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百合の香りが漂う中、レジーの唇が降りてきて、リリーに口づけを落とした。
番だからこそ引き寄せられ、出会った初日に寝てしまった二人だが、リリーがそのことを気に病んでいることをレジーはよく分かってくれていて、自制心の強さを見せてあれから手を出すようなことはなかった。我慢できない、とばかりに抱き寄せてくれることはよくあったが、それも決して一線を超えるようなことはなく、あくまでもリリーに安心感を与えるものだった。そもそも事態がそういうことを許すような状況ではなかったのもある。
この三週間、同じベッドに眠るようなことはなかった。
医者であるレジ―の勤務は凄まじく不規則だった。シフト通りに帰れるとも限らずに、予想外の手術が入ったり、急患の具合によっては彼は丸一日帰ってこないことも多々あった。その上で、レジ―はリリーに自分の帰りを待たないでベッドを使ってほしいと言うので、リリーも納得した。あまりにも忙しすぎる彼の生活に、彼自身の健康が少し心配にはなるが、レジ―が医者という仕事に責任感と使命感、そして自負を持ち、まっすぐに取り組んでいることは伝わってきている。
そんな彼が今日、自分のシフトをなんとか調節して、リリーのために尽くしてくれていることを、特別なことだと感じている。医者であるレジ―は基本的に相手との距離が独特だ。患者の話は守秘義務にあたるから彼の口から聞いたことがないが、周囲にいる人達への視線が温かいながらも、少しだけ距離がある。相手に入り込まないようにしているようにも感じられる。そんなレジ―がリリーのために奔走してくれたことの意味を考えずにはいられない。
唇を合わせて、舌を絡めたレジ―がそっとリリーの首筋に手を下ろした。まったく性的な感触ではないものの、ぴく、と揺れてしまう。番だからこそ、彼との相性は凄まじい。彼の優しい手はすぐにリリーから離れた。
「ごめん」
「ううん」
「……君の唇、甘いな」
レジ―が、はあっと色っぽくため息をつきながら、ちゅ、ちゅと齧るようにリリーの唇を味わう。それからどこか困ったように笑った。
「……レジ―……、私のこと、欲しがって……」
リリーは伸び上がって、レジ―の首筋にすがりつくように抱きしめた。彼と身体がぴったりとくっつくと、自分も喜びと期待感で身体が震える。
「君のことはいつだって……。でもさすがに今夜は……」
どこまでもリリーを思いやるレジ―が好きだ。リリーは彼の首筋に顔をつけたままにっこりと微笑む。きっと唇の形が彼に伝わっているだろう。
「ううん。今夜だから、こそ……全てを忘れさせて、レジ―」
☆
初めて肌を合わせたときは、性急すぎて、ただただ大きな嵐のように過ぎ去ってしまった。しかし今回はお互いに求めていることが分かっていて、しかも本当は心の奥底で、こうなることをずっと待っていた――あの日から。
全く乱暴なところはないものの、早急な手つきでベッドに横たわらせ、覆いかぶさってきたレジ―がリリーの顔中にキスの雨を降らせる。彼の逞しい背中にすがりつき、腰が疼いて動かしてしまうと、レジ―が喉の奥で呻いた。そして突然、彼が顔を引きはがす。
「くそっ――最悪だ……スキンがない」
「……えっ?」
リリーがレジーを見上げると、彼は赤みがさした顔を劣情に歪めながらも、なんとか笑顔らしきものを浮かべてみせた。
「病院で貰ってくればよかったんだが……スキンがあると欲望に負けてリリーを抱いてしまいそうだったから持って帰ってこなかったのが仇になったな。2ブロック先にCVSがあるからスキンを買ってくる」
「……レジ―……」
それがまた、この家に本当に女性がいた痕跡がないことの証明のようでレジ―の誠実さを後押しする。
「ちょっとだけ待っていてくれ」
本格的に彼が離れそうになったので、思わずリリーが背中にまわしていた手に力を込めると、彼のものがすっかり固くなっているのがまざまざと感じられた。こんなに欲しがってくれているのに――彼は……。
「ちょうどいいからアイスでも買ってくるよ、TalentiかBen and Jerry'sか……。だから離して」
リリーが一向に手を離さないので、レジ―が優しく呟く。リリーは彼から離れたくなかった。そして、こうやって自分も彼女のことを欲しがっているのに、彼女の身の安全を優先してくれるレジ―のことを本当に信頼できると思った。
番の本能に流されず、彼はいつでもリリーを慮ってくれる。
「……このままで、いい。安全日だし……。アフターピル、まだ残っているし」
「……しかし、でも、アフターピルは君の身体に負担をかけるから……」
アフターピルの副作用を心配してレジ―は逡巡したが、リリーはもう一度彼に懇願した。
「レジ―の気持ちは嬉しいけど……待てないの、私が」
こんなこと、いままで誰にも強請ったことがない。
リリーの顔が真っ赤になって、潤んだ瞳で見上げると、呆然としているようにも見えたレジ―が噛み付くような口づけを落とした。
☆
ごりごり、ぐちゅぐちゅ、と奥をつかれてリリーは、思いきり男の背中にしがみついた。
レジーはとても優しく丁寧に抱いてくれた――最初は向かい合って顔を見ながら、口づけを交わしながらとてつもなく甘く。二回目は背後から彼女の身体を弄りながら。リリーが絶頂に達した後に彼も気持ちよさそうに中で射精した。
三回目――座ったレジ―の上に腰かけたリリーは、彼の出したもので滑りがとても良くなっている膣内を奥深くまで突き上げられて、あまりの気持ちよさに既に何回も小さい頂きに登っていた。肉と肉のぶつかり合う淫らな打擲音が耳の奥で木霊する。彼から発せられる百合の香りはむせ返るような濃さに変化していた。
「あっ、あ、あ…」
リリーはいやいやとするかのように髪を乱して、喘いだ。ぐちゃん、とレジーが腰を突き上げる度に、深い快感が脳内を支配する。凄まじい快感に、リリーは既に理性を捨てて、本能の前に陥落していた。あ、あ、とぶるぶると身体が震え、奥深くまで咥えこんでいる彼の屹立を食みしめた。
「っ、リリー…ッ、ん」
レジ―が少しだけ律動を緩めて、はくはくと呼吸をするリリーを抱きしめてくれた。ちゅ、と目尻にキスをされて、その穏やかな口づけに少しだけ理性が戻る。呼吸が荒く、熱い。けれど、レジーに愛されているという実感が彼女の心を満たしていた。
今まで誰と身体を繋げてもこんなに心を感じたことがなかった。
番でもいいじゃないか、とあの日のレジ―は言っていた。
それでいい、とリリーも答えた。
(私達は、番なんだ――離れなくてもいい、お互いが求めているのだから)
「レジ―、すき……」
くたりと力を抜いて、彼の胸にもたれかかる。まだ固い彼のものが中でぐんと容積を増すのを感じて、ん、と小さい声を漏らす。
「一緒にいたい、レジ―……」
そう呟くと、彼の身体がぶるっと震えて、そのままリリーをベッドに押し倒す。突然姿勢が変わって、中で彼のものがぐりっと感じるところを掠めて、彼女は喘いだ。
「あっ…!」
「もちろん、これからもずっと一緒にいよう、リリー。ごめん……あまりにも君が可愛すぎて、余裕がなくなった……するよ?」
彼が彼女の脚を抱えて、余裕がなくなったかのように律動を再開した。
「あっ、あ、ん、はっ……」
「リリー、君を離したくないっ……」
彼の熱が最奥で爆発する。
リリーはその熱を感じながら、かつてないほどの幸福感に包まれている自分を感じていたのだった。
☆
二人で身体を清め合って、リリーはアフターピルを飲み、その間にレジ―がぐちゃぐちゃになったシーツを替えておいてくれた。低容量ピルで、しかも体質に合っているからレジーが心配するほどには副作用は出ない。吐き気もなく、眠たくなるだけだった。
それから軽い夕食を取って、寝支度をした。ベッドに潜り込むと、レジ―がリリーをしっかりと抱き寄せてくれる。これからは二人でこうやって寄り添って眠るのだ。
「君は信じてくれないと思うけど、スキンなしでしたのは初めてだ」
今までどれだけ相手がピルを飲んでいるといっても彼はスキンをしていたのだろうか。医者らしい慎重さだなと思うと同時に、そんな彼が自分との行為ではスキンなしで抱いたという事実がリリーにはくすぐったく感じた。それに、リリーもスキンなしで繋がったのはレジーとが初めての経験であった。アフターピルはあくまでも非常事態のために持っているだけだったのだから。そう彼の耳元で囁くとレジ―は嬉しそうに微笑んだ。
「君が良ければ――アフターピルを飲まないでも……俺はいいんだ。でもまだ……早いだろう?」
彼がリリーのつむじに優しくキスを落とす。
「そうね……」
「だから、今度こそTalentiのアイスを買ってきて君にパートナーになってくれるように懇願するよ。アイスがあれば君もうっかり頷くかもしれない」
身体が暖まってくるのにつれ、レジ―が眠たそうな声になった。彼の手は宝物を触るかのようにリリーの髪を梳いている。
「必要ならその棚のアイスを全部買い占めてもいい」
「ふふ……」
茶目っ気たっぷりな彼の言葉にリリーは吹き出した。彼が、ローズのことから気をそらそうとしてこうやって軽口を叩いてくれているのは分かっている。もちろん、本音も混じってはいるのだろうけれど。リリーも今夜は眠ることにした。どこよりも安心できる、彼の腕の中で。今夜はもう全てを忘れて。
「買うのはヴァニラだけでいいわ……きっと私はそれでイエスと言うかも。明日、トライしてみて」
眠る寸前に呟いた言葉が、レジ―に届いたかどうかはリリーには分からなかった。
_________________________________________
CVS……薬局、ドラックストア。
Talenti/Ben and Jerry's…どちらもアメリカのアイス。日本でも最近買えると思います。ちょっと最近のブランドだったりするんですけど、そこは優しく見逃してやってください
番だからこそ引き寄せられ、出会った初日に寝てしまった二人だが、リリーがそのことを気に病んでいることをレジーはよく分かってくれていて、自制心の強さを見せてあれから手を出すようなことはなかった。我慢できない、とばかりに抱き寄せてくれることはよくあったが、それも決して一線を超えるようなことはなく、あくまでもリリーに安心感を与えるものだった。そもそも事態がそういうことを許すような状況ではなかったのもある。
この三週間、同じベッドに眠るようなことはなかった。
医者であるレジ―の勤務は凄まじく不規則だった。シフト通りに帰れるとも限らずに、予想外の手術が入ったり、急患の具合によっては彼は丸一日帰ってこないことも多々あった。その上で、レジ―はリリーに自分の帰りを待たないでベッドを使ってほしいと言うので、リリーも納得した。あまりにも忙しすぎる彼の生活に、彼自身の健康が少し心配にはなるが、レジ―が医者という仕事に責任感と使命感、そして自負を持ち、まっすぐに取り組んでいることは伝わってきている。
そんな彼が今日、自分のシフトをなんとか調節して、リリーのために尽くしてくれていることを、特別なことだと感じている。医者であるレジ―は基本的に相手との距離が独特だ。患者の話は守秘義務にあたるから彼の口から聞いたことがないが、周囲にいる人達への視線が温かいながらも、少しだけ距離がある。相手に入り込まないようにしているようにも感じられる。そんなレジ―がリリーのために奔走してくれたことの意味を考えずにはいられない。
唇を合わせて、舌を絡めたレジ―がそっとリリーの首筋に手を下ろした。まったく性的な感触ではないものの、ぴく、と揺れてしまう。番だからこそ、彼との相性は凄まじい。彼の優しい手はすぐにリリーから離れた。
「ごめん」
「ううん」
「……君の唇、甘いな」
レジ―が、はあっと色っぽくため息をつきながら、ちゅ、ちゅと齧るようにリリーの唇を味わう。それからどこか困ったように笑った。
「……レジ―……、私のこと、欲しがって……」
リリーは伸び上がって、レジ―の首筋にすがりつくように抱きしめた。彼と身体がぴったりとくっつくと、自分も喜びと期待感で身体が震える。
「君のことはいつだって……。でもさすがに今夜は……」
どこまでもリリーを思いやるレジ―が好きだ。リリーは彼の首筋に顔をつけたままにっこりと微笑む。きっと唇の形が彼に伝わっているだろう。
「ううん。今夜だから、こそ……全てを忘れさせて、レジ―」
☆
初めて肌を合わせたときは、性急すぎて、ただただ大きな嵐のように過ぎ去ってしまった。しかし今回はお互いに求めていることが分かっていて、しかも本当は心の奥底で、こうなることをずっと待っていた――あの日から。
全く乱暴なところはないものの、早急な手つきでベッドに横たわらせ、覆いかぶさってきたレジ―がリリーの顔中にキスの雨を降らせる。彼の逞しい背中にすがりつき、腰が疼いて動かしてしまうと、レジ―が喉の奥で呻いた。そして突然、彼が顔を引きはがす。
「くそっ――最悪だ……スキンがない」
「……えっ?」
リリーがレジーを見上げると、彼は赤みがさした顔を劣情に歪めながらも、なんとか笑顔らしきものを浮かべてみせた。
「病院で貰ってくればよかったんだが……スキンがあると欲望に負けてリリーを抱いてしまいそうだったから持って帰ってこなかったのが仇になったな。2ブロック先にCVSがあるからスキンを買ってくる」
「……レジ―……」
それがまた、この家に本当に女性がいた痕跡がないことの証明のようでレジ―の誠実さを後押しする。
「ちょっとだけ待っていてくれ」
本格的に彼が離れそうになったので、思わずリリーが背中にまわしていた手に力を込めると、彼のものがすっかり固くなっているのがまざまざと感じられた。こんなに欲しがってくれているのに――彼は……。
「ちょうどいいからアイスでも買ってくるよ、TalentiかBen and Jerry'sか……。だから離して」
リリーが一向に手を離さないので、レジ―が優しく呟く。リリーは彼から離れたくなかった。そして、こうやって自分も彼女のことを欲しがっているのに、彼女の身の安全を優先してくれるレジ―のことを本当に信頼できると思った。
番の本能に流されず、彼はいつでもリリーを慮ってくれる。
「……このままで、いい。安全日だし……。アフターピル、まだ残っているし」
「……しかし、でも、アフターピルは君の身体に負担をかけるから……」
アフターピルの副作用を心配してレジ―は逡巡したが、リリーはもう一度彼に懇願した。
「レジ―の気持ちは嬉しいけど……待てないの、私が」
こんなこと、いままで誰にも強請ったことがない。
リリーの顔が真っ赤になって、潤んだ瞳で見上げると、呆然としているようにも見えたレジ―が噛み付くような口づけを落とした。
☆
ごりごり、ぐちゅぐちゅ、と奥をつかれてリリーは、思いきり男の背中にしがみついた。
レジーはとても優しく丁寧に抱いてくれた――最初は向かい合って顔を見ながら、口づけを交わしながらとてつもなく甘く。二回目は背後から彼女の身体を弄りながら。リリーが絶頂に達した後に彼も気持ちよさそうに中で射精した。
三回目――座ったレジ―の上に腰かけたリリーは、彼の出したもので滑りがとても良くなっている膣内を奥深くまで突き上げられて、あまりの気持ちよさに既に何回も小さい頂きに登っていた。肉と肉のぶつかり合う淫らな打擲音が耳の奥で木霊する。彼から発せられる百合の香りはむせ返るような濃さに変化していた。
「あっ、あ、あ…」
リリーはいやいやとするかのように髪を乱して、喘いだ。ぐちゃん、とレジーが腰を突き上げる度に、深い快感が脳内を支配する。凄まじい快感に、リリーは既に理性を捨てて、本能の前に陥落していた。あ、あ、とぶるぶると身体が震え、奥深くまで咥えこんでいる彼の屹立を食みしめた。
「っ、リリー…ッ、ん」
レジ―が少しだけ律動を緩めて、はくはくと呼吸をするリリーを抱きしめてくれた。ちゅ、と目尻にキスをされて、その穏やかな口づけに少しだけ理性が戻る。呼吸が荒く、熱い。けれど、レジーに愛されているという実感が彼女の心を満たしていた。
今まで誰と身体を繋げてもこんなに心を感じたことがなかった。
番でもいいじゃないか、とあの日のレジ―は言っていた。
それでいい、とリリーも答えた。
(私達は、番なんだ――離れなくてもいい、お互いが求めているのだから)
「レジ―、すき……」
くたりと力を抜いて、彼の胸にもたれかかる。まだ固い彼のものが中でぐんと容積を増すのを感じて、ん、と小さい声を漏らす。
「一緒にいたい、レジ―……」
そう呟くと、彼の身体がぶるっと震えて、そのままリリーをベッドに押し倒す。突然姿勢が変わって、中で彼のものがぐりっと感じるところを掠めて、彼女は喘いだ。
「あっ…!」
「もちろん、これからもずっと一緒にいよう、リリー。ごめん……あまりにも君が可愛すぎて、余裕がなくなった……するよ?」
彼が彼女の脚を抱えて、余裕がなくなったかのように律動を再開した。
「あっ、あ、ん、はっ……」
「リリー、君を離したくないっ……」
彼の熱が最奥で爆発する。
リリーはその熱を感じながら、かつてないほどの幸福感に包まれている自分を感じていたのだった。
☆
二人で身体を清め合って、リリーはアフターピルを飲み、その間にレジ―がぐちゃぐちゃになったシーツを替えておいてくれた。低容量ピルで、しかも体質に合っているからレジーが心配するほどには副作用は出ない。吐き気もなく、眠たくなるだけだった。
それから軽い夕食を取って、寝支度をした。ベッドに潜り込むと、レジ―がリリーをしっかりと抱き寄せてくれる。これからは二人でこうやって寄り添って眠るのだ。
「君は信じてくれないと思うけど、スキンなしでしたのは初めてだ」
今までどれだけ相手がピルを飲んでいるといっても彼はスキンをしていたのだろうか。医者らしい慎重さだなと思うと同時に、そんな彼が自分との行為ではスキンなしで抱いたという事実がリリーにはくすぐったく感じた。それに、リリーもスキンなしで繋がったのはレジーとが初めての経験であった。アフターピルはあくまでも非常事態のために持っているだけだったのだから。そう彼の耳元で囁くとレジ―は嬉しそうに微笑んだ。
「君が良ければ――アフターピルを飲まないでも……俺はいいんだ。でもまだ……早いだろう?」
彼がリリーのつむじに優しくキスを落とす。
「そうね……」
「だから、今度こそTalentiのアイスを買ってきて君にパートナーになってくれるように懇願するよ。アイスがあれば君もうっかり頷くかもしれない」
身体が暖まってくるのにつれ、レジ―が眠たそうな声になった。彼の手は宝物を触るかのようにリリーの髪を梳いている。
「必要ならその棚のアイスを全部買い占めてもいい」
「ふふ……」
茶目っ気たっぷりな彼の言葉にリリーは吹き出した。彼が、ローズのことから気をそらそうとしてこうやって軽口を叩いてくれているのは分かっている。もちろん、本音も混じってはいるのだろうけれど。リリーも今夜は眠ることにした。どこよりも安心できる、彼の腕の中で。今夜はもう全てを忘れて。
「買うのはヴァニラだけでいいわ……きっと私はそれでイエスと言うかも。明日、トライしてみて」
眠る寸前に呟いた言葉が、レジ―に届いたかどうかはリリーには分からなかった。
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