転生した貴族令嬢は、辺境の森で魔女となる

椎名さえら

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2 Into the wild

「懐かしい人の」

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「お前『魔女』って書かれたんだってな」

後味の悪い別れ方をしたので、やや心配していたが数日後にテオはあっさりといつものように顔を出した。そもそも彼が家に足を運んでくれないと編集長と手紙のやり取りが出来ずに『ミセス・ロビン』は活躍できないのである。

彼があまりにもいつも通りにしているので、私もすぐさま幼馴染の仮面を被ることが出来た。これは長年の関係の賜物である。お互いに間違いなくその方が気楽だろうと思う。

「読者の身に起こった事件を小説の中でピタリと予言したんだろ?編集長がそういう手紙がきてたって言ってたが」

「うん」

「事件っていうと、この前舞踏会で突然子爵令嬢が婚約破棄されたやつかなぁ」

「それだと思う。ねえテオ、ちょっと頼まれてくれないかな?」

私は考えに考えて頭をひねって彼女に不審を抱かれないようなメッセージを認めたメモを彼に渡した。彼はそのメモにざっと目を通して、顔をしかめた。

「なんだこれ?」

「これを誰かに綺麗に清書してもらって『ミセス・ロビン』からと言って、編集部からその方に送って欲しいの」


「何の為に?」

私は口籠った。実は転生令嬢で…とか、前世の記憶を思い出して…とか、言い出したら、さすがのテオも私が本当に精神薄弱になったか、そうではなくても長い隠遁生活のせいで病んできたかと心配するかもしれない。私自身、勿論これは出過ぎた行為だということはよく理解しているのだが、私は6年前の自分を見ているようで、どうしても彼女を放っておけなかったのだ。

「…その人に信じてもらえるかは分からないけど、悪いことにはならないはずだから」

テオはしばらく手の中にあるメモと私の顔を訝しげに見比べてみたが、私がそれ以上何も言わないのをみて取ると、やがて頷いてそのメモをシャツの胸ポケットにしまった。彼はやると言ったら必ずやってくれるはずなので、とりあえずこれで私に出来ることは全てしたと思う。メモを受け取った彼女が信じてくれなかったらそれはそれで良い。

「テオ、頼んでばっかりで悪いけど、もうひとつお願いがあるの」


___________________________________


翌朝、メイドが朝食と共に私の小説が載っている大衆紙を持ってきてくれた。

要はタブロイド紙と変わらないので、由緒ある家柄の貴族令嬢が表立って読むような新聞ではないのだが、社会的に抹殺されている私がこの新聞を読んで誰に迷惑をかけるだろうかと思い直し、小説が載ることが決まってからは毎朝読むようになった。

小説はもうすぐ最終章を迎えるので、今まで悪役令嬢が間にいたせいで、表立って愛を語ることができなかったヒロインとヒーローが熱く気持ちを伝え合うシーンである。悪役令嬢はもう退散している。

(彼女、大丈夫かな…)

私の思い過ごしだと思いながらも、何故こんなに気になるのか分からないが、どうしても忘れられない。

でもとりあえず今日はテオは来る予定はないので、進捗状況はわからない、と思って大衆紙の一面をみたら、懐かしい人の姿絵が載っていた。

(アウグスト様)



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