク大公国のプリンセス。ミネオラ姫とレアンドロ御夫妻では無いか・・・!!!」

 あからさまに“なんてこった”、“やっちまった”と言う表情を見せる蒼太とメリアリアに対してまだまだ2人に対する認識が甘いアウロラとオリヴィアはキョトンとした顔付きを彼等に向けた。

 “思い出した”と蒼太とメリアリアは殆ど同時にそう思った、セザール公爵に感じた既視感の正体は、彼等がかつてノエルとレアンドロに抱いた感覚と瓜二つなそれだったのだ。

「アハハハッ(*^▽^*)(*^▽^*)(*^▽^*)“ソー君達が日本に帰る”って聞いてぇ~っ。ノエル、慌てて追って来たんだからぁ~っっっ(≧▽≦)(≧▽≦)(≧▽≦)」

「・・・・・」

(おいおい、マジかよ?流石に信じられないよ・・・っ!!!)

(ちょっと、一体どうしたら良いわけ?この局面は・・・っ!!!)

 内心で密かに頭を抱える蒼太とメリアリアであったがただでさえお荷物と言うか色々な意味で厄介なセザール公爵を連れている、と言うのにそこへ持って来て更に厄介なノエルとレアンドロまでもが合流してしまったのである、今後の事態がどの方面に向かうのか、どのような科学変化が誘発されるのか、全く以て予想出来なくなってしまった。

(一体、何処から情報が漏れた?まさかコイツら、直感だけで追って来たんじゃないだろうな・・・!!!)

(だとしたならどういう精神構造をしているのかしら?全くもうっ。他にも色々と気を遣って欲しい箇所はたくさんあるっていうのに、この2人と来たら・・・!!!)

「よーいしょっと。アハハハッ!!?ヤッホー、ソー君、メリアリアちゃん。久し振りぃ~っ(〃'▽'〃)(〃'▽'〃)(〃'▽'〃)あとアウロラちゃんとオリヴィアちゃんもねぇ~っ( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)( ̄∇ ̄)」

「・・・・・っ。あはは、は。来ちゃった、と言うよりどうして来たの?ノエルさん、レアンドロ」

「あ、あのね?ノエル、とレアンドロ。私達は今回はちょっと大事な用があって日本に来たの、間違っても遊びに来たんじゃ無いのよ?」

「えぇ~っ、ウソーッ∑(OωO; )∑(OωO; )∑(OωO; )ううん。ソー君とメリアリアちゃん、嘘付いてるわぁっ!!!だって昨日からの2人のスマホのGPSとかカードの決済記録を見たら完璧な観光じゃなーいっ(`Д´)(`Д´)(`Д´)」

「・・・・・っ。あ、あのねノエルさん。あんた一応はルクセンブルク大公家のプリンセスなのに、ハイテクを使いこなして何やってんの?」

「あんた達、今はもう貴族院議員な訳でしょ?もうちょっと他にやる事が無いわけ!!?」

 自分達の元へとやって来たノエルとレアンドロとに、改めて向き直って(取り敢えずの)挨拶を交わしつつ、蒼太とメリアリアとがまずは最初に言葉を交わすが昨日から無断で自分達の位置情報とクレジットカードの決済記録を盗み見られていた事を知った夫婦は思わず宙を仰いで溜息を漏らした、毎日が忙しい筈のルクセンブルク貴族院議員ともあろう者が、犯罪行為スレスレの(と言うよりも完全に真っ黒な)凶事に手を染めて一体何をやっているのだろうか。

「・・・あ、あの。ミネオラ姫、とその夫君。ご機嫌麗しゅう御座います、その節は大変お世話になりました」

「私共の夫がいつもいつも格別のお引き立てを賜っております、プリンセス・ミネオラ。と、レアンドロ殿・・・」

「・・・・・」

「あはは・・・。あ、あのね?アウロラとオリヴィア。そんなに畏まらなくても良いよ?」

 “いつもお世話してますの間違いだからね?”、“大抵は厄介事を背負わされているだけだから”とは蒼太は流石に言わなかった、確かに多少はお世話になった事もあったしそれに、相手の立場が立場である、些か失礼が過ぎると踏んだからだが、さて。

「・・・・・っ。蒼太君、この者達は何者かね?どうやら君達と面識がある様子だが」

「お初にお目に掛かります、ブルボン公爵殿下。私共はソー君達夫婦の大親友にして隣国“ルクセンブルク大公国”の大公家の血筋に連なる者で御座います。以後よしなに・・・」

「大親友であり、また戦友でもある蒼太達一家が日本に帰省する、と耳にしたモノですから。懐かしさのあまり取るものも取りあえず、こうして急いで会いに来たのです・・・!!!」

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!?」

(し、親友っ!!?まあ、確かに仲は良い方だったけど・・・)

(コイツら。いつの間にか“マブダチ”の立ち位置を確立させようとしてやがるな・・・?)

 思わずジト目を向ける蒼太とメリアリアには一目もくれずに恭しく頭を垂れるノエルとレアンドロの礼儀作法と文言は完璧なモノだった、今この段階ではまだ2人の正体がハチャメチャプリンセスと困ったちゃん王子だとは夢にも思わなれないであろう。

「今回は特にブルボン公爵殿下や、その御一族の方々も御一緒なされていると聞き及びまして“多少なりともお力添えが出来れば”と思いまして。それでこうして急いで駆け付けた次第で御座います・・・!!!」

「実は私共夫婦も過去に何度か日本に来た事が御座います。そこで“何かのお役に立てるのでは無いか?”と考えて今回、馳せ参じて参りました。どうか私共もご一緒させて下さいませ?公爵殿下・・・!!!」

「おおっ!!?なんとそう言う訳であられたのですか、ルクセンブルク大公家の。なるほど確かにこうして見ると、そこはかとない不思議な気品に満ち溢れておられる・・・!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

(そりゃコイツら一応は貴族の“不思議ちゃん”だからね?確かに意味不明な気品と言うか、魅惑的な何かがそこはかとなく漂っているのは理解出来るけどさ・・・)

(・・・ひょっとしてもしなくても。もしかしたならブルボン公爵殿下は人を見る目が無いのかしら?この2人にそんな上等な気品があるようには見えないのだけれど)

 まだ言葉をオブラートに包んでいる夫に対して今や完全に蒼太のモノとなり、また彼の人妻となったメリアリアは蒼太以外の他人様に対する表現方法に容赦が全く無い。

 もっともこれに関しては、もしもノエルの本性をあまさず知っていたのならばアウロラもオリヴィアも同じ事を感じたであろう、多分。

「いやはや。ルクセンブルク大公夫妻には何度かお会いした事がある、お二人はお元気ですかな?」

「はい、お陰様でお祖父様もお祖母様も恙無つつがなく毎日を過ごしております・・・」

「大公殿下からも、ブルボン公爵殿下によしなに、との事で御座いました・・・」

「おお、それは有り難い事だ。大公殿下にはくれぐれもよろしくお伝え下さい!!!」

(あ~あ。社交辞令をすっかり信じちゃったよ、うちの公爵殿下は・・・)

(・・・多分。この2人の事だから、実家には何も告げずに黙って出て来たんだろうな、とは思うけど)

 蒼太とメリアリアが複雑な思いを抱く中、勢い付いたノエルとレアンドロが更なる言葉を綴り始めた。

「いやぁーっ!!!しかしまあ、何と言いますか。エルヴスヘイムの時もそうだったけれども、やっぱり私達がいないと締まらないのよね?」

「そうそう。あの時も僕達、大活躍だったもんな。やっぱり主役がキチンと登場しないと物語全体が萎えてしまうからね!!!」

「・・・・・っ!!?」

「はあぁっ!!?」

「だけどソー君達とは良い意味での腐れ縁と言いますか。考えてみればみるほど私達って本当に不思議な間柄だよねぇっ。ね?ソー君っ(≧∇≦)b(≧∇≦)b(≧∇≦)b」

「ホントホント。まさに“謎が謎を呼ぶ”ってヤツだよね?僕らの歩いて来た道程は。まさに友情の為せる神秘と言うか、摩訶不思議なお付き合いの妙と言いますか・・・」

(違うね。本当に不思議で謎なのはオメーらの頭の方だ!!!)

(どうしてこの2人には他人様に対する遠慮と言うか、憚りが全く効かないのかしら?)

 “言い方も一々いかがわしいのよね・・・!!!”とメリアリアに至ってはそこまで思うが一方で。

 すっかり気を良くしたブルボン公爵は一も二も無くノエル達の帯同を許した。

 それは彼等にとっては楽しくて仕方が無い、そして蒼太達にとっては胃腸薬が手放せなくなる程にまでストレスに振り回される日々の始まりであった。
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